『国に帰ります。さがさないで下さい』
「『帰ります』か…」
枕元に置いてあったメリーからの置き手紙を読み、ふと先日メリーが言っていたことを思い出す。
「私も一応外国人だし、外国人らしく『クリスマスの予定?恋人とじゃなくて家族と過ごします(ニッコリ)』みたいな空気出したいのよ」
地毛が金髪の外人で片言の日本語を喋るなら言い出してもおかしくないが、メリーは残念ながらそうではない。
「ということで、クリスマスは国に帰るから、一人で留守番よろしくね」
そもそも何処の国出身なのだろうか。
メリーが国に帰り、一緒に暮らしていた四畳半の部屋が少し広く感じる……こともなく、相変わらず狭かった。こんな部屋に二人で暮らしているなんて、周りから見たら正気の沙汰ではないだろう。
今日はクリスマスイブである。例年なら朝日とはメリーと一緒に遊びに行き、夜はお洒落なお店で食事をし、深夜は四畳半でよろしくやるのだが、今年はそうも行かない。
さて、今日一日をどう乗り越えようか。選択肢としては家に引きこもるか、外にでるかだが、花の女子大生である私がクリスマスイブと言う日に家に引きこもってウェブサーフィンやオカルトの情報を集めたりするのは、色々と終わっている気がする。
私はカフェに行くことにした。
「やぁ宇佐見ちゃん、今日は一人?」
いつものカフェには人がおらず、オーナーが一人で本を読んでいた。
「ええ、あの子は国に帰ったわ」
「あら、それは突然だね。喧嘩でもしたの?」
「そんなんじゃないわ。ただ、クリスマスだから帰るって」
オーナーはカプチーノを出すとまた本を読み始めてしまった。
「そうか、クリスマスだもんね。宇佐見ちゃんは何か予定あるの?」
「予定ねぇ……今から作るところよ」
さて、今日一日はなにをしようか。研究室では岡崎教授特製のショートケーキが振る舞われるという話もあるが、教授と囲んでケーキを食べるというのも「なんだかなぁ」と思ってしまうのでやめておこう。
滅多にないひとりきりのクリスマスイブを堪能するのも悪くないだろう。一人で煌びやかな街を歩き、一人でターキーを食べ、一人でホールケーキを買うのもいいだろう。そこで雨が夜更け過ぎに雪に変われば御の字だ。今、雨は降っていないが。
そうと決まれば夜までは街をぶらつこう。カプチーノを飲み干しコートを羽織り寒い街へと繰り出す。
「じゃあ、ごちそうさま。メリークリスマス」
メリークリスマスか。メリーは今頃何をしているのだろう。
あちらこちらにサンタの衣装を着た人がいる。何処の店の前にもツリーが飾っており、街は一色クリスマスの雰囲気である。一人でフラフラと街を歩くだけでクリスマスソングやカップル達の波に飲み込まれてしまいそうである。
歩いていると賛美歌が聞こえてくる。どうやら広場で合唱をしているようだ。イルミネーションが見られる夜までは時間がある。聞いていくのもいいだろう。それにしても今日迄キリスト教が残るのは流石と言ったものか。昔は日本独自の宗教もあったそうだが、今では初詣などの概念だけ残し、大元は廃れ、忘れ去られてしまった。
さて、すっかりと辺りも暗くなり、周りを見渡すとイルミネーションに飾られている。いつも通る道もクリスマスに一人で歩いていると違った景色が見えてくる。カップルや親子、そう言った温かいモノがよく目に入る。なんだか寂しい気持ちになる。去年はメリーと一緒にデートをして、ちょっとお高いレストランへディナーに行った。しかし、今年は両手をポッケに突っ込んで、コートに縮こまり街を歩いている。
なんでメリーは一緒にクリスマスを過ごしてくれなかったのだろうか。なんで今日私は外出してしまったのだろうか。引きこもっていればこんな気分にもならなかったはずだ。せめて岡崎教授のところでケーキを食べていれば気は紛れただろう。辺りが暗くなり、昼には持っていた一人に対する余裕も無くなった。
今日はもうケーキとターキーレッグを買って帰ろう。
結局周りに見えを張ってホールサイズのケーキを買ってしまった。今日この日に普通サイズのケーキを買うのは私には出来なかった。ターキーレッグもニ本買ってしまった。なんとも言えない孤独感が更に私を襲う。
家に帰ると四畳半の部屋には似合わない大きさのプレゼント箱が置いてあった。いや、四畳半じゃなくても何処だってこの大きさのプレゼント箱似合わないだろう。二畳ほどあるであろう正方形のプレゼント箱、いつもいい子にしている私ならサンタさんがプレゼントを持ってきてくれてもおかしくはないが、これほど大きいプレゼントを貰うほど聖人君子に過ごした覚えはない。
恐る恐るプレゼント箱のリボンを解く。蓋を持ち上げると思ったより軽く、ダンボールで作られているのがわかった。
中には等身大の人形が入っていた。フランス人形のようにきれいな顔立ちで、肌は白く、髪はサラサラしていて金髪であった。というよりも、メリーだった。ダンボールの中でぐっすりと眠っているが国に帰ってはずの相棒である。
私はダンボールの中にケーキとターキーを入れてそっと蓋を閉じた。寝返りで潰れないことを祈ろう。
「メリークリスマス、メリー」
「『帰ります』か…」
枕元に置いてあったメリーからの置き手紙を読み、ふと先日メリーが言っていたことを思い出す。
「私も一応外国人だし、外国人らしく『クリスマスの予定?恋人とじゃなくて家族と過ごします(ニッコリ)』みたいな空気出したいのよ」
地毛が金髪の外人で片言の日本語を喋るなら言い出してもおかしくないが、メリーは残念ながらそうではない。
「ということで、クリスマスは国に帰るから、一人で留守番よろしくね」
そもそも何処の国出身なのだろうか。
メリーが国に帰り、一緒に暮らしていた四畳半の部屋が少し広く感じる……こともなく、相変わらず狭かった。こんな部屋に二人で暮らしているなんて、周りから見たら正気の沙汰ではないだろう。
今日はクリスマスイブである。例年なら朝日とはメリーと一緒に遊びに行き、夜はお洒落なお店で食事をし、深夜は四畳半でよろしくやるのだが、今年はそうも行かない。
さて、今日一日をどう乗り越えようか。選択肢としては家に引きこもるか、外にでるかだが、花の女子大生である私がクリスマスイブと言う日に家に引きこもってウェブサーフィンやオカルトの情報を集めたりするのは、色々と終わっている気がする。
私はカフェに行くことにした。
「やぁ宇佐見ちゃん、今日は一人?」
いつものカフェには人がおらず、オーナーが一人で本を読んでいた。
「ええ、あの子は国に帰ったわ」
「あら、それは突然だね。喧嘩でもしたの?」
「そんなんじゃないわ。ただ、クリスマスだから帰るって」
オーナーはカプチーノを出すとまた本を読み始めてしまった。
「そうか、クリスマスだもんね。宇佐見ちゃんは何か予定あるの?」
「予定ねぇ……今から作るところよ」
さて、今日一日はなにをしようか。研究室では岡崎教授特製のショートケーキが振る舞われるという話もあるが、教授と囲んでケーキを食べるというのも「なんだかなぁ」と思ってしまうのでやめておこう。
滅多にないひとりきりのクリスマスイブを堪能するのも悪くないだろう。一人で煌びやかな街を歩き、一人でターキーを食べ、一人でホールケーキを買うのもいいだろう。そこで雨が夜更け過ぎに雪に変われば御の字だ。今、雨は降っていないが。
そうと決まれば夜までは街をぶらつこう。カプチーノを飲み干しコートを羽織り寒い街へと繰り出す。
「じゃあ、ごちそうさま。メリークリスマス」
メリークリスマスか。メリーは今頃何をしているのだろう。
あちらこちらにサンタの衣装を着た人がいる。何処の店の前にもツリーが飾っており、街は一色クリスマスの雰囲気である。一人でフラフラと街を歩くだけでクリスマスソングやカップル達の波に飲み込まれてしまいそうである。
歩いていると賛美歌が聞こえてくる。どうやら広場で合唱をしているようだ。イルミネーションが見られる夜までは時間がある。聞いていくのもいいだろう。それにしても今日迄キリスト教が残るのは流石と言ったものか。昔は日本独自の宗教もあったそうだが、今では初詣などの概念だけ残し、大元は廃れ、忘れ去られてしまった。
さて、すっかりと辺りも暗くなり、周りを見渡すとイルミネーションに飾られている。いつも通る道もクリスマスに一人で歩いていると違った景色が見えてくる。カップルや親子、そう言った温かいモノがよく目に入る。なんだか寂しい気持ちになる。去年はメリーと一緒にデートをして、ちょっとお高いレストランへディナーに行った。しかし、今年は両手をポッケに突っ込んで、コートに縮こまり街を歩いている。
なんでメリーは一緒にクリスマスを過ごしてくれなかったのだろうか。なんで今日私は外出してしまったのだろうか。引きこもっていればこんな気分にもならなかったはずだ。せめて岡崎教授のところでケーキを食べていれば気は紛れただろう。辺りが暗くなり、昼には持っていた一人に対する余裕も無くなった。
今日はもうケーキとターキーレッグを買って帰ろう。
結局周りに見えを張ってホールサイズのケーキを買ってしまった。今日この日に普通サイズのケーキを買うのは私には出来なかった。ターキーレッグもニ本買ってしまった。なんとも言えない孤独感が更に私を襲う。
家に帰ると四畳半の部屋には似合わない大きさのプレゼント箱が置いてあった。いや、四畳半じゃなくても何処だってこの大きさのプレゼント箱似合わないだろう。二畳ほどあるであろう正方形のプレゼント箱、いつもいい子にしている私ならサンタさんがプレゼントを持ってきてくれてもおかしくはないが、これほど大きいプレゼントを貰うほど聖人君子に過ごした覚えはない。
恐る恐るプレゼント箱のリボンを解く。蓋を持ち上げると思ったより軽く、ダンボールで作られているのがわかった。
中には等身大の人形が入っていた。フランス人形のようにきれいな顔立ちで、肌は白く、髪はサラサラしていて金髪であった。というよりも、メリーだった。ダンボールの中でぐっすりと眠っているが国に帰ってはずの相棒である。
私はダンボールの中にケーキとターキーを入れてそっと蓋を閉じた。寝返りで潰れないことを祈ろう。
「メリークリスマス、メリー」
聖夜の夜も二人ですよね。
いいぞ、もっと押せ!
四畳半に2人暮らしという私生活が気になる設定といい、メリーがいなくて予定が立たない蓮子といい素晴らしかったです
メリーの帰る家はやはりここなんですよね