もし私の航海が終わっても、このままずっと浮かんでいたい。もう失われることのない光が照らしてくれる、水底から引き揚げてくれた彼女が幻想を輝かせるのなら、私はいつまでも水面に反射する暖かな優しさに浸かっていたい。
溺れて沈んで回りまわって、ここまで来ることができた。私たちは聖を取り戻すことができて、やっと向こう岸に着くことができた。彼女に貰った船は立派な寺へと姿を変えて、あるべき彼女の居場所になった。
あまりにも眩しい輝きが私を包んでいく、もう何もいらない。
「やったあ、今日は調子が良いのかな、村紗一本も取れなかったでしょ!」
彼女は無邪気に喜んで、見物していたみんなに満面の笑みを振りまいている。
「一輪強いよ、次は雲山無しね」
まわりから笑いが起こる。一輪はそれは駄目、なんて言いながら聖の下へ駆け寄っていく。
「駄目ですねえ、もっとキビキビ動かなきゃ、まだまだ修行が足りませんよ」
星がにやつきながらやってくる。
「ふん、今日は調子が悪かったのさ、雲の調子が悪い日っていつだろう?」
「そりゃあ梅雨時じゃないですか? どんよりしてて」
「まだ先だね、遠いや」
「すぐですよ、いやだなあ梅雨。宝塔が湿気るんですよ」
「常に光らせてれば? レーザー出してさ」
「怒られるんですよ、それすると」
私の両手いっぱいに持ちきれない幸せが膨らんで、広がっていく。その中に溶けてしまえるのなら悪くない、みんなといるとそう思えてくる。
「さあ弾幕ごっこはそれくらいにして、朝のお勤めも頑張りましょう」
聖は自分の言葉に明るく答えながら持ち場へと散って行く皆の視線に、一つ一つ頷きながら最後に残った私を待っている。
彼女は私たちがここで生き続けることを、母親の様に何の疑問も抱かないでいる。
「さあ村紗、行きましょう」
それは少し、危うくも思える。
ある日、夢をみた。懐かしい船にいた、それはかつて私を救ってくれた光の船で、消えることの無い思い出だった。
けれどそこは私を縛っていた海ではなく川のようで、振り向くと殺風景な河原が見えた。
美しい夢、そんな風に思った。
目が覚めると蝉がうるさく鳴いている。梅雨はあっという間に過ぎて、雲山の調子が悪くなることもなく、結局あれから一輪に勝つことは無かった。最近碇や柄杓が重く、薄く感じる。弾幕ごっこはしばらくよそう、こんなことじゃ笑われてしまう。
朝の掃除を済ませた後、みんな思い思いに過ごしている。聖は人里へ托鉢に行ったようだ、最近は里の人間たちとも少しづつ打ち解けてきているらしい。もうここの妖怪が退治されることは無いだろう、巫女以外には。
きつい陽射しを遮るように伸びをする、瞳に入ってきたのはあまりにも白く、透明な指だった。
もともと血の抜けた色をしているけれど、まるで透けてしまいそうな薄い指だった。
私は何となく察しがついて、受け入れることもできた。地底に封じられていた時の、もう奪われるものすら無くなった安穏では無くて、満ち足りた毎日。
(ああ、やっぱり私は幽霊なんだ)
いつの間にか妖怪になっていたけれど、私の本質は舟幽霊だった。
(こんなに幸せなんだもん、聖も戻って来た。うん)
私は成仏しようとしている自分を当然だと思った。何も心配はいらない、これからは聖が舵をとってくれる、私の航海は終わろうとしているんだろう。
なんとなく、人里への道を歩いていた。別に聖に会いに行くわけではないけれど、他に行くところが無かった。あまりにも自然に自分の運命を受け入れた私は、寺のみんなと居ることを避けた。何でだろう?
果たしていつまでもつんだろう、未練が全く無いと言えば嘘になる。ただ、あまりにも満たされている。石ころを蹴りながら歩いた。
「何してるんだ空飛ぶ船長」
声をかけてきたのは、この前船に乗り込んできた魔法使いだった。
「ああ、久しぶりですね。あなたこそ何を?」
「あんまり暑いんで陽射しを避ける練習をしてたんだ」
「それってできます?」
「さあな、でももしできるようになれば誰にも弾幕ごっこで敗けなくなりそうだろ?」
「まあ、そうでしょうねえ」
彼女は気の無い返事に飽きたらしく、そのまま箒を命蓮寺の方へと向けた。
「じゃあな」
「うちへ御用ですか?」
「ああ、用ってほどじゃないから気をつかわないでくれ」
「めぼしいものはありませんよ」
ちぇっと舌打ちしてまた踵を返す。彼女は実に忙しそうだ。
「あ、そうだ、あの時はありがとうございました」
「ん? 何がだ?」
「ほら、聖を迎えに行った時、飛倉集めを手伝ってくれたじゃないですか」
「ああ、ありゃ珍しい未確認を追っかけてただけだ。結局珍しくもない板きれだったけどな」
「それでも助かりましたよ、改めてお礼を言いたくなって」
心からそう思った。彼女は恩人なのだ。
「なんだよ水臭いやつだな、まあおまえは水臭くて当然だっけ」
「やだなあ、私はもう船乗りじゃありませんよ」
「ああ、今は寺乗りなのか」
「お寺は動きませんけどね」
「そういえばあの船がそのまま寺になったんだよな、気の毒にな」
「何でです? 別に気の毒なんて」
「だって、お前の船なくなっちゃったんだろ?」
「いや、別にそれはいいんですよ、元々聖に貰ったものだから」
「それって要はお前のものじゃないか」
彼女らしい、そして人間らしい。私も元は人間だった。
「良いんですよ、私は元々幽霊ですから、いつ成仏しちゃうか分かんないですしね」
「幽霊の前は人間だろ? 忙しないやつだ」
「好きでそうなったわけでも無いけどね」
「で、成仏するのか? 良いことだな」
「あなたと話しているとしない気もしてきますね」
「まあ知らない内にいつの間にか消えるのも幻想の妖怪らしくていいな。それがいつか分かってしまえば退屈なだけだぜ、人間みたいにな」
陽射しは変わらずきつい。彼女はずっと被弾しっぱなしだ。
「それでそんなに顔色が悪いのか?」
「そうですか?」
「ああ、透けて見えるぜ」
ああ、やっぱり。
「今度寺に行って居なくなってたら線香の一本もあげてやるよ」
彼女はそう言って夏の日差しに消えていった。
自分の両手をかざしてみる、若干左手の方が薄いようだ。
何となく、これ以上寺から離れたくなくて、もと来た道を戻ることにした。さっきの石ころを見つけ出して、つっつきながら歩きだす。
蝉は元気に声を張り上げている。残り短い命を燃やしていることを思えば騒音とも思わないでいられる。せめて、彼らの最後を見届けるまでもってほしいな、なんて思う。
また、あの夢をみた。一人で船を操りながら、私は探していた。きっとここはあの川だろう。なら自分で船を漕ぐのはおかしなことだ。大声で叫んでみる。
「おーい! 私からはいくら取ろうってんだ! 寺にゃあんまり無いんだぞ!うちの聖は丸儲けどころか……」
強い揺れと、体が浮いたような感覚で目が覚めた。そしてすぐに本当に浮いていることに気がついた。この感覚はよく知っている。
「村紗ー起きてる?」
障子越しに一輪の声がすると同時に私は跳ね起きていた。間違い無い、お寺が、船が飛んでいるのだ。
「どうしたの!」
力を振り絞って障子を開けると、一面の雲が広がっていた。
「へへー、びっくりした?」
一輪が何故か得意げに笑っている。嬉しそうに、無邪気に笑っている。
「何があったの、どうして?」
「姐さんがね、良いこと思いついたからって」
何のことだろう、何故わざわざ?
「どういうこと?」
「まあまあ、姐さんが待ってるから甲板へ行こう」
彼女はそう言って強引に手を引っ張っていく。戸惑いながらも辺りを見回すと、何も変わっていない聖輦船に私はいた。
甲板にはもうみんな集まっていて、はしゃいでいた。一輪は船と並走している雲山のもとに飛び込んでいき、星は宝塔を光らせて鼠に怒られている。
聖が船首で私を待っていた。
「聖、どうしたんですか?」
「前に霊夢さんたちと話したでしょう、遊覧船事業もいいなって。今日はその試運転です」
風で彼女の髪が揺れる、雲を抜けて星空が広がってゆく。
「そうでしたか、びっくりしましたよ」
「びっくりさせようと思って」
美しい笑顔だった。星空の祝福を一身に受けているような、救われる笑顔だ。
「村紗、最近なんだか元気が無かったでしょう? 久々に船に乗れば元気になるかなあと」
驚いてしまった。彼女は私自身よりも私の衰えに早く気づいていた。
「それは……ありがとうございます」
胸が締め付けられる様に苦しい。
「でも、私が居なくてもこの船は動きますよ」
彼女はきょとんとしている。
「何を言ってるの? 船長がいないと船は動かないじゃないですか」
抑え込んでいたものがせり上がってくる。感情が、私の感情が溢れそうになる。
「聖」
「聖、あのね」
見つめながら私の言葉を待ってくれている。けれどもう言葉にすることが出来なかった。口を動かせば先に涙が止まらなくなるだろう。
そっと両腕を差し出した。
聖は困ったようにしばらく腕を見回した後、また私の顔に視線を移した。その表情をどう言えばいいんだろう。彼女はそっと、強く抱きしめてくれた。
「村紗」
「うん」
「村紗」
「うん、今日気づいたの」
聖は何で、と言った。それはあなたに貰った光のおかげなのだ。
悔いは無い。あとどれだけの時間があるのかは分からないけれど、向こう岸に着くまでの間は、今までの長い航路のどの時間よりも幸せなことを知っている。それを思うと少し力が戻ってくる気がした。
「聖、ありがとう」
「それは、私が言うことなんです」
彼女の小さな嗚咽が聞こえる。みんなに聞こえないようにありったけの力で抱きしめる。
「村紗、ありがとう。お願い、居なくならないで」
私が救われるのに必要なものは一つだけで良かった。それは船を沈める水のような恫喝では無くて、役目を終えた柄杓への暖かな言葉だ。
ああ、光が満ちてゆく。
溺れて沈んで回りまわって、ここまで来ることができた。私たちは聖を取り戻すことができて、やっと向こう岸に着くことができた。彼女に貰った船は立派な寺へと姿を変えて、あるべき彼女の居場所になった。
あまりにも眩しい輝きが私を包んでいく、もう何もいらない。
「やったあ、今日は調子が良いのかな、村紗一本も取れなかったでしょ!」
彼女は無邪気に喜んで、見物していたみんなに満面の笑みを振りまいている。
「一輪強いよ、次は雲山無しね」
まわりから笑いが起こる。一輪はそれは駄目、なんて言いながら聖の下へ駆け寄っていく。
「駄目ですねえ、もっとキビキビ動かなきゃ、まだまだ修行が足りませんよ」
星がにやつきながらやってくる。
「ふん、今日は調子が悪かったのさ、雲の調子が悪い日っていつだろう?」
「そりゃあ梅雨時じゃないですか? どんよりしてて」
「まだ先だね、遠いや」
「すぐですよ、いやだなあ梅雨。宝塔が湿気るんですよ」
「常に光らせてれば? レーザー出してさ」
「怒られるんですよ、それすると」
私の両手いっぱいに持ちきれない幸せが膨らんで、広がっていく。その中に溶けてしまえるのなら悪くない、みんなといるとそう思えてくる。
「さあ弾幕ごっこはそれくらいにして、朝のお勤めも頑張りましょう」
聖は自分の言葉に明るく答えながら持ち場へと散って行く皆の視線に、一つ一つ頷きながら最後に残った私を待っている。
彼女は私たちがここで生き続けることを、母親の様に何の疑問も抱かないでいる。
「さあ村紗、行きましょう」
それは少し、危うくも思える。
ある日、夢をみた。懐かしい船にいた、それはかつて私を救ってくれた光の船で、消えることの無い思い出だった。
けれどそこは私を縛っていた海ではなく川のようで、振り向くと殺風景な河原が見えた。
美しい夢、そんな風に思った。
目が覚めると蝉がうるさく鳴いている。梅雨はあっという間に過ぎて、雲山の調子が悪くなることもなく、結局あれから一輪に勝つことは無かった。最近碇や柄杓が重く、薄く感じる。弾幕ごっこはしばらくよそう、こんなことじゃ笑われてしまう。
朝の掃除を済ませた後、みんな思い思いに過ごしている。聖は人里へ托鉢に行ったようだ、最近は里の人間たちとも少しづつ打ち解けてきているらしい。もうここの妖怪が退治されることは無いだろう、巫女以外には。
きつい陽射しを遮るように伸びをする、瞳に入ってきたのはあまりにも白く、透明な指だった。
もともと血の抜けた色をしているけれど、まるで透けてしまいそうな薄い指だった。
私は何となく察しがついて、受け入れることもできた。地底に封じられていた時の、もう奪われるものすら無くなった安穏では無くて、満ち足りた毎日。
(ああ、やっぱり私は幽霊なんだ)
いつの間にか妖怪になっていたけれど、私の本質は舟幽霊だった。
(こんなに幸せなんだもん、聖も戻って来た。うん)
私は成仏しようとしている自分を当然だと思った。何も心配はいらない、これからは聖が舵をとってくれる、私の航海は終わろうとしているんだろう。
なんとなく、人里への道を歩いていた。別に聖に会いに行くわけではないけれど、他に行くところが無かった。あまりにも自然に自分の運命を受け入れた私は、寺のみんなと居ることを避けた。何でだろう?
果たしていつまでもつんだろう、未練が全く無いと言えば嘘になる。ただ、あまりにも満たされている。石ころを蹴りながら歩いた。
「何してるんだ空飛ぶ船長」
声をかけてきたのは、この前船に乗り込んできた魔法使いだった。
「ああ、久しぶりですね。あなたこそ何を?」
「あんまり暑いんで陽射しを避ける練習をしてたんだ」
「それってできます?」
「さあな、でももしできるようになれば誰にも弾幕ごっこで敗けなくなりそうだろ?」
「まあ、そうでしょうねえ」
彼女は気の無い返事に飽きたらしく、そのまま箒を命蓮寺の方へと向けた。
「じゃあな」
「うちへ御用ですか?」
「ああ、用ってほどじゃないから気をつかわないでくれ」
「めぼしいものはありませんよ」
ちぇっと舌打ちしてまた踵を返す。彼女は実に忙しそうだ。
「あ、そうだ、あの時はありがとうございました」
「ん? 何がだ?」
「ほら、聖を迎えに行った時、飛倉集めを手伝ってくれたじゃないですか」
「ああ、ありゃ珍しい未確認を追っかけてただけだ。結局珍しくもない板きれだったけどな」
「それでも助かりましたよ、改めてお礼を言いたくなって」
心からそう思った。彼女は恩人なのだ。
「なんだよ水臭いやつだな、まあおまえは水臭くて当然だっけ」
「やだなあ、私はもう船乗りじゃありませんよ」
「ああ、今は寺乗りなのか」
「お寺は動きませんけどね」
「そういえばあの船がそのまま寺になったんだよな、気の毒にな」
「何でです? 別に気の毒なんて」
「だって、お前の船なくなっちゃったんだろ?」
「いや、別にそれはいいんですよ、元々聖に貰ったものだから」
「それって要はお前のものじゃないか」
彼女らしい、そして人間らしい。私も元は人間だった。
「良いんですよ、私は元々幽霊ですから、いつ成仏しちゃうか分かんないですしね」
「幽霊の前は人間だろ? 忙しないやつだ」
「好きでそうなったわけでも無いけどね」
「で、成仏するのか? 良いことだな」
「あなたと話しているとしない気もしてきますね」
「まあ知らない内にいつの間にか消えるのも幻想の妖怪らしくていいな。それがいつか分かってしまえば退屈なだけだぜ、人間みたいにな」
陽射しは変わらずきつい。彼女はずっと被弾しっぱなしだ。
「それでそんなに顔色が悪いのか?」
「そうですか?」
「ああ、透けて見えるぜ」
ああ、やっぱり。
「今度寺に行って居なくなってたら線香の一本もあげてやるよ」
彼女はそう言って夏の日差しに消えていった。
自分の両手をかざしてみる、若干左手の方が薄いようだ。
何となく、これ以上寺から離れたくなくて、もと来た道を戻ることにした。さっきの石ころを見つけ出して、つっつきながら歩きだす。
蝉は元気に声を張り上げている。残り短い命を燃やしていることを思えば騒音とも思わないでいられる。せめて、彼らの最後を見届けるまでもってほしいな、なんて思う。
また、あの夢をみた。一人で船を操りながら、私は探していた。きっとここはあの川だろう。なら自分で船を漕ぐのはおかしなことだ。大声で叫んでみる。
「おーい! 私からはいくら取ろうってんだ! 寺にゃあんまり無いんだぞ!うちの聖は丸儲けどころか……」
強い揺れと、体が浮いたような感覚で目が覚めた。そしてすぐに本当に浮いていることに気がついた。この感覚はよく知っている。
「村紗ー起きてる?」
障子越しに一輪の声がすると同時に私は跳ね起きていた。間違い無い、お寺が、船が飛んでいるのだ。
「どうしたの!」
力を振り絞って障子を開けると、一面の雲が広がっていた。
「へへー、びっくりした?」
一輪が何故か得意げに笑っている。嬉しそうに、無邪気に笑っている。
「何があったの、どうして?」
「姐さんがね、良いこと思いついたからって」
何のことだろう、何故わざわざ?
「どういうこと?」
「まあまあ、姐さんが待ってるから甲板へ行こう」
彼女はそう言って強引に手を引っ張っていく。戸惑いながらも辺りを見回すと、何も変わっていない聖輦船に私はいた。
甲板にはもうみんな集まっていて、はしゃいでいた。一輪は船と並走している雲山のもとに飛び込んでいき、星は宝塔を光らせて鼠に怒られている。
聖が船首で私を待っていた。
「聖、どうしたんですか?」
「前に霊夢さんたちと話したでしょう、遊覧船事業もいいなって。今日はその試運転です」
風で彼女の髪が揺れる、雲を抜けて星空が広がってゆく。
「そうでしたか、びっくりしましたよ」
「びっくりさせようと思って」
美しい笑顔だった。星空の祝福を一身に受けているような、救われる笑顔だ。
「村紗、最近なんだか元気が無かったでしょう? 久々に船に乗れば元気になるかなあと」
驚いてしまった。彼女は私自身よりも私の衰えに早く気づいていた。
「それは……ありがとうございます」
胸が締め付けられる様に苦しい。
「でも、私が居なくてもこの船は動きますよ」
彼女はきょとんとしている。
「何を言ってるの? 船長がいないと船は動かないじゃないですか」
抑え込んでいたものがせり上がってくる。感情が、私の感情が溢れそうになる。
「聖」
「聖、あのね」
見つめながら私の言葉を待ってくれている。けれどもう言葉にすることが出来なかった。口を動かせば先に涙が止まらなくなるだろう。
そっと両腕を差し出した。
聖は困ったようにしばらく腕を見回した後、また私の顔に視線を移した。その表情をどう言えばいいんだろう。彼女はそっと、強く抱きしめてくれた。
「村紗」
「うん」
「村紗」
「うん、今日気づいたの」
聖は何で、と言った。それはあなたに貰った光のおかげなのだ。
悔いは無い。あとどれだけの時間があるのかは分からないけれど、向こう岸に着くまでの間は、今までの長い航路のどの時間よりも幸せなことを知っている。それを思うと少し力が戻ってくる気がした。
「聖、ありがとう」
「それは、私が言うことなんです」
彼女の小さな嗚咽が聞こえる。みんなに聞こえないようにありったけの力で抱きしめる。
「村紗、ありがとう。お願い、居なくならないで」
私が救われるのに必要なものは一つだけで良かった。それは船を沈める水のような恫喝では無くて、役目を終えた柄杓への暖かな言葉だ。
ああ、光が満ちてゆく。
> 彼女は無邪気に喜んで、見物していたみんなに満面の笑みを振りまいている。
>「一輪強いよ、次は雲山無しね」
一行目:一輪 二行目:白蓮の所作 三行目:村紗 で良いのですよね?
二行目が一行目に掛かってしまう為、セリフが白蓮のものに若しくは所作が一輪のものに見えてしまうかも。私はここで違和を感じ戸惑いました。
>さっきの石ころを見つけ出して、つっつきながら歩きだす。
確かに里に向かう描写で、石ころを蹴りながら歩いたとありますが。あまりにあっさり書かれ過ぎていて印象に残りらなかった。スクロールさせて戻って確認するぐらい。
余分な物を極力削り落とし大事な言葉だけを残す簡潔さが作者様のスタイルなのは分かりますし、その点に文句はありませんが少し気になったので。
魔理沙の気遣いがこころに沁みる。
ナズーリン…確かにネズミって言ってたけどさ、不意打ちで笑ってしまった。
元々5倍くらいだったんですが、今回はギリギリまで削った方が映えるなと思ったんですけど、未熟でしたね、ありがとうございました。
良い雰囲気でした。
当たりだ
本当に感動した