地上からどれほど遠いだろうか。
10リュー、20リュー、あるいは35リューもあるかもしれない。
陽も差さない、地底の洞窟。
渡る者さえ途絶えた橋。
ここは幻想郷の地下。道は旧地獄街道へと続いている。
橋には雨こそ降っていなかったが、Sentimentalismに十分に影響するほどの寂れ方だ。
「暇ねえ」
嫉妬に燃えた美しい髪とジェラシー色の瞳を持った橋姫はさぞ恨めしそうに呟いた。
以前、脳天気そうな人間が来たこともあったが、すでに思い出だ。
別に返答を期待していたわけではなかった。そもそも渡る者が居ないのだから。
「人いないもんね」
橋姫は意外にも返ってきた言葉に少なからず吃驚した。
だが、その方を見るわけでもなく、橋姫は虚空に話しかける。
「ええ、これは盧溝橋でも渡月橋でも明日に架ける橋でも無いからね」
そういうと声は猫のように笑った。
「貴女は外には出ないの?」
外に出られない、というと語弊が在るかも知れない。
橋に居ようが、よもやここを通る地上の妖怪や人間は居ないだろう。
だから此処に居なくたって別にどうってことない。
地上との縁を絶った妖怪しかここにはいないのだ。
「気が向かないのよ」
「んもー。愉しいよ?地上」
無邪気な声は聴いていて心に妬ましい。
「地上に行った事あるの?」
声はその質問にうふふ、と微笑んで応える。
「まあね。地上は割と油が高値で売れるよ!」
あまりに快活に声が言うものだから、橋姫は思わず笑ってしまった。
地底の者にしてはあまりにも無垢だ。
何色にも染まらない、だが独特の個性を放つ、まるで子供の様な眩しさだ。
「そんなに愉しい所なのね、羨ましいわ」
「だったら行けばいいじゃん。おすすめはね、里の団子屋さんだよー」
さっき陽も差さない地底、と言う表現を用いたが、ここらでは幽かに太陽光線が降り注ぐ。
木漏れ日のような柔らかさと風情と退屈さを持つ何の変哲もない光子だ。
だから、此処に限っては、薄ら陽の灯る寂れた地底橋、と言った方が正しいのかもしれない。
声の主はまさに太陽光線の如きか。
「里、ねぇ。懐かしいわ」
「あら?元地上の人?」
「嫉妬の海に溺れただけよ」
せせらぎが聞こえる。
橋姫は声の主の方向を見るわけでもない。
「でも、助かったみたいね」
「そう見える?」
「だって溺死しちゃったら嫉妬神にでもなっちゃうでしょう?」
「666階は溺死した内に入らないのね。まだ大陸棚かしら」
ふいに声は何かを思い出したような口ぶりで喋り始めた。
「それじゃ、わけのわからないものが私を待ってる気がするからまたねー」
「貴船には寄らないようにね」
「心配ご無用!また生きてる間に逢おうねー」
そうすると声は光差す希望と未来へと、逆さ摩天楼を駆け上がっていった。
声を送って、橋姫は安堵とも呆れとも言えない溜息を吐く。
「あんな生き方ができるなんて妬み通り越して尊敬に値しそうだわ」
自由の魂。希望の塊。
そんな毎日が楽しそうな生き方に橋姫は少しながらも羨望を感じていた。
別に今の日々が悪いものだとは言わない。
だが、どのような形であれ、人間も、妖怪も、亡霊も、楽しそうな『わけのわからないもの』に触れてみたいと思っているのであろう。
__妬ましいわね。
そうして、影を落とす地底の方へ意識を戻す。
橋の下を流れる水は、嫉妬の炎と地上の光を受けて美しく煌めいている。
水は、石を運び、岸を削り、大地を生み、そしてどこへともなく流れゆく。
橋姫には、そんな無為なままの水を、あの声と重ね合わせた。
今日も地底は薄暗い。今日も旧地獄街道は嫌われ者で賑わう。
そして、今日も誰が通るでもない橋。
橋姫は、今日もそこに佇み、時と共に地底を流れる。
今日も水は変わらず、石ころを運ぶ。
今日、ただ一つ変わったことと言えば、それは、純粋な希望との出会いであった。
……小石の行方?
そんなの誰も知らないわ。
10リュー、20リュー、あるいは35リューもあるかもしれない。
陽も差さない、地底の洞窟。
渡る者さえ途絶えた橋。
ここは幻想郷の地下。道は旧地獄街道へと続いている。
橋には雨こそ降っていなかったが、Sentimentalismに十分に影響するほどの寂れ方だ。
「暇ねえ」
嫉妬に燃えた美しい髪とジェラシー色の瞳を持った橋姫はさぞ恨めしそうに呟いた。
以前、脳天気そうな人間が来たこともあったが、すでに思い出だ。
別に返答を期待していたわけではなかった。そもそも渡る者が居ないのだから。
「人いないもんね」
橋姫は意外にも返ってきた言葉に少なからず吃驚した。
だが、その方を見るわけでもなく、橋姫は虚空に話しかける。
「ええ、これは盧溝橋でも渡月橋でも明日に架ける橋でも無いからね」
そういうと声は猫のように笑った。
「貴女は外には出ないの?」
外に出られない、というと語弊が在るかも知れない。
橋に居ようが、よもやここを通る地上の妖怪や人間は居ないだろう。
だから此処に居なくたって別にどうってことない。
地上との縁を絶った妖怪しかここにはいないのだ。
「気が向かないのよ」
「んもー。愉しいよ?地上」
無邪気な声は聴いていて心に妬ましい。
「地上に行った事あるの?」
声はその質問にうふふ、と微笑んで応える。
「まあね。地上は割と油が高値で売れるよ!」
あまりに快活に声が言うものだから、橋姫は思わず笑ってしまった。
地底の者にしてはあまりにも無垢だ。
何色にも染まらない、だが独特の個性を放つ、まるで子供の様な眩しさだ。
「そんなに愉しい所なのね、羨ましいわ」
「だったら行けばいいじゃん。おすすめはね、里の団子屋さんだよー」
さっき陽も差さない地底、と言う表現を用いたが、ここらでは幽かに太陽光線が降り注ぐ。
木漏れ日のような柔らかさと風情と退屈さを持つ何の変哲もない光子だ。
だから、此処に限っては、薄ら陽の灯る寂れた地底橋、と言った方が正しいのかもしれない。
声の主はまさに太陽光線の如きか。
「里、ねぇ。懐かしいわ」
「あら?元地上の人?」
「嫉妬の海に溺れただけよ」
せせらぎが聞こえる。
橋姫は声の主の方向を見るわけでもない。
「でも、助かったみたいね」
「そう見える?」
「だって溺死しちゃったら嫉妬神にでもなっちゃうでしょう?」
「666階は溺死した内に入らないのね。まだ大陸棚かしら」
ふいに声は何かを思い出したような口ぶりで喋り始めた。
「それじゃ、わけのわからないものが私を待ってる気がするからまたねー」
「貴船には寄らないようにね」
「心配ご無用!また生きてる間に逢おうねー」
そうすると声は光差す希望と未来へと、逆さ摩天楼を駆け上がっていった。
声を送って、橋姫は安堵とも呆れとも言えない溜息を吐く。
「あんな生き方ができるなんて妬み通り越して尊敬に値しそうだわ」
自由の魂。希望の塊。
そんな毎日が楽しそうな生き方に橋姫は少しながらも羨望を感じていた。
別に今の日々が悪いものだとは言わない。
だが、どのような形であれ、人間も、妖怪も、亡霊も、楽しそうな『わけのわからないもの』に触れてみたいと思っているのであろう。
__妬ましいわね。
そうして、影を落とす地底の方へ意識を戻す。
橋の下を流れる水は、嫉妬の炎と地上の光を受けて美しく煌めいている。
水は、石を運び、岸を削り、大地を生み、そしてどこへともなく流れゆく。
橋姫には、そんな無為なままの水を、あの声と重ね合わせた。
今日も地底は薄暗い。今日も旧地獄街道は嫌われ者で賑わう。
そして、今日も誰が通るでもない橋。
橋姫は、今日もそこに佇み、時と共に地底を流れる。
今日も水は変わらず、石ころを運ぶ。
今日、ただ一つ変わったことと言えば、それは、純粋な希望との出会いであった。
……小石の行方?
そんなの誰も知らないわ。
しみじみとした作品でした。
ふと声をかけたこいしちゃんは希望なのか……。
好きですこういうの ひゃっほう
パルスィの浅い憂鬱が溜息が、よく出てました。
キャラの容姿を知っていないと理解できない様な表現は、なるべく控えた方がいいと思う。
私みたいに違和感を覚えちゃう読者がいるかもです。
いつものような日々、そしてほんの少しの変化。