サキサキサキ
夕闇の森のどこかでセロリを食むように骨を喰らっていた。烏丸は確かに骨が多い。手羽先は骨までいただいたが、頭蓋が硬い。
頭を吐き出して踏み砕く。
這いつくばり、はみ出た脳髄をすする。
中身まで不味い。
「これなら雀のほうがマシね」泥みたいな食感の牛脂、それが感想。
やはり脳なら豚が無難だ、冒険はするものではない。腹も膨れてしまったし今日はここらで引き上げよう。
ガサッ
茂みから小男が現れた。「あ、あああ」腰を抜かしているらしい。
「あー…食わない、食わないからさっさと帰れ」腿を軽く蹴ったが、男はあーあー唸りながら逃げようとはしなかった。よく見ると脚が折れ曲がっていた。喉も潰されていたらしく、呻くしかできなかったのか。キリで無数に穴の空けられた喉を見て確信した。
乳母捨てだ。戻ってこれぬように足をへし折り、叫び声に気づいて里に連れ帰る奴がいないように喉を潰す。
人間もなかなかやるものだな。喉から血が溢れでないのは塗り薬か。欲しいな、調理の際に捗りそうだ。
小男は涙を溢しながら足をばたつかせる。土の上で犬かき、滑稽。
にしてもこの状態でまだ生きようとする執着は人間ならでは、か。それともこの芋虫にもなにか思い残しがあるのだろうか。
目尻に向けて爪先を当てる。
「おい、人間。お前は生きたいか?」久々に試してみようか。
男は歯を小刻みに鳴らして、こちらを見た。
「私は今、人一人を食えるほどの空腹を持ち合わせていないんだ。だからお前は喰わないでいてやる」そうだな、と続けて懐に入れていたお握りを差し出す。
「良ければ食らえ」毒でも入っているのかと疑いもせずに小男は握り飯に食らい付いた。
一心不乱に食らいついていた男の口が止まる。中の具が噛めないらしい。歯と舌も抉り抜かれていた。
「お前さん、余程の恨みを買っていたようだね」仕方ないな、私は具の肉を取り上げると口で咀嚼した。そして男の口へペースト状のタンパク質を注いだ。
「うまいだろう、これはヤギの肉だ」おや、聞いていないね。ぼーっとしてら。
戻ってこい。足の甲で溝内を蹴りあげる。爪先で蹴ると内臓を潰しかねない。
「あぉあ"あ"あ"」蹲るとさらに小さく見えた。
「ともかく、これで敵意はないことは証明されたかな?私は貴方と契約をしたいんだ」
目をひくつかせているが先程よりは落ち着いたようだ。
「いきなりこんなこと言われてもわからんだろうから話だけでも聞いてくれるか?」
今度は私と目を合わせて頷いた。
「ありがとう。」
「それじゃあ、なにから話そうか、妖怪は人を食らうだろうーーーーーーー
話を続けて数十分、小男は私の契約を飲んだ。
内容はこれから私が彼のもとに食料を運ぶ、私としては太った老人の肉が欲しい。
私が妖怪だという証明と首を振るか頷くかでしかコミュニケーションを取れないことで時間がかかった。
男もこのまま飢死によりは飯を食らい続けて死んだ方が本望だろう。回復して逃げられないように枷をして木に繋げておいた。
条件は私が運んだ食料を残さずに食べきること。そして私は太った肉が欲しい、とあいつはおもっているだろう。
あの契約は嘘だ。
太っていようが老人の肉なんて歯触りが悪いものを食らいたくなどない。
たしか昔、稗田の一族の文献の中で読んだことがある。妖怪には妖怪として産まれる者と人や動物の死後に魂が妖怪として変わり、アヤカシになり得てしまった者がいる。
だが、人として生きながら妖怪になった者がいたという。
人が妖怪へ成り代わる条件として人肉を食らうというのがある。
それは同族の肉を食らうということではない。
同族の魂を取り込むのだ。
不老不死になろうとそれを実行したものがいたそうだが体には何の変化も訪れず、結局、頓所の晒し首の行列に並んだらしい。
私は常闇の妖怪と呼ばれている人喰い妖怪。闇を操る程度の能力がある。
この闇の原動力は人の抱える負の感情だ。私は魂ごと人を食らう。私が展開した闇の中で死んだ人間の魂は浮き世から飛び立つことはない。
それが私の糧。
実は先程食わせた握り飯の具はヤギの肉ではない。彼がおそらく食べたことのない物を適当に行っただけだ。
今までこれを食べた人間は皆、皮膚が腐ったように焼けただれて、ペンキのように剥がれて小さくなって死んでいった。おそらくは魂の恨み辛みに耐えきれなかったのだろう。
しかし、目の前のそれに負けない負を背負った彼ならばどうだろうか。
半ば諦めていた実験の兆しが見えた気がしたのだ。
そして結果は受容。取り込んだのだ。
説明をしているときに口角がつり上がりを押さえるのに努力を要した。
これで
私は子を持つことができる。
「それじゃあね」小男は目の前の妖怪が遠ざかる踵の音を聞いていた
夕闇の森のどこかでセロリを食むように骨を喰らっていた。烏丸は確かに骨が多い。手羽先は骨までいただいたが、頭蓋が硬い。
頭を吐き出して踏み砕く。
這いつくばり、はみ出た脳髄をすする。
中身まで不味い。
「これなら雀のほうがマシね」泥みたいな食感の牛脂、それが感想。
やはり脳なら豚が無難だ、冒険はするものではない。腹も膨れてしまったし今日はここらで引き上げよう。
ガサッ
茂みから小男が現れた。「あ、あああ」腰を抜かしているらしい。
「あー…食わない、食わないからさっさと帰れ」腿を軽く蹴ったが、男はあーあー唸りながら逃げようとはしなかった。よく見ると脚が折れ曲がっていた。喉も潰されていたらしく、呻くしかできなかったのか。キリで無数に穴の空けられた喉を見て確信した。
乳母捨てだ。戻ってこれぬように足をへし折り、叫び声に気づいて里に連れ帰る奴がいないように喉を潰す。
人間もなかなかやるものだな。喉から血が溢れでないのは塗り薬か。欲しいな、調理の際に捗りそうだ。
小男は涙を溢しながら足をばたつかせる。土の上で犬かき、滑稽。
にしてもこの状態でまだ生きようとする執着は人間ならでは、か。それともこの芋虫にもなにか思い残しがあるのだろうか。
目尻に向けて爪先を当てる。
「おい、人間。お前は生きたいか?」久々に試してみようか。
男は歯を小刻みに鳴らして、こちらを見た。
「私は今、人一人を食えるほどの空腹を持ち合わせていないんだ。だからお前は喰わないでいてやる」そうだな、と続けて懐に入れていたお握りを差し出す。
「良ければ食らえ」毒でも入っているのかと疑いもせずに小男は握り飯に食らい付いた。
一心不乱に食らいついていた男の口が止まる。中の具が噛めないらしい。歯と舌も抉り抜かれていた。
「お前さん、余程の恨みを買っていたようだね」仕方ないな、私は具の肉を取り上げると口で咀嚼した。そして男の口へペースト状のタンパク質を注いだ。
「うまいだろう、これはヤギの肉だ」おや、聞いていないね。ぼーっとしてら。
戻ってこい。足の甲で溝内を蹴りあげる。爪先で蹴ると内臓を潰しかねない。
「あぉあ"あ"あ"」蹲るとさらに小さく見えた。
「ともかく、これで敵意はないことは証明されたかな?私は貴方と契約をしたいんだ」
目をひくつかせているが先程よりは落ち着いたようだ。
「いきなりこんなこと言われてもわからんだろうから話だけでも聞いてくれるか?」
今度は私と目を合わせて頷いた。
「ありがとう。」
「それじゃあ、なにから話そうか、妖怪は人を食らうだろうーーーーーーー
話を続けて数十分、小男は私の契約を飲んだ。
内容はこれから私が彼のもとに食料を運ぶ、私としては太った老人の肉が欲しい。
私が妖怪だという証明と首を振るか頷くかでしかコミュニケーションを取れないことで時間がかかった。
男もこのまま飢死によりは飯を食らい続けて死んだ方が本望だろう。回復して逃げられないように枷をして木に繋げておいた。
条件は私が運んだ食料を残さずに食べきること。そして私は太った肉が欲しい、とあいつはおもっているだろう。
あの契約は嘘だ。
太っていようが老人の肉なんて歯触りが悪いものを食らいたくなどない。
たしか昔、稗田の一族の文献の中で読んだことがある。妖怪には妖怪として産まれる者と人や動物の死後に魂が妖怪として変わり、アヤカシになり得てしまった者がいる。
だが、人として生きながら妖怪になった者がいたという。
人が妖怪へ成り代わる条件として人肉を食らうというのがある。
それは同族の肉を食らうということではない。
同族の魂を取り込むのだ。
不老不死になろうとそれを実行したものがいたそうだが体には何の変化も訪れず、結局、頓所の晒し首の行列に並んだらしい。
私は常闇の妖怪と呼ばれている人喰い妖怪。闇を操る程度の能力がある。
この闇の原動力は人の抱える負の感情だ。私は魂ごと人を食らう。私が展開した闇の中で死んだ人間の魂は浮き世から飛び立つことはない。
それが私の糧。
実は先程食わせた握り飯の具はヤギの肉ではない。彼がおそらく食べたことのない物を適当に行っただけだ。
今までこれを食べた人間は皆、皮膚が腐ったように焼けただれて、ペンキのように剥がれて小さくなって死んでいった。おそらくは魂の恨み辛みに耐えきれなかったのだろう。
しかし、目の前のそれに負けない負を背負った彼ならばどうだろうか。
半ば諦めていた実験の兆しが見えた気がしたのだ。
そして結果は受容。取り込んだのだ。
説明をしているときに口角がつり上がりを押さえるのに努力を要した。
これで
私は子を持つことができる。
「それじゃあね」小男は目の前の妖怪が遠ざかる踵の音を聞いていた
でもテーマだけでは深みがないなぁ…
判子絵ならぬ判子SS
次回は面白さゆえに荒れるくらいのをオナシャス! 期待してます
ただ、だんだん抽象的な話になって、そのまま終わってしまったのが残念なところです
行動レベルに繋がったら面白くなっていたかと思います
嫌いじゃないです。もう少し雰囲気があると良かったかなー。