Coolier - 新生・東方創想話

「魔女達の舞踏会~カテル・ゴレ」

2013/07/10 02:57:20
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魔法の森は、幻想郷の中では奇異な場所である。
普通の人間が入れば、瘴気に侵されて廃人になるか、そのままそこに生える茸や奇怪な植物の苗床になる。
そんな森でも、因縁のある場所に人が自然に集う様に、不思議と特定の人間が集まってくる。
その瘴気に含まれるとある茸の成分は、人の思考の部分を刺激し、普段では考えられないような公式を編み出す。
これを術式に当てはめて行使すれば魔法となったり、または式神を行使する為の理となり、呪術として護符をはじめとする
魔法の品々を生み出す源となる。

故に「魔法の森」と呼ばれているが、この森はその名前の通り、魔法使いを志す者の聖地にもなっている。
しかし、『森に好かれる者』と言われる『魔法使い』は、その森に住む二人の魔女を除いて、未だ出た事は無い。

時折森のどこかで、爆発音と共に煙が上がったりもするが、誰も気に留めない。
魔力の暴発で消し飛んだ廃墟、それと散らばった道具があるだけだから。
手癖の悪い白黒の魔法使いがその跡を良く漁る姿を見かける、とは同じ森に住む人形師兼魔法使いの言だが、
その少し後に、森の近くの雑貨屋ーーー香霖堂に行くと、高確率で新品が並んでいる。仕入先は言わずもがなだろう。

そんなある日のこと。

洋風の洒落た外観の一軒家。庭にある日傘付きのテーブルセットで、優雅にティーカップを傾ける人影が居る。
金色のウェーブのかかるショートヘアに青いワンピースと白いエプロン、揃いの色のクローク。
『森に好かれたモノ』の一人、アリス・マーガトロイド。
その周りを忙しそうにチョコチョコ動き回るのは、彼女の作った半自律人形「上海」。
アリスの作った人形達の統率を勤める他、雑用として動き回ったりと一番の働き者。

カップに紅茶を入れていたその上海が空を見つめる。
「どうしたの?」
アリスが問うと、上海は空のかなたを指した。
最初は何もなさそうな空に、黒い点が現われ、勢い良く近づいてくる。
「…平和なティータイムも終わりのようね…。」
少しうんざりしたように呟き、アリスは近づいてくるものを待った。
「よーう。」
能天気な声と共に箒にまたがってやってきたのは、もう一人の『森に好かれたモノ』、霧雨魔理沙。
「そろそろ茶を飲んでる頃だろうと思って、お使いがてらお茶と菓子を頂きに来たぜ。」
ズケズケと遠慮の無い魔理沙は、同じ魔法使いであるアリスにとっては、ある意味信頼できる仲間であると共に厄介の種でもある。
「相変わらず落ち着きが無いわね。これがただのティータイムじゃなくて私の魔法式の考案中だったら、即つまみ出してるわよ。」
少し不機嫌そうに言うアリスに、
「それだったら、外でのん気に茶なんか飲んでいないだろ?お前の思考の癖くらい少しは知ってるさ。」
魔理沙のその言葉に、アリスは眉を僅かにひそめる。
「だったら、家で一回着替えてからうちに来る方が良いと言うのも知ってて欲しいわね。また実験に失敗した未熟者の家でも探してたんでしょ?
 あなたが意識しなくても、纏ってる臭いは誤魔化せないわ…血と煤の臭いはね。」
アリスの言葉を無視して、魔理沙は遠慮もなくアリスの向かい側に座り、帽子を取る。
「別に殺しはしてないし、持ち主が居ない物を拾ってるだけだぜ。それだったら私が使った方が役に立つし、香霖だって品の仕入れが捗るってモンさ。」
そんな彼女を一瞥し、アリスはティーカップを傾ける。
「詭弁ね。そう言って紅魔館の本を無断拝借した上に返してない。と、何故か向こうから私に苦情が来てるわよ。」
「そりゃそうだ。私が死ぬまで借りて置くだけだからな。」
悪びれもせず堂々と窃盗まがいや窃盗そのものをやってのける、アリスの目の前の魔法使いは一部で、要注意人物としてマークされている。
迷いの竹林以外の所で弾幕騒ぎがあったりする場合、大体この白黒の魔法使いが関わってる事を知らぬ者は、まず居ない。
「パチュリーから伝言をもらっているわ。」
アリスの言葉に、魔理沙は即答した。
「本なら返すのはまだ先だぜ。解読が進んでないからな…所で、来客に茶は出してくれないのか?」
図々しい要求に、
「お客様はあからさまな要求や強制をしないからお客さまなのよ。あなたはただの押し掛けとタカリだわ。」
そう言ってアリスは上海に新しい茶葉を用意するように言って、言葉を続けた。
「そしてパチュリーからの伝言はこうよ。『無断で持っていった紫水晶の鏡とアレキサンドライトの護符を今日を含めて二日以内に返却のこと。』」
その言葉に魔理沙は意外な顔をして言った。
「一週間借りるってちゃんと断って持ってったのに、無断とは言いがかりだな?」
「あなたのその思考形態が、元から間違ってるって言うことよ。」
涼しい顔をして言ってのけるアリスに、魔理沙は不満を露にした。
「常識が通用しない世界で常識を説く事自体が間違いだぜ。」
自分の事をとことん棚に上げ、都合のいい事を愚痴る魔理沙の前に、ティーカップが置かれる。
「お、サンキュ。」
運んできた上海に礼を言って、ティーカップを持った魔理沙は、顔をしかめる。
「これ、アールグレイだろ?」
「そうよ?良く知ってるわね。」
「これって普通、アイスで出すものであって、冷まさないで飲むものじゃないよな?」
しかめ顔の魔理沙とは対照的な涼しい顔でアリスは答える。
「癖はあるけどそう言う飲み方もあるわ。私はしないけどね。ジャスミン茶にミルクを入れたものを出された方がいい?」
ますます顔をしかめて、それでも魔理沙は出されたお茶に口付ける。
「…レモンでも持ってくるべきだったぜ…。」
紅茶の渋さと香りに顔をしかめてブツブツと愚痴る。この風味と味は何度出されても慣れない。
それはアリスのティータイムを邪魔した意趣返しだという事を、魔理沙は知らない。
自分に対しての「因果応報」と言う言葉が無いのだから気づかないのが当たり前なのだ。本人もそれで結構痛い目にあっているはずなのだが、
そんなことはすぐ忘れてしまうので反省してもあまり役に立っていない。

だが、唯一魔法の研究にだけ、それは当てはまる。故に彼女は優れた魔法使いなのだ。
しかし、何故このような性格でも『森に好かれる』のかは幻想郷不思議伝説の一つとなっている。

「そう言えばアリス、最近はやっぱ人形造りの研究ばっかか?」
ふと、気がついた感じで魔理沙が訊いた。
アリスは静かに、
「最近は術式や魔法式の構築と、その解が当てはまるかの試行錯誤ばかりだわ。神ならぬ身で自律人形…人と同じようなものを造るんだから
 そう一筋縄には行かない。本来なら相当の禁忌を犯してるでしょうね。」
物憂げに答え、また紅茶を飲む。魔理沙は頭の後ろで手を組んで、
「上海を見てると、答えは出てると思うんだけどな?」
半自律人形、上海。
魔力を定期的に吹き込まないと動けなくなる人形達の中で、唯一自我を持ちえたアリスの自信作。
不思議そうな目でその主人を見る上海を、アリスは優しい目で見る。
「この子はその答えにたどり着く一歩手前の解なのよ。完全解が出せれば、この子も魔力の定期補充が無くても動けるようになる。
 私が居なければこの子達は自分の身を守ることも出来ないわ。」
その言葉に僅かな引っ掛かりを感じて、魔理沙は言った。
「まるで自分が居なくなることを前提にしてる言い方だな?」
上海の顔が心配そうに変わる。しかしアリスはあくまでも優しく上海を見つめる。
「私もあなたも限られた命を生きるものでしょう?私は何か、自分が愛したものの証を残したいのよ。」
空を見上げて、魔理沙は呟く。
「生きていた証、ねえ。」

無言の時が辺りを流れる。

「昔の話だけどね。」アリスが沈黙を解いた。
「まだ、ここに来る前の世界、魔界の都で暮らしていた時に私の人形を治してくれたひとが居たのよ。」
唐突に始まった思い出話。魔理沙は視線をアリスに戻して聴く体勢に入った。
「そのひとの家には沢山の、治されても誰も引取りに来ない人形達がたくさんあった。そのひとはそれでも人形の修理と製作をやめないで待っていたのよ。
 私のある意味師匠でもあったわ。今の技術の基礎はそのひとから学んだから。」

魔理沙の脳裏に、ある女性の顔が浮かんだ。
(お師様は…元気だろうな。多分。)

アリスは話を続ける。
「十年以上経って、そのひとに再会する事が一度だけ出来たわ。」
彼女の瞳は遠い所を見ていた。場所ではなく、彼女の昔の時間を。
「でも再会できた時、そのひとが人間でなかった事を初めて知った。」
「人間じゃない…って、魔族か?」
アリスは静かに首を横に振った。
「そのひともね、人形だったのよ。自律行動が出来る、魂の宿った人形。」
魔理沙の目が見開いた。
「待った、じゃあ、人形に魂が宿った、付喪神みたいなものだったのか?」
その問いにもアリスは首を横に振る。
「禁忌の技を使って、人形師自身が自分の人形に自分の魂を封じて、それで動いていたのよ。でも、それも完璧ではなかったの。
 いくら自由に動けても、パーツを動かす部分…人間で言えば筋肉よね、それと魂自身の時間は止められない。そうなれば後は動けなくなるだけだった。」
魔理沙は無言だ。アリスの心は魔理沙が居ることを念頭に置かない語りになっていた。
「再会した時に、そのひとが造り主の奥さんと娘さんをモデルにした事、その二人が亡くなった後にその墓から部品を動かすための筋肉などの部分を使って
 最後の仕上げに自分の命を人形に吹き込んで、そのひと達は目を覚ましたと、そう言っていた。」
魔理沙の顔色が変わる。
「まさか、魂を分割して封じたってのか?あの方法は下手をすればジキルとハイドの関係になってしまうんだぞ?それを成功させたって…。」
目を閉じ、アリスは魔理沙の言葉に静かに答える。
「それほど想いが深かったのでしょうね。時に深すぎる思いはどんな形でも予期しない物事を招くのよ。人間界では奇跡と呼んでいるそれを。」
「……それで、そのひとはどうなったんだ?」
魔理沙は食い入るように問う。

魔術の絡む話に彼女は結果の悲喜を問わず質問をぶつけてくる。それは相手の気持ちを考慮しない、純粋な探究心。
だが、それで多くの敵を作り、多くの心を傷つけ、多くのものを失った。その中で大事なモノも得たが、それでも彼女は一人でこの森に居る。

アリスは魔理沙の目を見つめた。何かを哀れむような蒼の瞳。
「人形の寿命と共に、一つの魂に戻った。でも、魂を分けた事と大事なものを喪った悲しみと後悔、その想いが彼の目を曇らせていた事に、彼はそこで初めて気がついたのよ。」
アリスの目は魔理沙を捉えたまま続ける。
「彼のそばに、亡くなった二人はいつも寄り添っていたの。しかし失くした幸せを取り戻すことに執心していたばかりに、彼はそれに気づかなかった。
 そして、全てを失った時に、彼はようやく自分の家族に再会できたわ。」

魔理沙はアリスから目がそらせなかった。
いつの間にかアリスの瞳は金の色に変わり、鏡を見るような美しさで魔理沙の顔を写す。
「彼は私に技を伝授する事を生きた証として、そして自分と同じ道を歩まぬようにと、私に形見を預けて昇天したのよ。あなたも魔法の研究に熱心なのはいいけど
 執着が過ぎれば大きな悲しみを背負うことになるわ。私はそんな邪法に頼らずにあの人とは違う道で、完全自律人形の製作にたどり着く。それが私の居た証になるから。」

話が終わり、アリスの金の瞳に写った魔理沙の顔が、不意に消えた。
「ねえ、魔理沙。」
「な、なんだよ?」
瞳を閉じて話しかけるアリスに、魔理沙は戸惑いを覚える。
「あなたは魔法を極めた後、何を生きた証に残すの?」
その問いに魔理沙はあっけらかんと答える。
「少なくとも今は判らないな。何せ私は死なない方法を探してるから、死ぬつもりはまったく無い。ところでアリス、さっき目を合わせた時に違和感を感じたんだが、何かやったのか?」
魔理沙の言葉に、はっとした感じでアリスは訊いた。
「私と目を合わせたときに、何か変わったことはあった?」
「ああ、目の色が金色に変わったぜ?」
しまった、と言う顔でアリスが言う。
「私、魔眼を出してしまったのね。そしてあなたはそれを見てしまった。」
魔理沙は状況が飲み込めていない。
「その魔眼って・・・見たら、どうなるんだよ?」
「…何かをヨリシロに、あなたに関係する何かが現われる。」
その言葉が終わるか終わらないかと同時に、周りの空気が不穏なものに変わる。

ざわっ……。

「招かれざるお客様が来たみたいね。」
その言葉にアリスの見る先を振り返ると、いつの間に居たのか、紫のローブをまとい、同色の帽子を被った魔法使い風の少女が立っていた。
はつらつとした雰囲気にそぐわない殺気を纏った少女は、紅い瞳に紅いショートヘア。
「うふふ。随分と長い間閉じ込められていたけど、やっと外に出られたわ。」
魔理沙が少女を見て警戒する。危険な雰囲気は全体を見なくても纏う殺気が語っている。
「お前、何モンだ…?」
紅い瞳の少女はケラケラと笑う。
「きゃっはははは!あたいが誰かって?随分ボケが進んだわねぇ?そんなんじゃ、あと五年もすれば寝たきりババァになっちゃうわよ?」

魔理沙は戦闘の態勢に入る。知らないと言っているが彼女は彼女を知っているーーー無意識に。
「それは、あなたよ。魔理沙。」
アリスの声が静かに響いた。
「私の瞳を覗いた事によって生まれた、また別のあなた。また別の可能性だったあなたでもあるわ。」
「ちょ、話はわかるけどヨリシロになるものなんて今は持ってないぜ?いったい何なんだ?」

その会話を無理やり止めるように、じり、と紅い瞳の少女は近づく。
「おしゃべりはそこまで。あたいの名は仮にカテル・ゴレとでもしておくわ。さて魔理沙、あなたに二つの選択肢をあげましょう。まず一つは、あたいに殺されること。」
魔理沙が問う。
「もう一つは?」
自称カテルはまたも笑う。そのケタケタ声がやたら魔理沙の癇に障る。姿は似ていないがやたら自分のいやな部分を見せ付けられている気分がする。
「知ってるくせにぃ。あたいを殺すこと、よ。」
カテルは続ける。
「あなたに拒否権なんて無い。どう答えようが、スペルカードなんて無視した殺し合いを演じてもらうわ。どちらかが死ぬまで止まないダンスを。
 あなた自身が自分に殺される光景は滑稽でしょうね?でも安心して。あなたが死んだらあたいが『魔理沙』になるだけだから。うふふ。」

瞬間、周りの風景が変わる。
星蓮船事件の時の法界のような場所。自分が立っているのか、地に足が着かないような感覚。
「ここなら、だーれも邪魔が出来ない。あなたの『オトモダチ』にも危害が及ばない場所。」
魔理沙は無言でカテルを見る。その瞳は金色だ。
「殺る気になったみたいねぇ?そうそう、あなたはその目がよーくお似合い。きゃっははは!!さて、どちらがバスチアンでどちらがアトレーユなのか、決着をつけましょう?
 ま、あたいが負けるわけ無いけどね?」

言うが早いがカテルは宙に舞う。その背中には白い翼が広がった。魔理沙も遅れて箒にまたがる。
カテルは余裕の表情で挑発する。
「そんな時代遅れのスタイルで、あたいと対等に戦えるのかしらね?うふふふ…とりあえず最初から本気出すわよ。」

その声を合図にカテルの周りに五芒星が描かれ、五つの色をした輝く球体が現われた。
「カペラの魔法と五行の理、その身で味わうがいいわ。」
球体が回転して打ち出す、ひし形のステンドグラスにも似た弾幕。密度の高いそれをかわしながら、魔理沙はフランドールの翼を思い出す。
あの時も殺し合いとほぼ変わらない戦いだった。
『あんたがコンティニュー出来ないのさ!』
その言葉が響くと同時に打ち出された弾幕、しかし、今の目の前の敵は、他ならぬ別の自分。
「思い出に浸ってる場合じゃないな。」
そう呟いて、魔理沙は右手を薙ぎ払うように振った。
途端にその周りに四つの輝きが生まれ、星の形を取り、彼女を護る様に位置する。

カテルがそれを見て嗤う。
「ただの星の輝きが恒星の光に勝てると思って?」
なおも振りまかれる刃のような弾幕を時には掠らせ、時には上下に座標をずらしつつ避け、魔理沙はその嘲笑を逆に笑い飛ばす。
「はっ、テトラグラムマトンの名が、創造主の無い黄土の思想に負ける訳無いだろ。」
心の中で『四文字は嘘だけどな』と付け加え、星の光を白熱光と変えて一直線に打ち出す。
カテルはそれを五玉の一つで防ぐ、が、魔理沙の攻撃はその玉を突き抜けてカテルへ襲い掛かった。
「く!」
カテルを貫く寸前、彼女は素早く身をかわし、白熱光は彼女のローブの袖に僅かに焼け跡を残しただけだった。
しかし、貫かれた玉は一つが砕け散っている。
「これで対等…かな?」
魔理沙の顔が不敵な笑みを刻んだ。が、カテルは余裕を崩さない。
「甘いわね。まだまだ前哨戦よ。」残りの四玉が陣形を整え、光る。魔理沙は勘を信じて下降する。
刹那、さっきまで彼女の居た位置に灼熱の光線が突如現われた。空気の焼ける匂いが僅かに漂う。
間髪入れずに魔理沙が移動を繰り返す度、その攻撃は確実に魔理沙の元居た位置を正確に焼いて行く。

魔理沙の回避を見ながらカテルは言う。
「まずは、その足を止めないとダメな様ね。」
カテルの四玉の回転が速くなる、と同時に大量の炎の色をした弾幕が扇状に襲い掛かる。
幾つかが魔理沙の服を焼きながら通り過ぎる、と同時に横合いからあの光線が薙ぎ払う様に迫ってきた。
弾幕の隙間を縫いながら横に大きく逃げてやり過ごすが、その瞬間にまた細かい弾幕が魔理沙を襲う。
「…このまま防戦一方じゃ押し切られるな…アレを使うか。」
回避行動をとりながら彼女は懐から一枚のカードを取り出す。その裏に書いてあるのは「星」の文字。
「星屑の幻想と消えろ!」
カードから七色の巨大な星屑が八方へと広がり、魔理沙に向かっていた弾幕を消し去る。
カテルは下がって避けたが、まとった残りの玉は二つ破壊された。
「まだよ。」
カテルの声と共に魔理沙へ残りの玉が残光を残しつつ突進する、と同時に、カテルが魔理沙めがけて翼から光弾を複数発射した。
玉二つをかわしたが、光弾はかなりの速さで魔理沙を追尾してくる。ただ、その追尾はそんなにきついものではない。
光弾に気をつけつつカテルの行動を見ると、戻ってきた玉はまた弾幕をばら撒き始めた。玉五つの時よりはまだ薄いとは言え、隠し玉を出されると不味い。
移動よりも攻撃に集中して、マジックミサイルモードで残りの玉を狙いつつ、爆発の余波でカテルが集中できないようにする。
「ふん、小ざかしい。」
残りの玉を破壊されて守りの無いカテルは、それでも余裕のある表情だった。
「あたいの弾幕は小細工なしでも…。」
紫のオーラが六芒星を描く。
「こんな風に出来るのさ!」
カテルが無造作に手を振り払うと、六芒星がその動きに合わせて巨大な弾幕に変化し、V字列で襲い掛かる。
「ほら、避けてるだけでは手詰まりよ?」
間髪居れずに左手前方から巨大な弾幕の列が迫る。カテルが移動しながら力を解放しているのだ。
「…くっそ、逃げるが勝ちだが逃げてもキリが無いぜ。」
「その通り、そしてあたいはあなたに成り代わる!」
カテルの周りに白い六芒星が現れた。
「『冬のダイヤモンド」の輝きに耐えられるかしらね?」
六芒星の周りにさっきと同じ玉が、今度は六個形成された。それは回転しながら、苛烈な星の輝きを撒き散らす。
「弾幕は力、って言うのは本当、当てはまるぜ。」
細かくそれを避けつつマジックミサイルで玉の破壊を優先する魔理沙。
それを見ながら嗤いが狂気じみたものになっていくカテル。
「きゃーははははっ!バカの一つ覚えみたいな対策しか出来ないなんて、何であんたが私のソトヅラやってんのか解らないわねえ!!」
「虚像が粋がるんじゃないぜ。私は私だ。お前じゃないし、お前は私でもない。」
「うふふ、言ってくれるわねえコインの表が。あんたとあたいは表裏一体、ひっくり返ればあんたが裏になる運命なのさ!」
「そんな寝言はまずコインをひっくり返してから…言うモンだぜ!」
カテルの弾幕が途切れた隙に、モードを変えて白熱の光線をカテルへ向ける。目標は旋回する球体。
その光線を上昇でかわしたカテルは、大きな火炎弾をお返しとばかりに打ち出す。と、同時に球が光を放つ。
火炎弾をかわすと同時に光線の回避行動に移るが、その寸前、その目の前で火炎弾が炸裂した。

視界を覆う朱色の虹彩。避けられない!
しかし魔理沙はあえてその攻撃を受け、炎が全身に広がりかける一瞬のうちにカードを発動させた。幾つかの衝撃が彼女の頭と意識を揺さぶるが体は反射的にカードを掲げる。
瞬間、炎の中から弾幕と光線を打ち消し、またはそれを透過しながらカテルに七色の星屑が迫る。
さすがに勝ちを確信していた彼女にもそれは予測出来ず、流星の直撃と魔理沙の追い討ちを同時に食らった。
腹と胸に星屑を受け、右肩と右足を焼けるような痛みが走る。
「力におぼれすぎだぜ、ニセモノさんよ。」
不敵に、余裕を見せながら今度は魔理沙が笑う、が、衝撃は余波を残しており、その飛び方はふらついている。

服もまとう羽もボロボロになりつつも滞空する、カテルの紅の瞳が血の色に変わる。顔も余裕をかなぐり捨てた鬼面で魔理沙を睨み付けた。。
「あ…たいは…。」その姿がブレる。
「絶対に…負けない。」ブレが酷くなる。
「オマエヲ喰ラッテ!アタイハ!オマエニナルマデ!マリサニナルマデ!タオレルモノカ!!」
血を吐くような声と共に、ブレが収まると、カテルからもう一人、同じ姿のカテルが現われた。
「なっ…。」
魔理沙が驚愕し、隙が生まれる。それを見逃さずにカテル達は二手に分かれた。
「これが」一人目のカテルが毒々しい紫色の弾幕を十字型とX字型に時間差で放つ。と同時に、
「私の奥義」二人目のカテルは魔理沙の動きを止めるように移動しつつ、一直線に弾幕を放つ。
「「魔女達の舞踏会」」
二つの声が重なり、弾幕が縦横無尽に交差する。
魔理沙は劣勢をひっくり返そうと隙を探すが、移動しながら交互に、しかも位置を特定できないような撃ち方をしてくるので逆転の糸口が掴めない。
強制的に踊らされている如くの様に、二人のカテルは笑いながら弄る様に弾幕を放つ。
「さあ、もっとステップを踏みなさい。あたいを満足させる踊りにはまだまだ達してないわ。」
「もっと早く、もっと跳ぶ様に避けるのよ。そうでなければ死んでしまうわよ。」
「「と言っても、この舞踏会の幕はあなたの死で下りるから、死なねばならないのは変わらないけれどね。あっは!」」
避けながら、魔理沙は歯噛みする。その中で、アリスの声がこだまする。

『また別の可能性だったあなた。』

「力を求めすぎて溺れた結果があの姿かよ…。」
残されたスペルカードはあと一枚きり。しかし今回の戦いは今までの異変のように一定時間を耐え切れば相手が力尽きることが無い、永遠のダンスパーティ。
片方を屠っても、もう片方が残っていれば、同じことになる可能性はきわめて高い。
逃げようにも密度の高い弾幕の籠は、易々と彼女を逃がしてはくれない。
檻に閉じ込められて一方的に外から弄られる拷問。その風景はまさにそれだった。

魔理沙は必死に弾幕を掠らせて避ける、その時、箒に別の弾が直撃する。
「!!」
強制的に動きを止められた魔理沙の前に巨大な弾幕が迫る。彼女は自分の危機に思わず目を閉じる、が、弾幕は魔理沙に届くことは無かった。
「「な…?」」
二人のカテルも目の前の状況に戸惑う。魔理沙からは判らなかったが、いきなり彼女の前に沢山の目の見据える空間が現われ、弾幕を吸い込んだのだ。
一度空間は閉じ、再び開くと、その中から一人の少女が現われる。
「少し遅れたわね。まあ、生きているから全て良し、かな。」
聴きなれた声は少し気取って、しかし冷静に響く。
「魔理沙の自業自得とは言え、私にも責任はあるしね。手を貸すわ。」
そこには青いワンピースに白いクローク、金と銀の糸を手に絡めた金髪の少女が居た。
「アリス…か?」
「私以外に誰が居て?送ってくれたのは紫だけどね。」
アリスの振り返った方を魔理沙が見やると、何も無い空間から手だけがぬっと、親指を立てていた。
その手が引っ込むのを見届けて、アリスは言う。
「また懐かしさのある所で戦っているわね。しかも相手は二人。でも、ダンスなら踊りの相手は一人につき一人が原則だと思ったけど。」
彼女の声にカテル達は言う。
「「あたいのダンスにそんな規則は無いわ。相手が悪魔だろうがそれは変わらないのよ。」」
答える声は歪んでいる。アリスはそんなカテルを哀れみの目で見た。
「そんな考えだから自分で自分の婚約者を踊り殺して、自分も同じダンスで地獄へ堕ちる羽目になったのよ。本物のカテルはね。」
アリスの周りに七体の人形達が滞空した。
「ダンスのパートナーを弄ぶ者、自分の力に驕り溺れる者は必ず自分の枷で首を吊ることになるわ。魔理沙、あなたも私もその可能性があると言う事を覚えておきなさい。」
そう言って、彼女は魔理沙へ小瓶を投げる。
「これは…?」
アリスはすぱりと話を切るように言った。
「つべこべ訊かずに飲みなさい。そんな状態で戦おうなんて思ったら、確実に死ぬわよ。」
その言葉であたふたと小瓶の蓋に手をかける魔理沙に、カテルが弾幕を放つ、が、それは七人の人形の持つ盾で全て弾き返された。
「舞踏会の再開の宣言なしに勝手な事をするのは戴けないわね。まずは一人、私達のパートナーになってもらうわよ?もう一人は魔理沙、あなたが担当しなさいね。」
宣言にも似た声に疲れた声が返って来る。
「助けてもらっといてなんだけど、その言い方は無いと思うぜ?」
「私にも責任があるから、助太刀の貸し借りは無しよ。でも、紫にはあなた名義でツケといてあげたわ。」
「やれやれ、こうなった原因の一つに何で、ここまで大上段に言われなければならないんだか。しかもおまけ付きかよ。」
帽子を被りなおした魔理沙は、苦笑いしながらも箒に乗りなおす。アリスの薬で魔力も体力も十分に回復した。
「これで、仕切りなおしだぜ…魔女達の舞踏会。」

カテル達が身構え、まずは魔理沙にその目標を定める、が、カテルの一人が硬直し、引きずられるように離れていく。
「な…。」
もがけばもがく程食い込み、行動を戒めていくそれは、金と銀の糸。
「ルールの無い舞踏会でも、二対二ならパートナーは一人ずつ。そんな事も理解できないあなたには仕置きが必要ね?」

一対一のダンスパーティが二組。観客は居ない。
「おい、虚像。」
不敵な声にカテルが振り向くと、魔理沙が意地の悪い笑いで彼女を見ている。
「この程度で動揺してる辺り、本当に昔の私を見てるようで可愛い通り越して可愛そうだぜ。」
その言葉にカテルは激昂する。
「まだ勝負はついてない!あたいを舐めるな!」
魔方陣がカテルの足元に現われる、が、魔理沙は余裕の表情で何かをその足元に投げる。
それは小さい小瓶だが、カテルの足元に落ちた途端、派手に炎を上げて炸裂した。それはカテルを包み込み、その肌を焼いて行く。
カテルはそれを消そうとするが、払おうとした手にも炎は燃え移り、消そうとこすりつけた服の部分にも着火する。
「ひっ!」
恐怖が刻み込まれた表情がカテルの顔に浮かび、おびえる声がその喉から漏れた。
魔理沙はそれに構わず、三個の小瓶を取り出して、それぞれを投げる。
一つは炎に動揺するカテルの眼前で閃光を放ち、その視界を奪った。
目を押さえる彼女のそばで、今度は耳をつんざく轟音が鳴り響いた。それはカテルの鼓膜を破るのには十分すぎるくらいの衝撃波。
三つ目の小瓶は、毒々しい緑の煙を撒き散らし、うかつにそれを吸い込んだカテルは激しく咳き込む。
炎に半分包まれながら膝をつくカテルの口と鼻から、紅い液体が滴る。
カテルはそんな無様な状態でも、魔理沙をにらみつけて何かを言おうと口を動かしたが、声は聞こえない。
緑色の煙は、カテルの声を奪っていたのだ。

「力を求めるだけじゃ、得られないものだってあるんだぜ?こんな風にな。」
そう言って魔理沙は最後のカードを人差し指と中指で挟み、その力を発動させた。
それと同時に懐から小さな八卦炉を取り出し、小さく、やさしく呟く。
「虚像は所詮写し身だ。本物の歩んできた道までは写す事は出来ないし、その心の移ろいまでも知る事は出来ないのさ…じゃあ、な。」

八卦炉から放たれる七色の閃光・マスタースパーク。
声にならない叫びがその轟音の中でかすかに、しかしはっきりと魔理沙は聞いた。
それも一瞬の事で、その光が消え、カテルの居た場所には、ボロボロの宝石の護符が落ちているだけだった。
それを拾い上げて、魔理沙は一瞬「ありゃ」と言う顔になったが、今は考えないことにする。
「まったく、いやな可能性を見たぜ。あんなの生きた証に残すくらいなら、まだ死ねないな。」

その頃。

「あちらは短期決戦だったようね。もっとも、こっちも仕上げだけどね。」
人形達の張った糸によって、宙に固定されたもう一人のカテルを見ながら、アリスは問う。
「あなたは魔理沙の辿ってきた道を知ってる?」
逆さ磔になったカテルは何も答えられない。そもそも知らないのだから答えようが無いし、その口は銀の糸で封じられている。
「人も妖怪も、神も成長する。あなたは力が暴走しただけの粗悪な複製品よ。本物が辿った過程を知らないものが本物に成り代わろうとしても無理ね。よしんば知っていても
 同じ道を同じように通ってないのだから不可能なのだけど。」
アリスの指が僅かに動く。
人形達の位置が変わり、幾何学的な位置取りになる。少し学のあるものなら、冬空に輝く七つ星の名を呼ぶだろう。
「執着を捨てて、あるべき場所へ還るがいいわ。」
その声を合図に、人形達の居る少し離れた場所にまばゆい輝きが生まれた。位置的にはーーー北極星。
それは巨大な人の形を取り、背中の双剣を抜き放つ。
「初めて披露する人形劇だけど、最初で最後にしたいわね…。」
アリスの手の軌跡が十字を描く、と同時に双剣の巨影は神速の動きで剣を振り、一瞬動きを止めた後、背中に剣を戻す。
人形達が散ると、カテルは地に伏せ、その体からは小さな金と銀の光が立ち上っていく。
「ゴリアテ、そしてみんな、お疲れ様。」
アリスは光を見ながら、召還した人形達を労った。

やがて、光が消えうせ、カテルが元居た所には、紫水晶で枠を作り、その表面を水晶と魔法銀で作られた鏡が落ちていた。

「魔理沙。」アリスが鏡を見ながら言った。
「これ、パチュリーの所から無断拝借した品の一つよね?」
誤魔化しを許さない瞳が魔理沙を捉える。いつもの魔理沙ならここで口笛の一つでも吹いて誤魔化すところだが、今回は違った。
「ああ…そうだぜ。」
ボロボロになった、宝石のはめ込まれた護符を手に、彼女は素直に罪を認める。
「これを返さなければならないけど、私だけじゃ色々と悶着がありそうだ。悪いけどパチュリーへの説明もかねて、紅魔館に一緒に行ってくれないか?」
責任を半分押し付けられる可能性を予感して、アリスは肩をすくめた。

その次の日。紅魔館にて。

「…それがこの結果なわけね。」
眉間を指で押さえながらため息混じりにパチュリーが言った。
その目の前のテーブルにはひびの入った鏡と、ボロボロになった護符が鎮座している。
「こういう結果になるのだったら、フランドール様と美鈴を引き連れてでも、あなたの家に押し込んだ方が良かったかもね。魔理沙。」
テーブルの向かい側でのんびりと紅茶を飲むアリスの足元で、帽子を脱いだ魔理沙は土下座姿勢のまま「ごめんなさい!本当に申し訳ない!」と
針のとんだレコードの如く繰り返すだけだ。が、その声にはどう訊いても誠意のかけらも心のこもりも無い。隙を見つけたらとっとと逃げ出すつもりなのは明白だ。

パチュリーはそんな魔理沙をジト目で見ながら言う。
「このアレキサンドライトは普通の宝石じゃなくて、人の心の裏を具現化させる力があるのよ。それに鏡が反応してあんな虚像を作り出したのね。
 あと、いわくつきの物を拾い集めて供養もしないで扱ってるから、そのものに込められた『思い』悪く言えば執着だけど…それも取り込んで強力な力を持ったのよ。
 もちろん、アリスの瞳を見た事が引き金になったのは間違いないけど…アリス、あなたも優雅にお茶飲んでないで何か言いなさいよ。」
パチュリーの言葉に、アリスはしれっと答える
「私は昔話をして、警句を言っただけよ。それに引き金を引いたのは私だからあなたと紫に事情を話して魔理沙を助けに行った。それだけのことよ。」
簡潔かつ正直な説明に、パチュリーは沈黙せざるを得なかった。
事実、カテルを生み出した原因の責任は取っているし、鏡と護符の効果は知らなかった事だ。メッセージ通り、二日以内にもって行かれたモノも返ってきている。
…原型はあまり留めていないが、これは仕方の無い事だろう。

「魔理沙。」
パチュリーの矛先が窃盗犯に向く。土下座姿勢のまま魔理沙が固まった。
「今まで『借した』本、全て返却させてもらうわよ。念のために咲夜と小悪魔を同行させるから。」
うっ、と言う声とともに冷や汗が魔理沙の顔を伝う。
「逃げようとしても無駄よ、万が一逃げたら有用なものは全部没収。紫も監視すると言っていたわ。」

魔理沙は動かない、が、事ここに至っても、どうやってこの場を乗り切るかを考えていた。土下座も時間稼ぎだが既に見抜かれているだろう。
そこに一同の上から声が降ってくる。
「あら、みんな居たのね。」
見慣れたスキマから上半身を出して、扇子で顔の下半分を隠した、逆しまの胡散臭い彼女がそこに居た。
「あら、紫じゃない。どうしたの?」
パチュリーの問いに、紫はうふふと笑って、
「そこの盗人を回収しに、ね。ついでに仕置きとして暫く命蓮寺で働いてもらおうかと思っているところよ。」
華麗に空中で半回転して、静かに降りて来た紫の顔には笑みと同時に青筋が立っている。
「魔界の入り口でドンパチやったせいで法界との結界が緩みかけていてね。白蓮達が修復してるけど、かなりご立腹の様子よ?」
魔理沙の体が逃げの体制に入ろうと僅かな動きを見せる。が、紫はその首根っこを押さえて怖い笑顔で言った。
「とりあえずは謝罪の前にあなたの家捜しから始めるわ。弁解は全てが終わったら好きなだけ聞いてあげる。それまでは十分反省するまで異論は受け付けないわよ。」
そう言うが早いが、魔理沙の居る位置にスキマが開いて、彼女は悲鳴も上げる暇もなく吸い込まれていった。
「お邪魔したわね。多分魔理沙の事だし、このくらいで懲りはしないと思うけど、やれるだけやってみるわ。」
そう言って、紫もまたスキマに消えていった。

そして、辺りには沈黙だけが残る。
「アリス。」
「どうしたの?」
「カテル・ゴレ、って外界の女性よね?」
パチュリーの問いに、アリスは説明する。
「無節操にダンスと享楽に身を任せて地獄に落ちた少女のことよ。それをゴレと言うわ。」
アリスは紅茶を一口飲み、考え深く話す。
「私達はダンスはしないけど、魔法の研究の目的を失って、ただ、力を追い求めるだけの存在に成り果てれば、ゴレと呼ばれるでしょうね。
 ダンスに限らず、何かを追い求める時に必要の無い犠牲を払い続ければ、誰でもああいう存在になりえるわ。」

パチュリーはその言葉に暫く考えていたが、答えは出なかったのか、アリスに訊く。
「カテルという存在が魔理沙の裏の性格、または間違った道を歩んだ結果と言うのはわかるけど、何で魔理沙の生き写しではなかったのかしらね?」
紫のローブに真紅の瞳と、同じ色のショートヘア。
その姿を思い出しながら、アリスは言った。
「私にも解らないわ。もしかしたら覚えていない、または強制的に消された繋がりを持った過去があるのかもね。ーーーたぶん、私にも。」
そう言って護符を見つめるアリスの目は、澄んだ青色の中に解析できない感情が篭っていた。

パチュリーがふと、割れた鏡を見ると、アリスが写っている。
しかし、その中に写るアリスは目の前に居る彼女ではなく、薄い桃色のブラウスを着て、青いリボンを結んだ少女だった。
「どうしたの?」
アリスに不意に声をかけられて我に返る、鏡の中のアリスはいつもの姿に戻っていた。
「ん…この鏡と護符、どう直そうかな、と。面倒なのよ色々と。」

取り繕って居るのがばれない様に、努めて冷静にパチュリーは答える。
いつか鏡の中のアリスと邂逅する日は来るのだろうか?その時、アリスは今のアリスや他の者達にどういう反応をするのか。
だが、それは興味本位で手を出してはいけない、希望の入っていないパンドラの箱でもありうる。

いつかこの世界で出会うことがあるなら、なるべく穏便な出会いになることを願って、パチュリーはティーカップに口づけた。
あとがき
秋霜玉の動画と魔女達の舞踏会(萃夢想)聴いてて思いつきました。モトネタは影リンク戦です。
カテル・ゴレについては話の中で説明してますが、関連した話が読みたいと言う方は今は亡き社会思想社の「ブルターニュ幻想集」の一つ目の話になっていますので
古本屋を漁ったりして見てください。

追記
読み直してひでぇところが多すぎたので加筆修正しました。読んで下さった方々にさらに酷いものを見せてしまい申し訳ないです。
指摘してくださった方々、ありがとうございます。
因みにアールグレイが出たのは私が一番苦手な紅茶だからです。いや、私の母親が濃い目に入れて冷まさずに飲む派なので・・・。
自分は紅茶だとミルクティーとロシアンしか飲まないのでウバかセイロン、アッサム、キャンディ辺りの茶葉しか買いません。
元々コーヒー派なので紅茶自体を飲む機会はあまり無いですが。 

さらに追記
用語でわからなかったところがあったというので補足
テトラグラムマトン=四文字。普通はY.H.V.Hと書いてユダヤの創造神ヤーウェを指しますが、口にするには恐れ多いためテトラグラムマトンと言います。
魔理沙のオプションは最大で四つですし。
バスチアンとアトレーユについては「果てしない物語」の表と裏の主人公です。この二人の接点も「鏡」が関係してくるのです。

弾幕勝負については割と好評だったので安心しております。カテルが旧作魔理沙と判った方もおられたようで。一部秋霜玉のネタも使ってますけど。
次のSSは冗長にならんように気をつけます。皆さんどうもありがとうございます。

さらにさらに追記。
余分なところをばっさり切って、誤字脱字を直しました。
次のSSではこんな醜態を晒さないようにしたいです。指摘下さった方々、ありがとうございます。
みかがみ
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コメント



0.250簡易評価
1.60名前が無い程度の能力削除
正直に言って、イマイチでした。自分の感覚と合わなかったせいかもしれません。

題材と話の雰囲気がうまくマッチしていないような気がする。
他にも言うなら、導入が冗長すぎた気がする。全体的にもっとすっきりとした文章できそうな気がするし、全部とはまではいかなくても地の文で述べた考え方をオチへの伏線に出来るだけ多く繋げるようにするともっとよくなると思う。
別に言わなくてもいいと思うけれど会話文の最後に『。』はいらないということも付け加えて。
3.50名前が無い程度の能力削除
うーん、話が妙に唐突というか、展開に説得力が無いというか……
あとそこまでふてぶてしい設定の魔理沙なら、別に不味いとも思わないような気がします。
強奪してったものが壊れたからってしおらしく土下座? ありえない。

余談ですが、アイスティーと言えばアールグレイなのは、冷やす時に濁りが出にくいのと冷やしても香りが飛ばないからです。
普通にホットでも呑みます、癖があるから慣れないと苦手な人多いけど。
6.100非現実世界に棲む者削除
貴方様の作品で初めて弾幕勝負を読めました。
結構面白かったです。
いつもながら奥が深いですね。
この後の魔理沙のお仕置きされてる光景を想像したら...微笑ましいです。
7.90奇声を発する程度の能力削除
私は面白いと思いました
8.80とーなす削除
出だしがちょっと冗長、かな。
話の流れ的にそこまで重要じゃない描写が続いてなかなか本題に入らないので前半は少し退屈でした。バトルのシーンは迫力があって素敵。VS旧作魔理沙というのは熱い。

バスチアン、アトレーユ、テトラグラムマトンあたりの元ネタ全くわからんw
9.90名前が無い程度の能力削除
魔理沙が実験に失敗して無人となった魔法使いの住処からマジックアイテムを漁っているということを軽く触れるくらいでいいかな、とも思いました
ただ作者さんが思う幻想郷をしっかりと示しておきたい気持ちもわかります

私は作者さんの考える東方の世界観をもっと読みたいと思いました

11.90絶望を司る程度の能力削除
おもしろかったです。
14.無評価非現実世界に棲む者削除
再コメ失礼いたします。
どうしても気になる誤字を発見しましたので報告させていただきます。
魔理沙は霖之助のことを屋号で「香霖」と読んでいた筈です。
悪気は無いです。ただ、作者さんの作品がよく見栄えするためにも必要だと思ったからです。
では改めて、
再コメ失礼いたしました。
これからも頑張ってください。
15.603削除
申し訳ありませんが、あまり魅力を感じませんでした。
理由もなしにこう言ってしまうのは酷いとは思うのですが私の力量不足ゆえ「こうこうこうだから」と言いあわらす事が出来ないことをお許し下さい。