寝られない日がある。例えば、朝に起きたのに昼寝が思っていたより長くなってしまったり、起きたのが昼や夕方であったり、業務が長引いてしまったりする。
稗田阿求の場合は、どれにも当てはまらなかった。何となく目が冴え、寝られない。同じ体勢を続けていると布団が熱くなり、熱から逃げるように寝返りが打つ。そうしているうちにどれくらいの時間が経ってしまったのだろう。
障子の向こうから、鈴虫の鳴き声がする。昼間に比べて随分と近くにいるように思える。星月夜に照らされている芭蕉に止まっているのであろう。きっとこの鈴虫のせいで寝られないのだ。鈴虫を退治しようと布団から出ようする。しかし、鈴虫は昨夜も同じように鳴いていた。昨夜は気持ち良く寝られた。昨夜と今夜で一体何が違うのであろう。
文机に向かう。昨夜と今夜のことを連々と書く。そこでようやく気付いた。寝る前の日課となっている手紙の返事を書いていない。
八雲紫が、博麗の巫女があまりに貧困のため、救済として里に郵便という仕組みを設置してから半年ほど経つ。曰く、この赤い投函箱に博麗の巫女への依頼や誰かへの文書を入れると、博麗の巫女やその誰かの所にスキマを介して届けられるとのことだ。
ここで、霧雨魔理沙が一つの疑問に至った。名前の書いていない手紙はどこへ行くのか。スキマを通って、誰かの手に落ちるとのことだ。
阿求の元に一通の封筒がある。差出人、宛名不明の封筒であった。魔理沙のように好奇心なのか、偶然か。手紙を確認しなければ、分からない。しかし阿求は、己の記憶力ゆえに確認したくなかった。これがもし、特定の人に向けられたものならば、阿求は忘れることができるであろうか。
特定の人に向けられたものならば、宛名を書く。里に郵便が設置されてまだ日が浅いため、このような不具合が起きてもおかしくない。
やはり封が切れない。封が切れないとなると気になって眠れない。袋小路に陥った阿求は、差出人に届くように返事を書くことにした。
『拝啓
昨日、私の元に一通の手紙が来ました。中身は読んでいません。ですが、こうして返事を書いています。正しく届かないかもしれないのに、とちょっぴり可笑しく思います。それでも書くのは、眠れないからです。
貴方が許すのでしたら、今すぐにも封を切りたいです。それから、ちゃんとした中身のある返事を書きたいです。こんな真夜中ではなく、朝かお昼にでも。夕方からはいけません。やらなければならないことがありますので。もちろん真夜中もだめですよ? 普段は布団の中ですから。今日だけ特別なのです。
この手紙が貴方に届きますように。
敬具
稗田阿求』
※
阿求が書いた手紙は、一人の少女の手に落ちた。少女は訝しみながら、これを誰に渡すべきか悩んだ。夜になって、ある部屋に入った。主、レミリア・スカーレットはベッドの上で寛いでいた。ベッドの側の円卓には、卓上ライトと万年筆と数通の手紙が置いてある。
「どうしたの?」
「お手紙です」
「誰から?」
「稗田阿求です」
咲夜はレミリアに手紙を渡した。レミリアは手紙を何度か見ると、勢い良く封を切った。咲夜が慌てて止めようとした時には、既にレミリアは文面を目で追っていた。
「お嬢様」
「静かにしなさいよ。夜なのよ?」
「お嬢様に宛てなのか判明していないのですよ?」
レミリアは手紙を読み終えると、咲夜に微笑を向けた。
「咲夜が私に持ってきた。それなら、私宛てで良いわ」
レミリアはベッドから円卓へ向かう。咲夜に鋭い目を向ける。
「ほらほら、乙女の秘密を見るのは、いくら従者であろうと許さないわよ」
追い出された咲夜は、こう考える。あの手紙は本当にレミリア宛てだったのだろうか。美鈴やパチュリーに読まれることを期待して、誰かが書いたものかもしれない。咲夜はもしかして、送り主にとってかなり失礼なことをしてしまったのではないか。
咲夜は自室でペンを執った。
『拝啓
朝夕は随分と寒くなりましたが、お元気でいらっしゃいますか。
さて、貴方に謝らなければならないことがありますので、こうして文を綴っております。貴方が書いた手紙についてです。あの手紙は、本来でしたら、私の所に届いてはならない手紙だと思います。ですが、浅学の私は、その判断をお嬢様に投げてしまいました。
お嬢様はあろうことか封を切り、中身を読んでしまったのです。私の不手際ゆえの事件です。誠に申しわけございません。
何かとご多忙とは存じますが、くれぐれもご無理などなさらぬようご自愛ください。
敬具
十六夜咲夜
稗田阿求様』
※
レミリア・スカーレットは円卓の前に腰掛け、一人悩んでいた。今となって咲夜を呼ぶのは自尊心が許さなかった。レミリアはもう一度手紙を読む。レミリアには手紙を書いた覚えがなかった。
稗田阿求とは何者だったであろうか、と一考してようやく出てくる。その程度の少女である。そんな阿求から手紙が来た。やはり咲夜が思っていたように、レミリア宛て――もっといえば紅魔館――ではなかったのかもしれない。
けれども、読んでしまった以上は返事を書かなければならない。読んでしまったのに、何も知らないように振る舞うことはできない。阿求は相手がどうであれ、返事を待っている。
レミリアが返事を中々書き出せない理由は、阿求の書いた内容も含んでいる。誰に、こういう手紙を書いたのであろう。
レミリアは一読して、この手紙はラブレターだと分かった。レミリアが読んでいけなかった手紙である。この気持ちをどのようにして伝えるべきであろうか。今なら、喜んで阿求に頬を向けよう。読んだ以上返事は書かなければ失礼であろう。すなわち、阿求に、読んだと伝えるのだ。本来ならばレミリアに読まれる手紙ではないのに!
返事を書かないのも一つの手段だ。しかし、返事に焦がれている阿求を無視できようか。レミリアは書かなければならない。後悔の念をたっぷり万年筆に乗せる。
『稗田阿求へ
読んでしまったわ。私宛てだととんだ勘違いをして。失礼なことをして耳まで真っ赤。こうやって手紙を書くのが、良いとは思っていないわ。私が書くのは変なことよ。好きにアホだと笑いなさい。
それでも一つ教えてほしいことがあるから、もう少し読んでちょうだい。あれは、誰に読んでほしかったの?
レミリア・スカーレットより』
※
昼食の後、障子を開け放つ。遠く空に微かな暗い雲が見える。光が文机まで照らしていた。文机の影の所に座り、阿求は皆へ返事を書く。まずは上白沢慧音。寺子屋の教材のことである。直接来る予定であるが取り急ぎということだ。いつも通りの文章で返す。
里の子供からも日記のような手紙にも返事を書く。あまり出歩かない阿求を外へ連れ出そうと企てているようである。手紙には、こうも書いてある。
『稗田様がさびしそうに思ったので、書いています。おへんじはいりません』
微笑ましくなり、あえて返事を書いた。文章は阿求が思っているよりもずっと長くなった。そういう思いもそのまま書く。
阿求が唸り声を上げたのは、三通目と四通目の手紙であった。咲夜とレミリアからの手紙であった。ブルーブラックで綴られた美しい謝罪文、ワインレッドで書かれた乱文。どちらも阿求がもたらしてしまったものである。
咲夜は表現した「事件」は、レミリアが封を切ってしまっただけではなく、宛名を書かなかった阿求のせいでもある。さて何と書くべきだろう。咲夜は簡単である。阿求はすぐに返事を書く。
『拝啓
お手紙拝読いたしました。そう思いつめないでください。宛名を書かなかった私も悪いのです。今度そちらへ参りますので、美味しい紅茶をお淹れください。それだけで私には十分です。
敬具
稗田阿求
十六夜咲夜様』
問題はレミリアへの返事である。レミリアは読んでいる。それも大変な勘違いを起こしている。恋文ではないと否定するのはすぐにできる。が、レミリアはそれで納得するだろうか。
阿求は自分の書いた手紙を思い出す。確かに恋文に近い性質を持っているだろう。そうなると一つに疑問に辿り着く。なぜ、宛名を書かなかったということである。逆にこうも考えられる。あえて宛名を書かなかったのではなかろうか、と。
阿求は引き出しから一通の封筒を取り出す。昨日、阿求の元に届けられたものである。当然、封を切っていない。この手紙もあえて宛名も差出人も書かなかったのではなかろうか。
ならばいっそうのこと封を切って、差出人を確認して、文句の一つでも書こうと思った。しかし、レミリアの二の舞になるのが怖く、結局封を切れない。レミリアがそう読んだように、阿求も、この手紙を恋文だと思ってしまうかもしれない。となれば、阿求もレミリアと同じように返事を書くことになるだろう。
最大の違いがあるとすれば、阿求からの手紙を、自分に送られた手紙だと勘違いを起こして読んだところだ。阿求は差出人も宛名も書かれていない手紙を読もうとしている。同じ勘違いであるが、非があるのは相手だ。非があるのは、手紙を書いたこの者だ。
阿求はいよいよもって封を切った。手紙は二通入っていた。
『拝啓
久しく会わないうちに、立夏となりました。お元気ですか?
こういうかしこまった文章は相変わらず慣れていない。私はこういう文章はいらないと思う。でも、こういう文章を書くと、手紙を書いているって思うからやはり書く。
こんな回りくどい方法で、こんなことを書くのは失礼だと思う。もっと勇気があれば、直接言う。中々勇気が出ない。こうやって書くのは、今に始まったことじゃない。納得できるものが書けるまで、書いている。お陰で、二本ぐらいペンを買うことになった。
書きながら自分の気持ちを整理するから毎回長くなるのだと思う。でも、そういうところが良い。そうしたら、はっきりと、強く、より明確に分かるから。でも、あまり書くと全部読まれないのだろう。そうすると、この手紙も読まれないのだろうか。悲しくなって、短い手紙を書く練習をしようと思う。これは失敗作だ。でも、短いものを読む前に、こういう働きがけがあったことは知ってほしい。だから、同封した。
敬具』
『森近霖之助様へ
好きだ
霧雨魔理沙より』
あえて、書かなかったのであろうか。書けなかったのだと阿求は思った。そして、それから、丁寧に封をして、咲夜達の返事と一緒にポストへ投函した。
※
森近霖之助の元に二通が手紙が届いたのは翌日の朝であった。それから、霧雨魔理沙が来た。霖之助は一度裏に戻り、手早く書をしたためると、魔理沙に手渡した。
「帰ったら読んでくれ」
「今読んじゃダメなのかよ?」
「ダメだ」
稗田阿求の場合は、どれにも当てはまらなかった。何となく目が冴え、寝られない。同じ体勢を続けていると布団が熱くなり、熱から逃げるように寝返りが打つ。そうしているうちにどれくらいの時間が経ってしまったのだろう。
障子の向こうから、鈴虫の鳴き声がする。昼間に比べて随分と近くにいるように思える。星月夜に照らされている芭蕉に止まっているのであろう。きっとこの鈴虫のせいで寝られないのだ。鈴虫を退治しようと布団から出ようする。しかし、鈴虫は昨夜も同じように鳴いていた。昨夜は気持ち良く寝られた。昨夜と今夜で一体何が違うのであろう。
文机に向かう。昨夜と今夜のことを連々と書く。そこでようやく気付いた。寝る前の日課となっている手紙の返事を書いていない。
八雲紫が、博麗の巫女があまりに貧困のため、救済として里に郵便という仕組みを設置してから半年ほど経つ。曰く、この赤い投函箱に博麗の巫女への依頼や誰かへの文書を入れると、博麗の巫女やその誰かの所にスキマを介して届けられるとのことだ。
ここで、霧雨魔理沙が一つの疑問に至った。名前の書いていない手紙はどこへ行くのか。スキマを通って、誰かの手に落ちるとのことだ。
阿求の元に一通の封筒がある。差出人、宛名不明の封筒であった。魔理沙のように好奇心なのか、偶然か。手紙を確認しなければ、分からない。しかし阿求は、己の記憶力ゆえに確認したくなかった。これがもし、特定の人に向けられたものならば、阿求は忘れることができるであろうか。
特定の人に向けられたものならば、宛名を書く。里に郵便が設置されてまだ日が浅いため、このような不具合が起きてもおかしくない。
やはり封が切れない。封が切れないとなると気になって眠れない。袋小路に陥った阿求は、差出人に届くように返事を書くことにした。
『拝啓
昨日、私の元に一通の手紙が来ました。中身は読んでいません。ですが、こうして返事を書いています。正しく届かないかもしれないのに、とちょっぴり可笑しく思います。それでも書くのは、眠れないからです。
貴方が許すのでしたら、今すぐにも封を切りたいです。それから、ちゃんとした中身のある返事を書きたいです。こんな真夜中ではなく、朝かお昼にでも。夕方からはいけません。やらなければならないことがありますので。もちろん真夜中もだめですよ? 普段は布団の中ですから。今日だけ特別なのです。
この手紙が貴方に届きますように。
敬具
稗田阿求』
※
阿求が書いた手紙は、一人の少女の手に落ちた。少女は訝しみながら、これを誰に渡すべきか悩んだ。夜になって、ある部屋に入った。主、レミリア・スカーレットはベッドの上で寛いでいた。ベッドの側の円卓には、卓上ライトと万年筆と数通の手紙が置いてある。
「どうしたの?」
「お手紙です」
「誰から?」
「稗田阿求です」
咲夜はレミリアに手紙を渡した。レミリアは手紙を何度か見ると、勢い良く封を切った。咲夜が慌てて止めようとした時には、既にレミリアは文面を目で追っていた。
「お嬢様」
「静かにしなさいよ。夜なのよ?」
「お嬢様に宛てなのか判明していないのですよ?」
レミリアは手紙を読み終えると、咲夜に微笑を向けた。
「咲夜が私に持ってきた。それなら、私宛てで良いわ」
レミリアはベッドから円卓へ向かう。咲夜に鋭い目を向ける。
「ほらほら、乙女の秘密を見るのは、いくら従者であろうと許さないわよ」
追い出された咲夜は、こう考える。あの手紙は本当にレミリア宛てだったのだろうか。美鈴やパチュリーに読まれることを期待して、誰かが書いたものかもしれない。咲夜はもしかして、送り主にとってかなり失礼なことをしてしまったのではないか。
咲夜は自室でペンを執った。
『拝啓
朝夕は随分と寒くなりましたが、お元気でいらっしゃいますか。
さて、貴方に謝らなければならないことがありますので、こうして文を綴っております。貴方が書いた手紙についてです。あの手紙は、本来でしたら、私の所に届いてはならない手紙だと思います。ですが、浅学の私は、その判断をお嬢様に投げてしまいました。
お嬢様はあろうことか封を切り、中身を読んでしまったのです。私の不手際ゆえの事件です。誠に申しわけございません。
何かとご多忙とは存じますが、くれぐれもご無理などなさらぬようご自愛ください。
敬具
十六夜咲夜
稗田阿求様』
※
レミリア・スカーレットは円卓の前に腰掛け、一人悩んでいた。今となって咲夜を呼ぶのは自尊心が許さなかった。レミリアはもう一度手紙を読む。レミリアには手紙を書いた覚えがなかった。
稗田阿求とは何者だったであろうか、と一考してようやく出てくる。その程度の少女である。そんな阿求から手紙が来た。やはり咲夜が思っていたように、レミリア宛て――もっといえば紅魔館――ではなかったのかもしれない。
けれども、読んでしまった以上は返事を書かなければならない。読んでしまったのに、何も知らないように振る舞うことはできない。阿求は相手がどうであれ、返事を待っている。
レミリアが返事を中々書き出せない理由は、阿求の書いた内容も含んでいる。誰に、こういう手紙を書いたのであろう。
レミリアは一読して、この手紙はラブレターだと分かった。レミリアが読んでいけなかった手紙である。この気持ちをどのようにして伝えるべきであろうか。今なら、喜んで阿求に頬を向けよう。読んだ以上返事は書かなければ失礼であろう。すなわち、阿求に、読んだと伝えるのだ。本来ならばレミリアに読まれる手紙ではないのに!
返事を書かないのも一つの手段だ。しかし、返事に焦がれている阿求を無視できようか。レミリアは書かなければならない。後悔の念をたっぷり万年筆に乗せる。
『稗田阿求へ
読んでしまったわ。私宛てだととんだ勘違いをして。失礼なことをして耳まで真っ赤。こうやって手紙を書くのが、良いとは思っていないわ。私が書くのは変なことよ。好きにアホだと笑いなさい。
それでも一つ教えてほしいことがあるから、もう少し読んでちょうだい。あれは、誰に読んでほしかったの?
レミリア・スカーレットより』
※
昼食の後、障子を開け放つ。遠く空に微かな暗い雲が見える。光が文机まで照らしていた。文机の影の所に座り、阿求は皆へ返事を書く。まずは上白沢慧音。寺子屋の教材のことである。直接来る予定であるが取り急ぎということだ。いつも通りの文章で返す。
里の子供からも日記のような手紙にも返事を書く。あまり出歩かない阿求を外へ連れ出そうと企てているようである。手紙には、こうも書いてある。
『稗田様がさびしそうに思ったので、書いています。おへんじはいりません』
微笑ましくなり、あえて返事を書いた。文章は阿求が思っているよりもずっと長くなった。そういう思いもそのまま書く。
阿求が唸り声を上げたのは、三通目と四通目の手紙であった。咲夜とレミリアからの手紙であった。ブルーブラックで綴られた美しい謝罪文、ワインレッドで書かれた乱文。どちらも阿求がもたらしてしまったものである。
咲夜は表現した「事件」は、レミリアが封を切ってしまっただけではなく、宛名を書かなかった阿求のせいでもある。さて何と書くべきだろう。咲夜は簡単である。阿求はすぐに返事を書く。
『拝啓
お手紙拝読いたしました。そう思いつめないでください。宛名を書かなかった私も悪いのです。今度そちらへ参りますので、美味しい紅茶をお淹れください。それだけで私には十分です。
敬具
稗田阿求
十六夜咲夜様』
問題はレミリアへの返事である。レミリアは読んでいる。それも大変な勘違いを起こしている。恋文ではないと否定するのはすぐにできる。が、レミリアはそれで納得するだろうか。
阿求は自分の書いた手紙を思い出す。確かに恋文に近い性質を持っているだろう。そうなると一つに疑問に辿り着く。なぜ、宛名を書かなかったということである。逆にこうも考えられる。あえて宛名を書かなかったのではなかろうか、と。
阿求は引き出しから一通の封筒を取り出す。昨日、阿求の元に届けられたものである。当然、封を切っていない。この手紙もあえて宛名も差出人も書かなかったのではなかろうか。
ならばいっそうのこと封を切って、差出人を確認して、文句の一つでも書こうと思った。しかし、レミリアの二の舞になるのが怖く、結局封を切れない。レミリアがそう読んだように、阿求も、この手紙を恋文だと思ってしまうかもしれない。となれば、阿求もレミリアと同じように返事を書くことになるだろう。
最大の違いがあるとすれば、阿求からの手紙を、自分に送られた手紙だと勘違いを起こして読んだところだ。阿求は差出人も宛名も書かれていない手紙を読もうとしている。同じ勘違いであるが、非があるのは相手だ。非があるのは、手紙を書いたこの者だ。
阿求はいよいよもって封を切った。手紙は二通入っていた。
『拝啓
久しく会わないうちに、立夏となりました。お元気ですか?
こういうかしこまった文章は相変わらず慣れていない。私はこういう文章はいらないと思う。でも、こういう文章を書くと、手紙を書いているって思うからやはり書く。
こんな回りくどい方法で、こんなことを書くのは失礼だと思う。もっと勇気があれば、直接言う。中々勇気が出ない。こうやって書くのは、今に始まったことじゃない。納得できるものが書けるまで、書いている。お陰で、二本ぐらいペンを買うことになった。
書きながら自分の気持ちを整理するから毎回長くなるのだと思う。でも、そういうところが良い。そうしたら、はっきりと、強く、より明確に分かるから。でも、あまり書くと全部読まれないのだろう。そうすると、この手紙も読まれないのだろうか。悲しくなって、短い手紙を書く練習をしようと思う。これは失敗作だ。でも、短いものを読む前に、こういう働きがけがあったことは知ってほしい。だから、同封した。
敬具』
『森近霖之助様へ
好きだ
霧雨魔理沙より』
あえて、書かなかったのであろうか。書けなかったのだと阿求は思った。そして、それから、丁寧に封をして、咲夜達の返事と一緒にポストへ投函した。
※
森近霖之助の元に二通が手紙が届いたのは翌日の朝であった。それから、霧雨魔理沙が来た。霖之助は一度裏に戻り、手早く書をしたためると、魔理沙に手渡した。
「帰ったら読んでくれ」
「今読んじゃダメなのかよ?」
「ダメだ」
しかしこのラブレターの人物の組み合わせは...さすがに吹き出してしまった。(その辺の二次は知らないので)
阿求のレミリアへの返事はどう書いたのかが気になるな...
話は すっ、と 締め括られる 素敵
手紙の旅 このお話の主人公は件の手紙なのでしょう そして送り主の思い
つまり眠れない夜を過ごすのは・・・