梅雨の時期、今日も憂鬱な雨が降る。しかし、当然農家にとっては恵みの雨である。
なので憂鬱などと言ったら罰が当たりかねないと思われるが、外出を好む者たちにとっては退屈な日々には違いない。
ミズナラの木に住む三人の天体妖精たちも、ご多分にもれず気力を持て余していた。
サニーミルクは窓の外を眺めてため息をつく。
「あ~あ、とっとと晴れないかしら」
椅子に座って読書中のルナチャイルドが、ページから目をそらさずにつぶやいた。
「たまにはいいじゃない、ゆっくり本が読めるし、季節には季節ごとの楽しみ方があるでしょ」
「私はルナみたいにインドア派じゃないし、本を読むなんて性に合わないもの」
「そんな事言わずに、この小説でも読んでみない」
「ああ、気が向いたらね」
サニーはルナの勧めた本にあまり興味を示さず、もう一度窓の外を見る。
「晴れたら何して遊ぼうかしら」
ルナが口を尖らす。
「もうさっきからサニーはそればっかり」
「だってぇ、退屈なんだもん、最近撮影もないし」
階段を下りてくる音がして、新聞を持ったスターサファイアがドアを開けた。
手には今日の新聞紙が握られている。
「ねえ、2人とも聞いて」
雰囲気からして、何か面白そうな事をスターが見つけたらしい。
「今朝の新聞、今の私たちに便利そうなものが載ってたの」
スターが見せた新聞には、河童が人里の龍神像を修理したと言う記事が載っていた。
「知ってる? これって天気を予測する機能があるんだって」
サニーがスターにコーヒーカップを渡して聞いた。
「知ってるわ、それがどうかしたの?」
「ここに河童が新しい龍神像を制作中って書いてあるじゃない、的中率は今までの7割程度から9割程度になるそうよ。だから、古い龍神像を私たちが頂くのはどうかしら」
「面白そう、いつ晴れるか分かるって素敵」サニーは乗り気だ。
「古いのでも、的中率7割程度なら私たちにとって十分よ」ルナも興味深そうだ。
ちょうど雨が止み、雲間から太陽光が射してきた、サニーの最終確認。
「やっちゃう?」
「「うんうん」」
「よーし、今日はその龍神像を頂くわよ」
「「「お~~~」」」
人里の広場では、すでに真新しい新型の龍神像が運び込まれていた。
制作者の河城にとりが天候予知装置の最終確認を行っていた。
「うん、これで従来型より的中率は良いはずだよ」スイッチを入れた。
龍神の目が晴れを表す白色に光った。
雨なら青、曇りは灰色に光る、他にも色があるが、これは滅多にない。
「ありがとうございます」 里の有力者らしき人物がにとりに礼を言う。
それから広場で少し早い小宴会になり、にとりは里の人間からお茶や菓子をごちそうになった。
幾人かが今日の仕事を早めに切り上げ、友好的な妖怪のにとりと談笑する。
その中に、仙人の茨木華扇の姿もあった。
「この前の大地滑りの時、河童さんたちも被害なかったのですか?」
「ええ、おかげさまで」
「あそこは地盤も強固だったのに、どうしてああなったんでしょうねえ?」
「ええと……そ、それは、まあ誰も犠牲にならなかったんだからいいんじゃないの」
仙人はにとりに耳打ちした
「本当は、河童さん達がやったんでしょ?」
「そうです、ごめんなさい」
「この事は私と慧音さんだけが知っています。これに懲りたら、山の神様の妙な話に乗せられちゃダメよ」
にとりが説教されている様は哀れに見えたが、おかげで三妖精たちは古い龍神像が置かれている広場の片隅にたどり着けた。
姿は見えなくしてあるが、周囲の喧騒が聞こえなくなるのはかえって不自然なので、ルナの音を消す能力は使っていない。
「いま、この辺には誰もいないからチャンスよ」
三人は自分の背丈ほどの龍神像を担ぎ、人里から脱出する。
担いでいるのはサニーとルナだけで、最後尾のスターはちゃっかり担ぐふりだけ。
「ひい、ちょっとスター、サニー、ちゃんと持ってる?」
「後はしっかり持っているわ、安心して」
「私は首の方を持っているわ」
「私に一番荷重かかっているじゃないの」
「潜入する時ルナは能力使ってなかったでしょ」
人里の外れまで来て、三人は能力を解除し、ここで一休み。
「ルナご苦労さん、ここでちょっと休みましょう」
スターは腰をおろし、ふと、龍神像の目に違和感を覚えた。
「ねえ、像の目が少し赤く光っているわよ」
スターが新聞記事を思いだした。
「確か、白は晴れ、青は雨、灰色は曇り、じゃあ赤は……なんだっけ?」
「うーん、赤いから、真っ赤な夕焼けとかかな?」サニーが適当に応える。
「それはロマンチックね」とルナ。
一休みして家のある神社の方角に近づけば近づくほど、像の目は赤みを増してきた。
博麗神社に到達しても収まらず、家である大木の手前でもっとも真っ赤になった。
不思議に思って、また神社に像を近づけると、やはり濃い赤になっていく。
「うーん、これは晴れでも雨でも曇りでもない天候現象が、この辺で起こると言う事よね」
ルナの考察にサニーもスターも同意した。
「でも、まあいいか、じっくり何が起こるのか観察しない」 サニーはあくまで能天気だ。
「まあ、異変とかと言うほどじゃないでしょ」 ちょっと心配だったルナも考え直した。
「じゃあ、私はちょっと出かけてくるわ」 スターはまたどこかへ出かけて行った。
もうすぐ日が暮れる時刻だった。ルナがサニーの後に続いて家に入ろうとした時、サニーが急に足を止めたので、ルナはその背中にぶつかってしまった。
顔を見るとサニーはぽかんと口を開けて、夕陽が沈む方向とは別の方角を見上げていた。
「どうしたの?」
「なんか、宵の明星って、二つあったっけ?」
「あるわけ無いじゃない」
「でも、もうひとつ、暗い星があるような気がする」
「ええっ!?」
サニーが見つけた何かは、宵の明星の近くの空に浮かんでいた。
星かと思ったが、どうもそうではないらしい。何かの落下物に見える。
「あれは星じゃなくて、隕石か何か? もしかしてあの赤い目って、この事を意味していたのかしら? とすると……」
「赤い目は何かが降ってくる事を示していて、ここで赤みが最大になった、と言う事はつまり……」
「「やべえ」」
2人は咄嗟に羽をはばたかせて、同じ方向へ飛び退いた。
次の瞬間、そこに降ってきたのは、巨大な桶のような円筒形の物体。
「危なかった、何なのよコレ」
その場にへたり込む2人。
外側が木の板で覆われたその桶のような物体は、曲面の部分を地面につけて接地していて、巨大な車輪のようにも見えた。何か不思議な力で守られているのか、傷はあまりついてなく、窓やドアのような物が表面に見受けられた。
「これって、誰かが住んでいたのかな」 ルナが巨大な桶のような物体を指でつついた。
ぐらり、と桶が2人に向かって動き出す。
「ええっ!」
「ちょっ、ルナ、何やったの?」
「何もやってないわよ!」
2人は走って逃げ、桶は次第に加速して2人の後をついてくる。
「こんなベタな目にあうなんて」
「ルナのせいよ」
「私のせいじゃないってば~」
飛べばいいのにと思うが、そこは妖精、走って逃げると言う事しか頭にない。
神社と大木を結ぶ小道の傍らでスターが見物していた、
満面の笑みで。
「サニー、ルナー、大丈夫よ、あなた達は私の心の中で永久に生き続けるからね~」
「「この薄情者~」」
博麗神社が前方に見えてきた。もはや霊夢に何とかしてもらうしかない。
「霊夢さん助けて~」
境内に腰掛けてお茶を飲んでいた霊夢は、気だるそうに振り向いてお茶を吹きだした。
「何よそのでっかいの!」
「空から急に落ちてきて、勝手に転がり出したんですう」
サニーはようやく横っ飛びすれば良い事に気づいて難をのがれたが、ルナはまだ律儀にまっすぐ走り続けている。もう神社までわずかな距離しかない。
「霊夢さん何とかしてぇ」
「横にジャンプすればいいでしょ」
「そうだった、あっ」
ついにその巨大な桶は、転んだルナを巻き込みつつ、豪快な音を上げて神社と社務所を粉砕した。
神社の修復が終わるまで魔理沙の家で過ごさせてもらい、朝の食卓で霊夢はその事件の新聞記事を聞かされた。
「見ろよ霊夢『月ロケットの一段目が落下、博麗神社壊滅(笑)』だってさ」
「失敬な、なにが(笑)よ」
「だって見出しにそう書いてあるんだから仕方ないだろ」
「それにしても、ずっと前月に行った時のロケットが空を漂っていたなんてね」
「あの巨大桶はパチュリー達がどうにかして回収したそうだぜ」
食卓には、もう一人の遭難者のルナチャイルドもいた。
「魔理沙さん、お世話になってすいません」
「いいって事よ。しかし本当に2人の元へ帰るつもりなのか?」
「もしかして、虐待されてるんじゃない」
「そんな事ないですよ、これくらい妖精なら大丈夫ですし、ああ見えても2人きりだと何もできないんです」
誰かがドアを叩く音が聞こえた。サニーとスターだった。
「ルナ~迎えに来たよ」
「おっけー。じゃあ魔理沙さん、霊夢さん、お世話になりました」
ルナはぺこりとお辞儀をすると、仲間とともに帰って行った。
「あいつらなりの絆、なのかもな」 魔理沙がつぶやく。
「あ~あ、ひどい目にあったわ」 ルナがぼやく
「ルナも横へ飛べば良かったのにね」 サニーが笑い、スターはしれっとした顔をしている。
「2人とも災難ね。私は用事の途中でたまたまその場にいなかったけど」
「そうだったっけ?」
「そうよそうよ、それにしても、あの龍神像の目の色って、異変が起こるという事だったのね。あれ、誰かがいる」
「ほう、私の技術もそこまで行っていたか」
突然誰かの声が聞こえ、三人の目の前にレインコートのような服を着た河童があらわれた。
「ひゃあ、に、にとりさん?」
ルナが腰を抜かした。河童の河城にとりは満足そうに笑っている。
「これで思い知ったろう? 人の物を盗むと因果応報で罰が当たるんだよ」
「さ、最初からばれていたんですね」
にとりは腕を組んで、本人にとって最大限の威厳を込めて言う。
「河童の機械を盗むとは、妖精の割に良い度胸をしているね。一部始終観察されていたとも知らずに」
スターはすかさず土下座した。
「ご、ごめんなさい、私はサニーとルナを止めようとしたんです!」
「ちょっと、あんたも乗り気だったくせに」
「そうよ、もとよりお前が始めた事だろうが」
サニーが自分とルナの姿を消し、ルナも自分とサニーの音を消して、にとりそっちのけでスターをひっぱたこうとするが、生物の位置を感知できるスターは蝶のように舞い、攻撃をかわした。
「あらいやだ、実は三妖精最強は私だったりして」
「今のやり取りも含めて、存外面白いものを見せてもらったよ。楽しませてもらったお礼にその龍神像はあげる。この私に感謝しなさい」
「は、はい、すみません」
「これに懲りて、悪戯はもうしちゃダメだよ。やらかすんだったらそれこそ、仙人も出しぬけるくらいに巧みにやらなきゃ」
サニーが三人を代表して誓った。
「ええと、私たちは改心します」
にとりはそれを聞いて満足そうにうなずき、姿を消した。
「ふう、何される事かと思ったわ」 ルナがほっと一息ついた。
サニーとスターはまたいつものテンションに戻っていた。
「よーし、これからは心を入れ替えて、夏の悪戯計画はもっと巧妙かつ悪質化させるぞ~」
「お~~」
「そうなの?」
(もともと悪戯好きなのが妖精だからまあいっか。死んだり怪我させたりはよしなよ」)
にとりは苦笑しつつ、そんな自由な妖精が、ちょっとだけうらやましく思うのだった。
もうすぐ梅雨が明ける。
なので憂鬱などと言ったら罰が当たりかねないと思われるが、外出を好む者たちにとっては退屈な日々には違いない。
ミズナラの木に住む三人の天体妖精たちも、ご多分にもれず気力を持て余していた。
サニーミルクは窓の外を眺めてため息をつく。
「あ~あ、とっとと晴れないかしら」
椅子に座って読書中のルナチャイルドが、ページから目をそらさずにつぶやいた。
「たまにはいいじゃない、ゆっくり本が読めるし、季節には季節ごとの楽しみ方があるでしょ」
「私はルナみたいにインドア派じゃないし、本を読むなんて性に合わないもの」
「そんな事言わずに、この小説でも読んでみない」
「ああ、気が向いたらね」
サニーはルナの勧めた本にあまり興味を示さず、もう一度窓の外を見る。
「晴れたら何して遊ぼうかしら」
ルナが口を尖らす。
「もうさっきからサニーはそればっかり」
「だってぇ、退屈なんだもん、最近撮影もないし」
階段を下りてくる音がして、新聞を持ったスターサファイアがドアを開けた。
手には今日の新聞紙が握られている。
「ねえ、2人とも聞いて」
雰囲気からして、何か面白そうな事をスターが見つけたらしい。
「今朝の新聞、今の私たちに便利そうなものが載ってたの」
スターが見せた新聞には、河童が人里の龍神像を修理したと言う記事が載っていた。
「知ってる? これって天気を予測する機能があるんだって」
サニーがスターにコーヒーカップを渡して聞いた。
「知ってるわ、それがどうかしたの?」
「ここに河童が新しい龍神像を制作中って書いてあるじゃない、的中率は今までの7割程度から9割程度になるそうよ。だから、古い龍神像を私たちが頂くのはどうかしら」
「面白そう、いつ晴れるか分かるって素敵」サニーは乗り気だ。
「古いのでも、的中率7割程度なら私たちにとって十分よ」ルナも興味深そうだ。
ちょうど雨が止み、雲間から太陽光が射してきた、サニーの最終確認。
「やっちゃう?」
「「うんうん」」
「よーし、今日はその龍神像を頂くわよ」
「「「お~~~」」」
人里の広場では、すでに真新しい新型の龍神像が運び込まれていた。
制作者の河城にとりが天候予知装置の最終確認を行っていた。
「うん、これで従来型より的中率は良いはずだよ」スイッチを入れた。
龍神の目が晴れを表す白色に光った。
雨なら青、曇りは灰色に光る、他にも色があるが、これは滅多にない。
「ありがとうございます」 里の有力者らしき人物がにとりに礼を言う。
それから広場で少し早い小宴会になり、にとりは里の人間からお茶や菓子をごちそうになった。
幾人かが今日の仕事を早めに切り上げ、友好的な妖怪のにとりと談笑する。
その中に、仙人の茨木華扇の姿もあった。
「この前の大地滑りの時、河童さんたちも被害なかったのですか?」
「ええ、おかげさまで」
「あそこは地盤も強固だったのに、どうしてああなったんでしょうねえ?」
「ええと……そ、それは、まあ誰も犠牲にならなかったんだからいいんじゃないの」
仙人はにとりに耳打ちした
「本当は、河童さん達がやったんでしょ?」
「そうです、ごめんなさい」
「この事は私と慧音さんだけが知っています。これに懲りたら、山の神様の妙な話に乗せられちゃダメよ」
にとりが説教されている様は哀れに見えたが、おかげで三妖精たちは古い龍神像が置かれている広場の片隅にたどり着けた。
姿は見えなくしてあるが、周囲の喧騒が聞こえなくなるのはかえって不自然なので、ルナの音を消す能力は使っていない。
「いま、この辺には誰もいないからチャンスよ」
三人は自分の背丈ほどの龍神像を担ぎ、人里から脱出する。
担いでいるのはサニーとルナだけで、最後尾のスターはちゃっかり担ぐふりだけ。
「ひい、ちょっとスター、サニー、ちゃんと持ってる?」
「後はしっかり持っているわ、安心して」
「私は首の方を持っているわ」
「私に一番荷重かかっているじゃないの」
「潜入する時ルナは能力使ってなかったでしょ」
人里の外れまで来て、三人は能力を解除し、ここで一休み。
「ルナご苦労さん、ここでちょっと休みましょう」
スターは腰をおろし、ふと、龍神像の目に違和感を覚えた。
「ねえ、像の目が少し赤く光っているわよ」
スターが新聞記事を思いだした。
「確か、白は晴れ、青は雨、灰色は曇り、じゃあ赤は……なんだっけ?」
「うーん、赤いから、真っ赤な夕焼けとかかな?」サニーが適当に応える。
「それはロマンチックね」とルナ。
一休みして家のある神社の方角に近づけば近づくほど、像の目は赤みを増してきた。
博麗神社に到達しても収まらず、家である大木の手前でもっとも真っ赤になった。
不思議に思って、また神社に像を近づけると、やはり濃い赤になっていく。
「うーん、これは晴れでも雨でも曇りでもない天候現象が、この辺で起こると言う事よね」
ルナの考察にサニーもスターも同意した。
「でも、まあいいか、じっくり何が起こるのか観察しない」 サニーはあくまで能天気だ。
「まあ、異変とかと言うほどじゃないでしょ」 ちょっと心配だったルナも考え直した。
「じゃあ、私はちょっと出かけてくるわ」 スターはまたどこかへ出かけて行った。
もうすぐ日が暮れる時刻だった。ルナがサニーの後に続いて家に入ろうとした時、サニーが急に足を止めたので、ルナはその背中にぶつかってしまった。
顔を見るとサニーはぽかんと口を開けて、夕陽が沈む方向とは別の方角を見上げていた。
「どうしたの?」
「なんか、宵の明星って、二つあったっけ?」
「あるわけ無いじゃない」
「でも、もうひとつ、暗い星があるような気がする」
「ええっ!?」
サニーが見つけた何かは、宵の明星の近くの空に浮かんでいた。
星かと思ったが、どうもそうではないらしい。何かの落下物に見える。
「あれは星じゃなくて、隕石か何か? もしかしてあの赤い目って、この事を意味していたのかしら? とすると……」
「赤い目は何かが降ってくる事を示していて、ここで赤みが最大になった、と言う事はつまり……」
「「やべえ」」
2人は咄嗟に羽をはばたかせて、同じ方向へ飛び退いた。
次の瞬間、そこに降ってきたのは、巨大な桶のような円筒形の物体。
「危なかった、何なのよコレ」
その場にへたり込む2人。
外側が木の板で覆われたその桶のような物体は、曲面の部分を地面につけて接地していて、巨大な車輪のようにも見えた。何か不思議な力で守られているのか、傷はあまりついてなく、窓やドアのような物が表面に見受けられた。
「これって、誰かが住んでいたのかな」 ルナが巨大な桶のような物体を指でつついた。
ぐらり、と桶が2人に向かって動き出す。
「ええっ!」
「ちょっ、ルナ、何やったの?」
「何もやってないわよ!」
2人は走って逃げ、桶は次第に加速して2人の後をついてくる。
「こんなベタな目にあうなんて」
「ルナのせいよ」
「私のせいじゃないってば~」
飛べばいいのにと思うが、そこは妖精、走って逃げると言う事しか頭にない。
神社と大木を結ぶ小道の傍らでスターが見物していた、
満面の笑みで。
「サニー、ルナー、大丈夫よ、あなた達は私の心の中で永久に生き続けるからね~」
「「この薄情者~」」
博麗神社が前方に見えてきた。もはや霊夢に何とかしてもらうしかない。
「霊夢さん助けて~」
境内に腰掛けてお茶を飲んでいた霊夢は、気だるそうに振り向いてお茶を吹きだした。
「何よそのでっかいの!」
「空から急に落ちてきて、勝手に転がり出したんですう」
サニーはようやく横っ飛びすれば良い事に気づいて難をのがれたが、ルナはまだ律儀にまっすぐ走り続けている。もう神社までわずかな距離しかない。
「霊夢さん何とかしてぇ」
「横にジャンプすればいいでしょ」
「そうだった、あっ」
ついにその巨大な桶は、転んだルナを巻き込みつつ、豪快な音を上げて神社と社務所を粉砕した。
神社の修復が終わるまで魔理沙の家で過ごさせてもらい、朝の食卓で霊夢はその事件の新聞記事を聞かされた。
「見ろよ霊夢『月ロケットの一段目が落下、博麗神社壊滅(笑)』だってさ」
「失敬な、なにが(笑)よ」
「だって見出しにそう書いてあるんだから仕方ないだろ」
「それにしても、ずっと前月に行った時のロケットが空を漂っていたなんてね」
「あの巨大桶はパチュリー達がどうにかして回収したそうだぜ」
食卓には、もう一人の遭難者のルナチャイルドもいた。
「魔理沙さん、お世話になってすいません」
「いいって事よ。しかし本当に2人の元へ帰るつもりなのか?」
「もしかして、虐待されてるんじゃない」
「そんな事ないですよ、これくらい妖精なら大丈夫ですし、ああ見えても2人きりだと何もできないんです」
誰かがドアを叩く音が聞こえた。サニーとスターだった。
「ルナ~迎えに来たよ」
「おっけー。じゃあ魔理沙さん、霊夢さん、お世話になりました」
ルナはぺこりとお辞儀をすると、仲間とともに帰って行った。
「あいつらなりの絆、なのかもな」 魔理沙がつぶやく。
「あ~あ、ひどい目にあったわ」 ルナがぼやく
「ルナも横へ飛べば良かったのにね」 サニーが笑い、スターはしれっとした顔をしている。
「2人とも災難ね。私は用事の途中でたまたまその場にいなかったけど」
「そうだったっけ?」
「そうよそうよ、それにしても、あの龍神像の目の色って、異変が起こるという事だったのね。あれ、誰かがいる」
「ほう、私の技術もそこまで行っていたか」
突然誰かの声が聞こえ、三人の目の前にレインコートのような服を着た河童があらわれた。
「ひゃあ、に、にとりさん?」
ルナが腰を抜かした。河童の河城にとりは満足そうに笑っている。
「これで思い知ったろう? 人の物を盗むと因果応報で罰が当たるんだよ」
「さ、最初からばれていたんですね」
にとりは腕を組んで、本人にとって最大限の威厳を込めて言う。
「河童の機械を盗むとは、妖精の割に良い度胸をしているね。一部始終観察されていたとも知らずに」
スターはすかさず土下座した。
「ご、ごめんなさい、私はサニーとルナを止めようとしたんです!」
「ちょっと、あんたも乗り気だったくせに」
「そうよ、もとよりお前が始めた事だろうが」
サニーが自分とルナの姿を消し、ルナも自分とサニーの音を消して、にとりそっちのけでスターをひっぱたこうとするが、生物の位置を感知できるスターは蝶のように舞い、攻撃をかわした。
「あらいやだ、実は三妖精最強は私だったりして」
「今のやり取りも含めて、存外面白いものを見せてもらったよ。楽しませてもらったお礼にその龍神像はあげる。この私に感謝しなさい」
「は、はい、すみません」
「これに懲りて、悪戯はもうしちゃダメだよ。やらかすんだったらそれこそ、仙人も出しぬけるくらいに巧みにやらなきゃ」
サニーが三人を代表して誓った。
「ええと、私たちは改心します」
にとりはそれを聞いて満足そうにうなずき、姿を消した。
「ふう、何される事かと思ったわ」 ルナがほっと一息ついた。
サニーとスターはまたいつものテンションに戻っていた。
「よーし、これからは心を入れ替えて、夏の悪戯計画はもっと巧妙かつ悪質化させるぞ~」
「お~~」
「そうなの?」
(もともと悪戯好きなのが妖精だからまあいっか。死んだり怪我させたりはよしなよ」)
にとりは苦笑しつつ、そんな自由な妖精が、ちょっとだけうらやましく思うのだった。
もうすぐ梅雨が明ける。
あとお約束のごとく割りを食うルナがかわいい。
この作品も後書きの通りに、三月精のいちエピソードのようで良かったです