今日は咲夜さんが不機嫌だ。
いや、今日と言わずに最近ずっと不機嫌なのだ。
お茶やお弁当をくれる時もいつもより乱暴だし、いつもよりキスの時間が短い。
そういえば、最近新しい友人が遊びに来る。
もしかしたら、その為の意見調整でストレスが溜まってるのかもしれない。
相手は誰か、聞いて驚き…なんとあの命蓮寺御一行である。
誰しもが意外に思うだろう。
なんといっても悪魔、悪魔で邪悪。
人を食らう事が食事で、最低限に抑えているとはいえ、レミリアは人食いの代表格なのだから。
向こうの言い分によると、それでも食べずにいられるようになる方法を模索さするのだそうだ。
レミリアは、勿論最初はこの意見に強く反発していた。
吸血こそが、暴食こそが吸血鬼のアイデンティティなのだ。それは如何様な神仏にさえ変えることのできない絶対区分だと。
まあ、そんな事を言うだろうとは思っていた。
予想の範囲内である。
実は私も人食いだし…まあ吸血鬼よりかは衝動は無いし皆無だし…そもそも食べられるというだけで、食べなければならない必要性は無いのだが。
これに関しては、実は幻想郷に住まう妖怪達の殆どに当てはまる。
大体、人を物理的に食わねばやっていられぬ、などという妖怪にとってみれば地獄に等しいこの幻想郷にそんな酔狂な妖怪はいない。
いや、レミリアがそうなのだけれども。
人里を襲ってはならぬ、人を食らってはいかん、食っていいのは月に一人二人いるかいないかの外の人間である。
生殺し、そういう土地なのだ。
よく外の世界から来たと思われるチンピラ妖怪はここを人間牧場だのと揶揄するが、実際この箱庭に飼われているのは我々妖怪なんじゃないのかと思うほどだ。
そういうチンピラも、すぐに博麗の巫女に消滅…良くて封印されてしまう。
巫女から逃げ隠れしおおせたとしてもスキマ妖怪がやってくるのだが。
そうつまりここは妖怪をギリギリ生かしてはくれるが、だからと言って天国ではないのだ。
そんな訳で、あの寺の連中も紅魔館とは共存し得る…と算段を付けて接触してきたのだ。
結果は、割と最悪だったが。
もっとも、平和主義者にとってはの話だが。
私と聖白蓮和尚、咲夜さんと一輪さん&雲山さん、そしてレミリアと寅丸星。
それぞれが弾幕抜き、手加減ありの真剣勝負により雌雄を決し合った。
拳と拳を、刃と刃を己の意思に従いぶつけあった。
その『意見交換会』は熾烈を極め、私の傷は全治一週間だったし咲夜さんは筋肉痛と単純骨折で一か月仕事謹慎だった(この間咲夜さんを看病しまくるという役得イベントがあり、残念ながらメイド妖精達のクレームの倍増という結果まで生んでしまったのは誠に遺憾と言わざるを得ない)程の過激さだった。
最後の最後、レミリアは元人食いと戦った事により何か思うところがあったらしく…今では良き友人になっている。
…実はフランとぬえさんは最初から仲がいいので、そっちを起点にじっくり説得すれば実戦が起きなかったかも、というのは秘密にしている。
その一件以来、『猫は好きだけどトラは怖い…』派と『ネズミが好きだからトラはNG』派と『トムジェリが至高』派の三派閥に分かれた妖精メイド達による言論戦争が始まってしまったので、咲夜さんはその上司という事で駆け回っていたりする。
……と、咲夜さんが不機嫌な理由を考えていたら、もう太陽が真上に上ってしまった。
そろそろ咲夜さんがお弁当を届けに来る時間だ。
ついでに門番妖精と交代する時間でもある。
暫く楽しみにしていると、すぐに咲夜さんが現れた。
手に持ったバスケットにはお弁当の袋が入っていた…のは分かるのだが、…何故だろう、私の目には卵焼きしか見えない。
おかしいな、いつもならこれにサラダとごはんがついてついでに咲夜さんお手製のお茶と咲夜さんを膝枕の権利としてピクニック用のシートまでついてる筈。
「……ん」
「え?」
「ん!」
バスケットを突き出してくる、執拗にだ。
受け取れと?
まあ、受け取りはするが……うおっと。
咲夜さんの手からバスケットを受け取った瞬間、咲夜さんは時間を止めて消えてしまった。
いや、……唇にかすかな感触が残っている。
どうやら完全に嫌われている訳ではないらしい。
さて、じゃあどうやったら機嫌が直るのか…。
◆
お昼は食べ終えた。
ついでにシフトも交代した。
今の私はフリー、つまり暇だ。
なのに…。
「それで? スリーサイズは? 日々の食事は? 健康法とか? 夜の営みとか好きな野菜は? 無人島に持っていくとしたら? ねえ? 答えてくださいよー門番さん!」
鬱陶しいのに絡まれてしまった
私は私アレンジ版太極拳百八十八式の動きを時速1mで動くのに忙しいんだ。
帰ってほしい、しかしここで無視するとある事無いこと書き立てられる。
別に私はどうでもいいが、咲夜さんが気にするのだ。
あの人なら身内を馬鹿にされて妖怪の山と単騎で全面戦争をやりかねないから困る。
そこで私は寝ることにした。
ちなみに次の日、朝刊は『紅魔館の門番奇怪な眠り!』の見出しが一面だった。
他に書くこと無かったのだろうが。
時間は戻って、射命丸文が寝たふりの私を観察するのに飽きて帰ってしまった直後。
「おいめーりん!」
チルノだ。
後ろに大妖精を連れて、意気揚揚と寝たふりを止めた私に話しかけてきた。
「相談があるの、聞け!」
命令形ですか、そうですか。
その小さな胸を精一杯張って、どうしようもないくらい上から目線で私を指さす。
「大ちゃんにプレゼントしたいの! 教えて!」
うわ適当。
まあいいや、この妖精の頭がちんぷんかんぷんなのはいつもの事だ。
とりあえず花壇の花で小さな花冠でも教えてあげよう。
そういえば、レミリアも昔は花冠とかしてたな。懐かしい。
しかしフランがそういうのを妙に嫌がってたから止めたんだった。
なんでフランが嫌がったのかは知らないが、冠よりも指輪の方が好きだとか言っていたような気がしないでもない。
とりあえずは大ちゃんの緑髪に映えるような赤い花から厳選して花冠の作り方を教えてあげた。
咲夜さんには青い花が似合うだろう。いや、私の髪と同じ紅でもいいかもしれない。
やれやれ、こういうのは妖精だから通じるだろうけど、咲夜さんもこれで機嫌を直してくれたらいいのに…。
あ、思い出した。
◆
「咲夜さん、バレンタインデーのお返しです」
「今更!?」
いや、今日と言わずに最近ずっと不機嫌なのだ。
お茶やお弁当をくれる時もいつもより乱暴だし、いつもよりキスの時間が短い。
そういえば、最近新しい友人が遊びに来る。
もしかしたら、その為の意見調整でストレスが溜まってるのかもしれない。
相手は誰か、聞いて驚き…なんとあの命蓮寺御一行である。
誰しもが意外に思うだろう。
なんといっても悪魔、悪魔で邪悪。
人を食らう事が食事で、最低限に抑えているとはいえ、レミリアは人食いの代表格なのだから。
向こうの言い分によると、それでも食べずにいられるようになる方法を模索さするのだそうだ。
レミリアは、勿論最初はこの意見に強く反発していた。
吸血こそが、暴食こそが吸血鬼のアイデンティティなのだ。それは如何様な神仏にさえ変えることのできない絶対区分だと。
まあ、そんな事を言うだろうとは思っていた。
予想の範囲内である。
実は私も人食いだし…まあ吸血鬼よりかは衝動は無いし皆無だし…そもそも食べられるというだけで、食べなければならない必要性は無いのだが。
これに関しては、実は幻想郷に住まう妖怪達の殆どに当てはまる。
大体、人を物理的に食わねばやっていられぬ、などという妖怪にとってみれば地獄に等しいこの幻想郷にそんな酔狂な妖怪はいない。
いや、レミリアがそうなのだけれども。
人里を襲ってはならぬ、人を食らってはいかん、食っていいのは月に一人二人いるかいないかの外の人間である。
生殺し、そういう土地なのだ。
よく外の世界から来たと思われるチンピラ妖怪はここを人間牧場だのと揶揄するが、実際この箱庭に飼われているのは我々妖怪なんじゃないのかと思うほどだ。
そういうチンピラも、すぐに博麗の巫女に消滅…良くて封印されてしまう。
巫女から逃げ隠れしおおせたとしてもスキマ妖怪がやってくるのだが。
そうつまりここは妖怪をギリギリ生かしてはくれるが、だからと言って天国ではないのだ。
そんな訳で、あの寺の連中も紅魔館とは共存し得る…と算段を付けて接触してきたのだ。
結果は、割と最悪だったが。
もっとも、平和主義者にとってはの話だが。
私と聖白蓮和尚、咲夜さんと一輪さん&雲山さん、そしてレミリアと寅丸星。
それぞれが弾幕抜き、手加減ありの真剣勝負により雌雄を決し合った。
拳と拳を、刃と刃を己の意思に従いぶつけあった。
その『意見交換会』は熾烈を極め、私の傷は全治一週間だったし咲夜さんは筋肉痛と単純骨折で一か月仕事謹慎だった(この間咲夜さんを看病しまくるという役得イベントがあり、残念ながらメイド妖精達のクレームの倍増という結果まで生んでしまったのは誠に遺憾と言わざるを得ない)程の過激さだった。
最後の最後、レミリアは元人食いと戦った事により何か思うところがあったらしく…今では良き友人になっている。
…実はフランとぬえさんは最初から仲がいいので、そっちを起点にじっくり説得すれば実戦が起きなかったかも、というのは秘密にしている。
その一件以来、『猫は好きだけどトラは怖い…』派と『ネズミが好きだからトラはNG』派と『トムジェリが至高』派の三派閥に分かれた妖精メイド達による言論戦争が始まってしまったので、咲夜さんはその上司という事で駆け回っていたりする。
……と、咲夜さんが不機嫌な理由を考えていたら、もう太陽が真上に上ってしまった。
そろそろ咲夜さんがお弁当を届けに来る時間だ。
ついでに門番妖精と交代する時間でもある。
暫く楽しみにしていると、すぐに咲夜さんが現れた。
手に持ったバスケットにはお弁当の袋が入っていた…のは分かるのだが、…何故だろう、私の目には卵焼きしか見えない。
おかしいな、いつもならこれにサラダとごはんがついてついでに咲夜さんお手製のお茶と咲夜さんを膝枕の権利としてピクニック用のシートまでついてる筈。
「……ん」
「え?」
「ん!」
バスケットを突き出してくる、執拗にだ。
受け取れと?
まあ、受け取りはするが……うおっと。
咲夜さんの手からバスケットを受け取った瞬間、咲夜さんは時間を止めて消えてしまった。
いや、……唇にかすかな感触が残っている。
どうやら完全に嫌われている訳ではないらしい。
さて、じゃあどうやったら機嫌が直るのか…。
◆
お昼は食べ終えた。
ついでにシフトも交代した。
今の私はフリー、つまり暇だ。
なのに…。
「それで? スリーサイズは? 日々の食事は? 健康法とか? 夜の営みとか好きな野菜は? 無人島に持っていくとしたら? ねえ? 答えてくださいよー門番さん!」
鬱陶しいのに絡まれてしまった
私は私アレンジ版太極拳百八十八式の動きを時速1mで動くのに忙しいんだ。
帰ってほしい、しかしここで無視するとある事無いこと書き立てられる。
別に私はどうでもいいが、咲夜さんが気にするのだ。
あの人なら身内を馬鹿にされて妖怪の山と単騎で全面戦争をやりかねないから困る。
そこで私は寝ることにした。
ちなみに次の日、朝刊は『紅魔館の門番奇怪な眠り!』の見出しが一面だった。
他に書くこと無かったのだろうが。
時間は戻って、射命丸文が寝たふりの私を観察するのに飽きて帰ってしまった直後。
「おいめーりん!」
チルノだ。
後ろに大妖精を連れて、意気揚揚と寝たふりを止めた私に話しかけてきた。
「相談があるの、聞け!」
命令形ですか、そうですか。
その小さな胸を精一杯張って、どうしようもないくらい上から目線で私を指さす。
「大ちゃんにプレゼントしたいの! 教えて!」
うわ適当。
まあいいや、この妖精の頭がちんぷんかんぷんなのはいつもの事だ。
とりあえず花壇の花で小さな花冠でも教えてあげよう。
そういえば、レミリアも昔は花冠とかしてたな。懐かしい。
しかしフランがそういうのを妙に嫌がってたから止めたんだった。
なんでフランが嫌がったのかは知らないが、冠よりも指輪の方が好きだとか言っていたような気がしないでもない。
とりあえずは大ちゃんの緑髪に映えるような赤い花から厳選して花冠の作り方を教えてあげた。
咲夜さんには青い花が似合うだろう。いや、私の髪と同じ紅でもいいかもしれない。
やれやれ、こういうのは妖精だから通じるだろうけど、咲夜さんもこれで機嫌を直してくれたらいいのに…。
あ、思い出した。
◆
「咲夜さん、バレンタインデーのお返しです」
「今更!?」
不必要なエピソードや設定は削って、焦点を絞った方がいいと思います。
今までの文章を全部ほっぽり出してぶん投げた、みたいな。