何それ。意味が判らないわ。
負ける? 誰が? まさかこの私に向かって、そんなフザけた言葉を紡いでいるとでも言うの? 命が惜しくないのかしら。取るに足らない人生だとしても、分相応な楽しみくらいは持っているでしょう? それを全部失ってまで、私が負けるなんてボケた予言に殉じようだなんて、馬鹿馬鹿しいとは思わないの?
……そう。まあいいわ。
何にせよ、私は私の最強を証明してあげるだけよ。
論より証拠。百聞は一見に如かず。言葉という奴は、重ねれば重ねるほどに嘘の度合いを増すものね。可哀想なリグル・ナイトバグに、私をけしかけたのは貴方。だから貴方はそこで黙って見ていればいいわ。強者が弱者を蹂躙する、現実の凄惨な有様を。
うふふ。楽しみね。そう言えば久しく弱い者イジメなんてしてなかったわね。長い人生だもの。たまには刺激も必要だわ。
私はね、弱い奴の顔を見るのが大好きなの。
圧倒的な強者に相対した、弱者の顔。時には恐怖。時には絶望。時には媚びへつらった様な微笑みを浮かべて、時には自分の無力さに涙する。それを確認するという事は、つまり私の優位性を認識するという事だわ。
弱者を虐げる事によって、私は私を認識する。
鏡を見て身だしなみを整える様に、ね。
――あぁ、見つけた。
どうするの? 私はリグル・ナイトバグを見つけちゃったわよ。
これも全部、貴方のせい。いつもは視界の端にすら入れないあの可哀想な弱小妖怪と、この風見幽香が戦うシーンを見たいと希った貴方のせい。貴方の下らない好奇心が、一匹の妖怪の幸せを壊してしまうのだわ。
ほら見て、花畑の真ん中にペタンと座ってるあの子は、私に気付いてない。気付いてないあの子は、あんなにも幸せそう。
あらあら、何をしてるのかと思えば、お花の冠を作ってるのね。意外と可愛い所、あるじゃない。
どうしたの?
私がお花を摘んだくらいで怒る様な、そんな器の小さい妖怪だとでも思ったの?
この私を甘く見るなんて、貴方も随分偉くなったものね。何も知らない貴方に教えてあげるわ。花という存在はね、おしなべて自分の美しさを自覚している生き物なのよ。
摘まれるという事は、自らの美しさを認められたという事。承認欲求は、千切られる痛みや死への恐怖を容易く凌駕する。だから今、あの子に摘まれている花たちはあんなにも嬉しそう。摘まれなかった花たちは、自分が選ばれなかったという事実に落胆してる。摘まれて死ぬという事は、美しい花にとっては子孫を残す事なんて足元にも及ばない程に幸福な事なの。それを知っているからこそ、私は花を摘む存在に怒りを抱いたりしない。
本来なら、ね。
でも、あの子は駄目。あの子の事は、許してあげない。何故なら、貴方が私をけしかけたから。あの哀れな妖怪が徹底的に嬲られる様を見たいと、貴方が願ったから。
なーに? その表情。貴方は今更、自分がうっかり抱いてしまった好奇心を悔やんでいるの? たった一人無邪気に遊んでいるリグル・ナイトバグの幸福が踏み躙られる結末を、見たくないなんて考えているの?
駄目よ。もう遅いわ。
だって私は見つけてしまったもの。あの子を見つけてしまったもの。私自身、あの子がどんな表情を浮かべてくれるのか、楽しみで楽しみで仕方が無いのだもの。
そこで黙って悔やんでなさいな。下らない自分の好奇心を、ね。
「――そこで何をしているのかしら」
にっこりと微笑みながら、私は背後からリグル・ナイトバグに声を掛けたの。完成したばかりの花の冠を被ったリグルがこちらを振り向いて、そして「ヒッ」なんて可愛らしい悲鳴をあげたわ。
「あ、ああ、アナタは……アナタは……」
「お花を摘んだわね。懸命に生きている花を。自分自身を飾るなんて下らない目的の為に」
微笑みを崩さないまま、私は小首を傾げて見せたわ。震えながら立ち上がったリグルが、ふにゃりと泣きそうに歪んだ瞳で私を見ているわ。あぁ、なんて可愛らしい。なんて弱々しい存在なのかしら。
「ゆ、幽香さん……でも……でも……」
「何が『でも』なの? 貴女は摘まれる花の痛みを自覚して、その冠を紡いだの?」
リグルは私が花の冠を指差すと、ビクリと身を竦ませたわ。シャツの端をギュッと握りしめて私を見上げる唇が、小さく震えてるわよ。
「その……僕……僕……」
「『僕』……? ふふ。なーに? そんな男の子みたいな事、言っちゃって」
ふふん、と私が嘲笑してあげると、リグルの目から、とうとう涙が滲みだしたわ。
あらあら、泣いちゃったわねぇ。可哀想に。
「ご、ごめんなさい……ごめんなさい……でも、でも、ぼ、僕だって……僕だって……うぅうううぅぅうううう……」
唇を噛んで、リグルはポロポロ涙を流しながら私を見上げてる。大声を上げて泣き出さないという事が、この子の最後のプライドなのかしら。
「ううううぅううぅうぅぅぅう……僕だって……僕だって女の子なのに……うぐ……みんな、みんな僕の事を男の子みたいだって言うんです……っく……幽香さんまで……僕……僕……だから……ちょっとでも……ちょっとでも女の子みたいって……ううううぅぅ……可愛いって言って欲しくて……ううう、だから……お花の冠とか……そういう事をすれば……ううぅぅ……って思って……だから、僕……僕……」
――カチリ。
あら、何かしら。
スイッチ? 何かのスイッチかしら? 変な音が聞こえたわ。私の頭の中で。
「うぅ……? ゆ、幽香……さん……? 何を……?」
と思ったら、いつの間にか私はリグルの事を抱きしめてるじゃない。ギュッと抱きしめてるじゃない。ご丁寧に頭まで撫でてあげてるじゃない。
「――何を言ってるの? そんな事しなくたって、アナタはちゃんと可愛いじゃない」
あらあら。
この子を慰めてあげるなんて、随分優しい奴も居たものね。
ん? でも、おかしいわね。
ここには私とリグルしか居ないわね。
誰がリグルを慰めたのかしら?
「ほ、本当ですか……幽香さん……」
リグルが私の腕の中で、ちょっと頬を綻ばせてる――。
………………あれ?
私? 今リグルを慰めたのって、私? そっか。そうよね。だって私、気付かない内にこの子の事を抱きしめてるし。じゃあ、私が慰めてあげる事に対して、特に疑問は起きないわね。あぁ、成程。納得。
「この私に嘘を吐かせるつもりかしら」
自信満々な私の声。
ん? あれ? 何で? てか私、何しに来たんだっけ? あれ?
確か、リグルをめっためたに蹂躙しに来た筈よね? なのに私は、どうしてこんな事してるのかしら?
「……えへへ」
リグルが私の腕の中で、ふにゃりと笑って見せたわ。頬には涙の跡。赤くなった目はまだ濡れていて、真っ白な花の冠と緑の髪のコントラストがやけに心に来るわね。
心に来るってかヤバい。可愛すぎる。天使か。
皆さんおめでとうございます。天使はここに居ました。今まさに私が両手で抱きしめているこの子が天使です。ってことはここは天国? 楽園? ザナドゥ? いつの間に私は天国に召されたのかしら。ヤバいヤバいヤバい。倒れる。可愛すぎて倒れる。キュン死にする。何この子スゴくやらかい。肉そのものがフワフワやらかい。力を入れたら壊れちゃいそう。こんなに線も細いのに。贅肉なんて全然ないのに。どうしてこんなに身体が柔らかいのかしら。温かい。この子に触れてる部分がポカポカする。ついでに私の心もポカポカする。何これ。恋か。これが恋か。
「――僕って、可愛い、ですか?」
リグルがちょっと目を背けながら、照れ臭そうに言ったわ。
うんうんうんうんうんうんうんうんうんうんうんうん超可愛い。スゲー可愛い。他の追随を許さない位には可愛い。『僕』って言葉は私の乙女スイッチを容易くオンにするのね。ヤバい。このままだと私は死ぬ。死にます。心臓発作で死にます。もう既にオーバーヒート気味です。絶命します。本気で天に召されます。三十秒持たないかもしれません。風見幽香、死亡。死因、キュン死。デスノートより凶悪な効能だわ。
「当たり前じゃない。自分に自信を持ちなさい」
偉そうな事を抜かす私ですが、私は自分がこのまま死なない事への自信は持ててません。
私が言うと、リグルはパッと顔を明るくさせたわ。
「あ、ありがとうございます! 幽香さん位に綺麗な女の人に言われると、何だか僕も、その気になって来ちゃいます、ね……」
その気になるってなに!?
その気になるってなに!?
その気になるってなに!?
しかもこの子ドサクサに紛れて私の事綺麗って言った! 綺麗って言われた! うわヤバい結構私顔真っ赤なんじゃないかしら!? 耳までポカポカが登って来てるんだけど!
もうアレだ結婚しよう!
結婚! 結婚! レッツ・マリッジ! 幸せな家庭を築きましょう! どうしよう今なら私この勢いでこの子の子供産める気がする! 今までずっと孤高気取って来たのはこの日の為だったのね! 運命万歳!
「リグルちゃん」
「何ですか? 幽香さん」
いつの間にか私はリグルにちゃん付けしてるわね。
どうでも良いけど。最早。
「今度、もっと綺麗な花の冠を、貴女の為だけに作ってあげるわ」
あああああああああああああああ私の馬鹿! 馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿!
どうしてもう結婚まで覚悟してるのに、そんな遠回しなアピールしかできないのかしら! 臆病者! 私の臆病者! チキン! 風見鶏! もっと踏み込めば良いじゃない! 可愛さに気圧されてるんじゃないわよ! 貴女の子供が欲しいです! リピート・アフター・ミー! 貴女の子供が欲しいです!
「ほ、本当ですか……! 僕、幽香さんとまた、逢っても良いんですか……?」
思わせぶりな事言っちゃってえええええええええええ!!!
本当に天使か! 小悪魔か! 天使と悪魔を内包したパラドックスの超越者め! 貴女がルシファーか! 堕天使幻想入りか! 翼の折れたエンジェル!
「えぇ、待ってるわよ?」
まだ平静を演じられてる私は、リグルちゃんのおでこにそっとキスをして、もうこれ以上一緒に居ると本気で暴走してドン引きされかねないのを警戒して、一気にフワリと上空まで飛び上がったわ。白い花畑の真ん中にポツンと見えるリグルの姿を一瞥するだけで、想像妊娠余裕なレベルで胸がドキドキしたわ。
……ふぅ。
あぁ、何て言うか……アレね。
私の勝ちよね。
負ける? 誰が? まさかこの私に向かって、そんなフザけた言葉を紡いでいるとでも言うの? 命が惜しくないのかしら。取るに足らない人生だとしても、分相応な楽しみくらいは持っているでしょう? それを全部失ってまで、私が負けるなんてボケた予言に殉じようだなんて、馬鹿馬鹿しいとは思わないの?
……そう。まあいいわ。
何にせよ、私は私の最強を証明してあげるだけよ。
論より証拠。百聞は一見に如かず。言葉という奴は、重ねれば重ねるほどに嘘の度合いを増すものね。可哀想なリグル・ナイトバグに、私をけしかけたのは貴方。だから貴方はそこで黙って見ていればいいわ。強者が弱者を蹂躙する、現実の凄惨な有様を。
うふふ。楽しみね。そう言えば久しく弱い者イジメなんてしてなかったわね。長い人生だもの。たまには刺激も必要だわ。
私はね、弱い奴の顔を見るのが大好きなの。
圧倒的な強者に相対した、弱者の顔。時には恐怖。時には絶望。時には媚びへつらった様な微笑みを浮かべて、時には自分の無力さに涙する。それを確認するという事は、つまり私の優位性を認識するという事だわ。
弱者を虐げる事によって、私は私を認識する。
鏡を見て身だしなみを整える様に、ね。
――あぁ、見つけた。
どうするの? 私はリグル・ナイトバグを見つけちゃったわよ。
これも全部、貴方のせい。いつもは視界の端にすら入れないあの可哀想な弱小妖怪と、この風見幽香が戦うシーンを見たいと希った貴方のせい。貴方の下らない好奇心が、一匹の妖怪の幸せを壊してしまうのだわ。
ほら見て、花畑の真ん中にペタンと座ってるあの子は、私に気付いてない。気付いてないあの子は、あんなにも幸せそう。
あらあら、何をしてるのかと思えば、お花の冠を作ってるのね。意外と可愛い所、あるじゃない。
どうしたの?
私がお花を摘んだくらいで怒る様な、そんな器の小さい妖怪だとでも思ったの?
この私を甘く見るなんて、貴方も随分偉くなったものね。何も知らない貴方に教えてあげるわ。花という存在はね、おしなべて自分の美しさを自覚している生き物なのよ。
摘まれるという事は、自らの美しさを認められたという事。承認欲求は、千切られる痛みや死への恐怖を容易く凌駕する。だから今、あの子に摘まれている花たちはあんなにも嬉しそう。摘まれなかった花たちは、自分が選ばれなかったという事実に落胆してる。摘まれて死ぬという事は、美しい花にとっては子孫を残す事なんて足元にも及ばない程に幸福な事なの。それを知っているからこそ、私は花を摘む存在に怒りを抱いたりしない。
本来なら、ね。
でも、あの子は駄目。あの子の事は、許してあげない。何故なら、貴方が私をけしかけたから。あの哀れな妖怪が徹底的に嬲られる様を見たいと、貴方が願ったから。
なーに? その表情。貴方は今更、自分がうっかり抱いてしまった好奇心を悔やんでいるの? たった一人無邪気に遊んでいるリグル・ナイトバグの幸福が踏み躙られる結末を、見たくないなんて考えているの?
駄目よ。もう遅いわ。
だって私は見つけてしまったもの。あの子を見つけてしまったもの。私自身、あの子がどんな表情を浮かべてくれるのか、楽しみで楽しみで仕方が無いのだもの。
そこで黙って悔やんでなさいな。下らない自分の好奇心を、ね。
「――そこで何をしているのかしら」
にっこりと微笑みながら、私は背後からリグル・ナイトバグに声を掛けたの。完成したばかりの花の冠を被ったリグルがこちらを振り向いて、そして「ヒッ」なんて可愛らしい悲鳴をあげたわ。
「あ、ああ、アナタは……アナタは……」
「お花を摘んだわね。懸命に生きている花を。自分自身を飾るなんて下らない目的の為に」
微笑みを崩さないまま、私は小首を傾げて見せたわ。震えながら立ち上がったリグルが、ふにゃりと泣きそうに歪んだ瞳で私を見ているわ。あぁ、なんて可愛らしい。なんて弱々しい存在なのかしら。
「ゆ、幽香さん……でも……でも……」
「何が『でも』なの? 貴女は摘まれる花の痛みを自覚して、その冠を紡いだの?」
リグルは私が花の冠を指差すと、ビクリと身を竦ませたわ。シャツの端をギュッと握りしめて私を見上げる唇が、小さく震えてるわよ。
「その……僕……僕……」
「『僕』……? ふふ。なーに? そんな男の子みたいな事、言っちゃって」
ふふん、と私が嘲笑してあげると、リグルの目から、とうとう涙が滲みだしたわ。
あらあら、泣いちゃったわねぇ。可哀想に。
「ご、ごめんなさい……ごめんなさい……でも、でも、ぼ、僕だって……僕だって……うぅうううぅぅうううう……」
唇を噛んで、リグルはポロポロ涙を流しながら私を見上げてる。大声を上げて泣き出さないという事が、この子の最後のプライドなのかしら。
「ううううぅううぅうぅぅぅう……僕だって……僕だって女の子なのに……うぐ……みんな、みんな僕の事を男の子みたいだって言うんです……っく……幽香さんまで……僕……僕……だから……ちょっとでも……ちょっとでも女の子みたいって……ううううぅぅ……可愛いって言って欲しくて……ううう、だから……お花の冠とか……そういう事をすれば……ううぅぅ……って思って……だから、僕……僕……」
――カチリ。
あら、何かしら。
スイッチ? 何かのスイッチかしら? 変な音が聞こえたわ。私の頭の中で。
「うぅ……? ゆ、幽香……さん……? 何を……?」
と思ったら、いつの間にか私はリグルの事を抱きしめてるじゃない。ギュッと抱きしめてるじゃない。ご丁寧に頭まで撫でてあげてるじゃない。
「――何を言ってるの? そんな事しなくたって、アナタはちゃんと可愛いじゃない」
あらあら。
この子を慰めてあげるなんて、随分優しい奴も居たものね。
ん? でも、おかしいわね。
ここには私とリグルしか居ないわね。
誰がリグルを慰めたのかしら?
「ほ、本当ですか……幽香さん……」
リグルが私の腕の中で、ちょっと頬を綻ばせてる――。
………………あれ?
私? 今リグルを慰めたのって、私? そっか。そうよね。だって私、気付かない内にこの子の事を抱きしめてるし。じゃあ、私が慰めてあげる事に対して、特に疑問は起きないわね。あぁ、成程。納得。
「この私に嘘を吐かせるつもりかしら」
自信満々な私の声。
ん? あれ? 何で? てか私、何しに来たんだっけ? あれ?
確か、リグルをめっためたに蹂躙しに来た筈よね? なのに私は、どうしてこんな事してるのかしら?
「……えへへ」
リグルが私の腕の中で、ふにゃりと笑って見せたわ。頬には涙の跡。赤くなった目はまだ濡れていて、真っ白な花の冠と緑の髪のコントラストがやけに心に来るわね。
心に来るってかヤバい。可愛すぎる。天使か。
皆さんおめでとうございます。天使はここに居ました。今まさに私が両手で抱きしめているこの子が天使です。ってことはここは天国? 楽園? ザナドゥ? いつの間に私は天国に召されたのかしら。ヤバいヤバいヤバい。倒れる。可愛すぎて倒れる。キュン死にする。何この子スゴくやらかい。肉そのものがフワフワやらかい。力を入れたら壊れちゃいそう。こんなに線も細いのに。贅肉なんて全然ないのに。どうしてこんなに身体が柔らかいのかしら。温かい。この子に触れてる部分がポカポカする。ついでに私の心もポカポカする。何これ。恋か。これが恋か。
「――僕って、可愛い、ですか?」
リグルがちょっと目を背けながら、照れ臭そうに言ったわ。
うんうんうんうんうんうんうんうんうんうんうんうん超可愛い。スゲー可愛い。他の追随を許さない位には可愛い。『僕』って言葉は私の乙女スイッチを容易くオンにするのね。ヤバい。このままだと私は死ぬ。死にます。心臓発作で死にます。もう既にオーバーヒート気味です。絶命します。本気で天に召されます。三十秒持たないかもしれません。風見幽香、死亡。死因、キュン死。デスノートより凶悪な効能だわ。
「当たり前じゃない。自分に自信を持ちなさい」
偉そうな事を抜かす私ですが、私は自分がこのまま死なない事への自信は持ててません。
私が言うと、リグルはパッと顔を明るくさせたわ。
「あ、ありがとうございます! 幽香さん位に綺麗な女の人に言われると、何だか僕も、その気になって来ちゃいます、ね……」
その気になるってなに!?
その気になるってなに!?
その気になるってなに!?
しかもこの子ドサクサに紛れて私の事綺麗って言った! 綺麗って言われた! うわヤバい結構私顔真っ赤なんじゃないかしら!? 耳までポカポカが登って来てるんだけど!
もうアレだ結婚しよう!
結婚! 結婚! レッツ・マリッジ! 幸せな家庭を築きましょう! どうしよう今なら私この勢いでこの子の子供産める気がする! 今までずっと孤高気取って来たのはこの日の為だったのね! 運命万歳!
「リグルちゃん」
「何ですか? 幽香さん」
いつの間にか私はリグルにちゃん付けしてるわね。
どうでも良いけど。最早。
「今度、もっと綺麗な花の冠を、貴女の為だけに作ってあげるわ」
あああああああああああああああ私の馬鹿! 馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿!
どうしてもう結婚まで覚悟してるのに、そんな遠回しなアピールしかできないのかしら! 臆病者! 私の臆病者! チキン! 風見鶏! もっと踏み込めば良いじゃない! 可愛さに気圧されてるんじゃないわよ! 貴女の子供が欲しいです! リピート・アフター・ミー! 貴女の子供が欲しいです!
「ほ、本当ですか……! 僕、幽香さんとまた、逢っても良いんですか……?」
思わせぶりな事言っちゃってえええええええええええ!!!
本当に天使か! 小悪魔か! 天使と悪魔を内包したパラドックスの超越者め! 貴女がルシファーか! 堕天使幻想入りか! 翼の折れたエンジェル!
「えぇ、待ってるわよ?」
まだ平静を演じられてる私は、リグルちゃんのおでこにそっとキスをして、もうこれ以上一緒に居ると本気で暴走してドン引きされかねないのを警戒して、一気にフワリと上空まで飛び上がったわ。白い花畑の真ん中にポツンと見えるリグルの姿を一瞥するだけで、想像妊娠余裕なレベルで胸がドキドキしたわ。
……ふぅ。
あぁ、何て言うか……アレね。
私の勝ちよね。
私も完敗しました
【否決】(・ω・`)(・ω・` )( ´・ω・)( ´・ω・)
この言葉以外になにがあるというのかね?
僕っ子リグルはもっと流行るべき。
でもこれは双方幸せになる負け
···が、どうせ僕リグルはみすちーとか他のやつら侍らせてんだろうなあ
欲を言えば僕っ娘リグルならではの魅力をもっと見たかったかな。
あと風見鶏で大草原不可避
いったい何なのだろうね