地底の夜は、地上と同じく静かに訪れる。違うのは、地上の太陽が山あいに消えていくのに対し、地底では中空に浮かぶ人工太陽からゆっくりと光が失われていくこと。地上を知る妖怪は風情がないという。空には知る由もないが。
夕暮れ、というものが地底には存在しないらしい。段々と薄暗くなっていって、常夜灯が必要となれば日没とか、夜などと呼ばれる。昼でも暗いところは暗く、夜は意外と明るい。
そんな地底の一等地、地霊殿のオフィスでぽつんとひとり、空はデスクワークに真面目に取り組んでいた。
黒い髪に黒い翼、胸にはヤタガラスの赤い瞳。象の足はそのままだが、ペンを持つために右手の制御棒は取り外されて、机にたてかけてある。いつも羽織っているマントも、屋内ゆえに外套かけにつるされている。ついでにリボンで髪を高く結い上げた、空が書き物をするときのスタイルだった。
「本日の日誌。記入者は、霊烏路空。いつもと変わらない焼却量で異常なし。気付いたことなし」
今日もよく働いたものだ。ささっと走り書きを済ませて日誌を閉じる。
空は時計に目をやりながら、黒々とした羽をいっぱいに広げた。珍しく定時で終わったため、晩ごはんにはまだはやい。
こういうとき、空はうまく時間を潰せないタイプだ。手持ちぶさたで気を揉んで、時間を有効に使えない。とりあえずは自分のデスク周りの清掃をする。今月の標語では、身の回りの整理整頓が励行されていた。
空は掃除をしながら、頭の中でもやもやと、いろんなことを考えている。
さとり様のところへ行きたい。会ってお話したい。でもさとり様は、自分などよりよほど忙しい。邪魔になってはいけない。きっとさとり様は迷惑そうな素振りなんて見せずに構ってくれるだろうけど、さとり様のお仕事を代わりにできる妖怪はいない。だから、邪魔をしてはいけない。お燐や他のペットたちも我慢している……
そうだ、お燐はいないかな? お燐も仕事が終わっていればそのあたりをうろうろしているはず。地上侵略の失敗から、空は地霊殿のペットたちから白眼視されているが、あの猫だけは別だ。
お燐に会いに行こう。
今日は珍しく結論が出て、空は席を立った。忘れてはいけない制御棒とマントをまとめて小脇にかかえ、早足にオフィスを出ていく。デスクは片付け途中だが、ほぼ動物しかいないオフィス内はどこもかしこもそんな感じである。
お燐とは、空と同じく地霊殿の主である古明地さとりのペットである火車、火焔猫燐のことだ。燐は物事を要領よくこなす手際を持ちながら情に厚く、空が地上侵略を目論んだ際も、さとりに背いてまで空をかばってくれた。『腹心の友』、いつか読んだ本に書いてあったその言葉は、空にとって燐こそがふさわしい。
赤と黒のタイルを交互に踏んで歩く。と、廊下の角の向こうから、話し声が聴こえてきた。
「お燐―?」
声をかけてみると、果たしてその先にいたのはお燐ではなかった。空よりも年下の狸とかわうその妖怪が驚いたような顔をして立ち止まり、そしておざなりな会釈をして逃げるように立ち去った。
こんな扱いに苦笑いができる程度の余裕ができたのは最近のことだ。口元だけを歪めるように笑みを浮かべ、また歩き出す。今度はうかつに声を出さないように。
ようやく見つけた燐は、地霊殿のエントランスでたいそう騒がしくしていた。立派な角が特徴的な、鹿の妖怪と口論している。
「あたいの勘は間違いないですって。絶対なんかおかしいことやってる奴がいます!」
「だからといって、それがうちの課の業務であるかどうかは判断しかねます」
鹿の妖怪は、空と燐が所属するセクションの課長である。その課長がなにか申し立てる燐をあしらっている。そんな様子に見えた。
空は課長に会釈しつつ、燐の肩を叩く。
「どしたの、お燐。なんか揉めてる?」
「お空……あんたからも言ってやってよっ、あんた気づいてるでしょ? うちで処理してる廃棄物の量がおかしいって」
「あ、う、うん?」
燐の早口に理解が少し遅れる。普段からはつらつとした印象の彼女だが、こうまで興奮しているのは珍しい。
赤毛の頭ごしに課長を見やる。課長も管理職然とした面持ちに、疲れとともにかすかにうんざりした気配が浮かんでいる。きっと、長いこと押し問答をしていたのだろう。課長が目で訴えてくる。悪いんだけど、燐を落ち着かせてくれない?
うなずきを返す。廃棄物の量がおかしいかどうか。覚えている。日誌に記したばかりだ。
「うん。燃やしてる量はいつもどおりだよ」
「ほらっ、資材の発注ばっか増えてるのに処理場に来るゴミの量はいつもどおり! これおかしいです!」
ヒートアップした。
課長が手のひらで目を覆っている。言ったことに間違いはないはずだが……
「空さん。そうじゃなくてね、ええと、いいや。いま言ったことを取り消して燐さんの気を反らすようなことを」
「課長完全に誤魔化してますよね騙されませんよ」
燐と課長の視線がぶつかりあい、火花が散った(ような気がした)。
どうしてだろう。
また間違えたのか。
「燐さん、わかりました、本当……明日のミーティングでさとり様に上申する内容を考えましょう。上申書の草案をお願いできる?」
「よっしゃ、了解です。その言葉が聞きたかった」
「あ、あ……お燐……」
根負けした課長の言質を奪いとるや、燐はオフィスへと走り去っていった。
廊下に残されたふたりはお互いをうかがい、ぎこちなく顔を見合わせる。
「あの、課長、なんかすいません。お燐って真面目で」
「そうですね。それはわかります。時折落ち着きがなくなって判断を見失うのが玉に瑕ね」
課長が重いため息をつく。反論したいが、まあ正しい――空は課長の首もとあたりを見て曖昧に笑うしかなかった。
さとりには及ぶべくもないが、彼女も優秀な妖怪である。誠実でリーダーシップをとるのがうまく、課のメンバーとの関係もおおむね良好だ。多少縄張り意識が強いものの、それは責任感の強さの裏返しとも言える。それゆえに多くの仕事を任されている。
空にはやはり、彼女の代わりにもなることはできないだろう。
「すいません。さっき……わたし、またなにか、まずいことを言ってしまったのでしょうか」
目を伏せて、問う。課長は視線をさまよわせてから、
「いいえ。しょうがないですよ。あれで通じるのは無理があると思っていました」
と早口で言った。
課長は明日も遅刻しないようにと空に念を押してから、そそくさと帰宅していった。託児所に寄るらしい。
「明日、非番なんだけどな……」
今度はひとりで廊下に残された空は、オフィスにもどって燐の様子でも見ようかと逡巡する。が、今は誰の邪魔にもなりたくなかったので、そのまま食堂へ行き、ひとりで食事を済ませた。
時間だけはなんとか潰れてくれたのだった。
地霊殿で働く多くのペットが暮らす寮の一室。
空は窮屈な二段ベッドの下の方に寝転がり、だらだらと時間を浪費していた。眠いわけではないけれど、やることがないのだ。
いつもならお燐と取り留めのない話をしたり、遊んだりしている。
地上侵略以前ならば、あるいは他のペットたちともそうしていた。
苦い敗北の味を思い出す。地獄の淵に膝をつき、生まれてより初めて遭遇した、人間なるものを見上げた日のことを。
「もうちょっと……だったよね」
あのときのことを考えると、増長した自分への反省やさとりに迷惑をかけてしまった後悔と同じくらい、力及ばず悔しい、という思いがふつふつと湧き上がってくる。もう一度戦えば、勝負はまた違った結果を見せるかもしれない。空は胸の中に息づく神の力を意識しながらそう思う。
この途方もない力を使いこなせば。
地底の妖怪たちは太陽を取り戻すことができるかもしれない。今でも誘惑に駆られてしまうことがある。
空は――意識して、その思考を脳裏から追いやった。それは叛意以外のなにものでもない。生活する空間が違うとはいえ、ここは地霊殿である。どこでさとりが耳をそばだて、第三の目を光らせているかわからないのだ。
負けたことは悔しいが、空の中にもう一度やってやろうなどという企みはない。空は、あのときさとりに始末されても文句は到底言えなかった立場である。自戒すべきだと、常日頃自分に言い聞かせている。
「そうだ、あの日、さとり様がなにかおっしゃってたっけな」
空は立ち上がり、自分の勉強机から日記を取り出す。毎日は書いていないが、感動したことや覚えておくべきことは記すようにしている。さとりのペット教育方針では、日記は昔から積極的に取り入れられている。
ページを繰り、ひと季節前の記述を探す。どのページもそれほど長い文章は書いていないので、すぐに見つかった。
『さとり様は思ったより怒っていなかった。でもこれからは自分がやろうとすることが、まわりにどうえいきょうするか、ちゃんと考えなさい、とおっしゃった。さとり様はお忙しいみたいであまりおはなしできなかったけど、部屋でおちこんでたら、おりんがおいしいものをいっぱいつくってくれた。うれしかった』
これは比較的長いページ。後半はあまり関係ない。
だが、忘れていたさとりの言葉は、ほとんど予言のようなものだ。まさに、自分自身の行いの影響で、空はいま肩身の狭い思いをしている。
空が地上侵略を目論んだことで、地霊殿は地上の巫女の襲撃を受けた。
当時の自分が考えていたのは、手に入れた神の力でもって地上を一気に制圧し、その後でさとりに報告して驚かせてみよう、というものだった。だから空と、空に最も近しい関係を持つ燐以外の地底の妖怪は、事の推移をまったく知らないまま、巫女に叩きのめされたことになる。
数日間、地霊殿の行政機能は麻痺した。その後、職員一同は溜まりに溜まった業務の処理に、忘れかけていた地獄を味わった。
元凶となった空は、それで村八分だ。
よく世話を焼いてくれた上司も、うわさ好きでかしましい同僚たちも、空のことは腫れ物扱いだ。みんな、さとりと同じように大好きだったのに。
「このままじゃ、いやだ……」
あの日からずっと、打開策が見出せないでいた。だが、もう逡巡している場合ではない。
行動しなければならない。
そしてそれは、安易な方法ではいけない。
空は暗闇の中、眼を瞑り、考える。ちゃんと、考える。
「えーそれではみなさん、お手元の資料をごらんください」
翌朝、地霊殿の会議室。目の下にくまをこさえた燐が、それでも声だけは元気に言った。部屋の中に集められた課のメンバーたちは、戸惑いながらも配布された紙束に視線を落とす。
表紙には、小難しい単語が列を成している。さらに、大きなグラフが下半分を埋める。
燐は一段高い壇上で、ふんと鼻息を荒くしている。無闇にテンションが高そうだが、さてはあれは徹夜明けか。地霊殿には仮眠室もあるのだが、どうやら完徹らしい。
脇には課長が控えている。勤務中だるそうにしていることは一切ない。今もしゃきっとして、真剣な面持ちでプリントを見つめている。
「見てもらってわかる通りですが、これは今年度始まってから現在、具体的には先週末までの、建築資材の発注数と最終処理場における廃棄物総量との差をまとめたものです。今日はやくから集まってもらったのは、この事実がいったいなにを示しているのか、それを皆で検討したいということです」
もっとも、燐の中には既にひとつの結論があるのだろう。そんな顔をしている気がする。
プリントに書いてあるのは、要約すれば昨日燐が言っていたことそのものだ。
「これはつまり……」
うめくような声。課ではちょっと年かさの妖怪で、こんな場面では積極的に発言する。
「いや、それにしてはずさんだが、発注書が偽造されている?」
「グラフになってるから、こうあからさまなんでしょう? 燐さん、なんで気づいたの?」
「気まぐれに日誌を読んでたら、違和感があって」
「ただ作業の進捗が遅れているだけでは?」
「こないだ再開発地区の近く通りましたけど、そんな感じには見えなかったなぁ」
「こういうの脱税にも関わってくるんじゃないっすか」
妖怪たちが口々に所見を語りだす。
「ともかく調査の必要がある。さとり様経由で納税課に投げる前に、裏づけをとりたい。燐さん、そういうことですね?」
課長が意見を総括する。燐はそれを受けてうなずき、ばしっと机を叩きながら同僚たちに、……頭を下げた。
「みんなが各々の業務で手一杯なのはわかってる。けどあたいは、見つけてしまったからには見逃したくない。仕事の合間とか、ちょっとずつでいい。調査に協力してほしい」
互いの顔を見合わせる妖怪たち。燐がこう言い出すことは話の流れから勘付いていたと思われるが、割り振られた仕事に加えて確証もない作業を要求されるのは承服しかねるだろう。かねてより課では人工樹林への不法投棄に悩まされている。どちらかといえば学者肌の職員が多いのに、産業廃棄物Gメンのような仕事も引き受けざるをえないため、空や燐たちはいつでもフル稼働状態と言えた。
いやがるのは自然なことだ。だから、否定的な意見がちらほらと出始める。
「これはやはり、新たな不法投棄の証拠なのではないでしょうか。新たに人員を割く必要はないかと思いますけど」
「こんなぞんざいな誤魔化し方ってある? 絶対不自然だと、あたいは思います」
燐が多少語気を強める。彼女もこんな提案をぶちあげるだけあって、課内での発言力は高い。だが。
「他課の協力をなんとか得られないもんかな」
「どこもいそがしいのは変わんないと思うけどー」
「そこを言ったら、うちの多忙さは地霊殿でトップじゃない?」
それでも燐の頼みをうやむやに避わそうとする流れは止まらなかった。こんなとき場を諌めてくれそうな課長はと言えば、なんだか歯がゆそうに資料を握り締める指を白くしている。燐に味方したいのかもしれない。だが彼女はまだ手のかかる年頃の娘を抱えていることもあって、部下たちから定時帰宅を好意的に受け取られている。そんな部下たちに、これ以上の無理は強いることはできない……そんなふうに、考えてるかもしれない。
他の妖怪たちにしても、まず第一に自分の仕事をおろそかにできないのだ。それは絶対におかしいことではない。
だったら。
空はそっと立ち上がった。
「わたしが手伝うよ、お燐」
途端に、会議室を今までとは違うざわめきが走る。部屋の中の誰も彼もが、突然立ち上がった空を、驚いた顔で見ていた。
「お空、あんた今日は非番じゃ……」
会議が始まるどさくさにまぎれて部屋に入ったため、燐や前のほうの席に座っていた妖怪たちは、空がいることにさえ気づいていなかったらしい。
「うん。非番だけど、非番なんだけど」
言葉を探す。行動する前に考えておくべきだった。どうしたいかはもう決めていたが。
それを伝えるのがいつも難しい。
伝えなくてもわかってくれるのは、さとりだけだ。
「あ、そうだ。非番だから、つまり調査に協力できる。何故なら時間があいてて暇だから」
論理的に思考を言葉に変換する。空は落ち着いていればそれができると自負している。
「みんなはそれぞれの仕事がある。それは他の課も同じ。だから……手が空いてるあたしがやる」
「う、空さん! 非番の日を『手が空いてる』などと言いません。それは、奇妙な言い方になりますが、不公平というものです」
課長が焦ったように言った。
「それがまかりとおるならば、いずれ皆の休日出勤も認めていくことになりかねません」
仕事熱心が過ぎると、逆に周囲との調和が乱れることもある。その通りではあるが。
「いいえ課長、そうはなりません」
ここでひるむな、と自分に言い聞かせる。立場が上の者になにかを言われると、流されたくなってしまう。でも、なにかを変えたいときに流されていては駄目だ。かつて自分に宿った神の火の力を拠りどころとして独りで地上侵略を目指したように――強い意志を持って、課長と、燐と、会議室の全員と対峙する。
「わたしはみんなに借りがある。あの冬の日、わたしのせいでみんなが人間にやられて、地霊殿の仕事が滞った。その分の帳尻を、わたしが新しい仕事を担当することで合わせるだけのことです。それではいけませんか?」
空が言い切ると、会議室はシンと静寂に包まれる。みんなが難しい顔をして何事か考え込んでいる。
だが、誰もがよく考えればわかるはずだ。なにを犠牲にすれば、全てが円滑にことを運べるか。そしてその犠牲は、空の汚名返上の好機となる。
燐が、ふと表情を和らげた。そういうつもりか、ならやってごらんよ、お空――などと、彼女の思考をさとりのように想像してみる。
「まぁ、じゃあ、空さんにやってもらおっか。ただし、下手を打ってもあたいたちは助けられないよ。勤務時間外に、勝手な単独行動をとるってことになるんだから」
「むっ」
正直に言えばそのリスクは考えていなかった。が、望むところだ。どちらにしろ誰かの手をわずらわせてしまえば、なんの意味もないのだから。
「……ああ、大丈夫だよ。慎重にやります」
燐と視線をかわし、ニヤリと笑いあう。
きっと彼女が後押ししてくれると思っていた。課長をはじめとする妖怪たちは、空と燐の様子を思案げに、心配そうに見つめていた。
まだみんな、空のことを案じているのだと、……思ってもいいのだろうか。
空には、知る由もないが。
「他のみんなも、緊急性の低い仕事があれば、ちょっとこっちに手を回してほしい。あたいのわがままで、悪いんだけどね」
燐が改めて人手を募る。ぽつぽつとまばらに、年若い者たちが手を挙げた。
指折り数えてそれで足ると考えたのか、燐は会議を一旦解散とさせた。
捜査が開始されて数日が経った。空たちの尽力の甲斐なく、進展は芳しくない。
収穫のないミーティングを終え、空は会議室を出た。燐と課長(結局手伝っている。しわ寄せが託児所の娘に行っているかもしれない)は残って捜査計画の見直しをしている。
自分のデスクに座って、ぐっと翼を伸ばす。
「要点を整理するよ」
初日の会議での、燐の言葉を反芻する。
「土建屋が怪しいというのは、まだあたいの勘でしかない。だからあたいたちは不正の証拠を手に入れなければならない」
空を含め数名の妖怪だけが残る会議室内に、燐の言葉が朗々と響く。そろそろ本格的に眠そうだった。
「いちばん有力なのは、黒谷建設さんかな。ここのところ、鬼たちの会社より業績を伸ばしている。その裏には不正が……なんてのは、あるんじゃないかな」
「ヤマメちゃんのとこがそんなことするわけないでしょ!」
「はいはい公僕としての立場を弁えてくださいね」
突然いきりたった課員をばっさり切り捨てる燐。話をどんどん進めていく。
「次にもちろん、鬼。あいつらは嘘をつかない――なんて、本気で信じてるやつはいないと思うけど。不正で私腹を肥やすのは誰だろうと見逃せないね」
燐はいくつか鬼が運営母体となっている会社の名前を挙げた。空も聞いたことがあるような、業界最大手だ。街中の道路とか建物とかをしょっちゅう工事している。
それよりも空は燐が言ったことのほうがよっぽど驚いた。鬼も嘘をつくのか! いや、鬼が嘘をつかないのには、なにか理由があったはず。そう、たしか……
「ですが、黒谷建設は広告塔の黒谷ヤマメを使っての政界進出も狙っているという噂です。その油断できない時期に、クリーンなイメージを損なうようなことをするでしょうか?」
「鬼たちにしてもさ、お燐」
課長の尻馬に乗って、空も意見を言う。
視線が集まり、ちょっとだけ怯む。
「……鬼が嘘をつかないのは、その必要がないから。嘘をつかなくても力で言うことを聞かせられるからなんだよね。だったら、嘘をついてるなら、なにか理由があるのかも……」
「ん? んー……まぁ、たしかに」
燐が半分とじかけた目蓋でうなずく。なにか考え込むような仕草をしかけた。
「ま、鬼だってさとり様が怖いんすよ」
――が、若い課員の一言に納得したように再びうなずき、総括の言葉をもって場を締める。
「ひとまずは、いま言ったところを調べてみよう。みんなよろしく頼むよ……ふぁぁ。ちょっとあたいは、悪いんだけど、昼まで寝てから作業にとりかかるから……あー眠ぃ」
立ったまま舟をこぐ器用さを見せ付けながら、燐は仮眠室へ向かっていった。
会議が終わったあとは、空は単独であれこれ探りを入れていた。空に割り当てられた株式会社いくしまハウスはあっさりと進捗の遅れを白状し、倉庫に置かれていた資材を運び出していくのを見せてくれた。
残りのメンバーが探っている黒谷建設やその他の会社は、そこまで調査が進んでいない。非番だった者とそうでない者の作業量の差である。
空の次のアクションは、他の会社の結果待ちということになる。
(でも……)
なにかできることはないだろうか。もうずっと足りない頭を使い倒しているのだ。なかなか妙案など出ない。出るのは知恵熱くらいである。
明確な敵が欲しい。神の火で根こそぎ吹き飛ばして、全てを解決にしてしまえるような。
思考に疲れて都合のいいことばかり思い浮かぶ。
「ああ、だめだめ。仕事だってあるんだから」
ぶんぶんと首を振り、益体もない夢想を追いやる。今日は非番ではなく、通常業務の日だった。
知っての通り、運ばれてきた死体や廃棄物を炉に放り込んで燃やし、火焔地獄の温度を調節するのが空の仕事だ。今はどちらかと言えば、廃棄物の最終処理場としての役割を果たすほうが主である。なにせ魂なるものさえ焼き尽くす地獄の炎であるので、形あるものなど塵ひとつ残らない。おかげでゴミの埋立地に困るような問題は地底に存在しない。余剰な火力は大昔に河童がつくった火力発電所にまわされているとか。
かつて授業で叩き込まれたようなことをつらつら思い出しながら、空はその日の最後の廃棄物を炉に投げ入れる。汗だくの顔をタオルでぬぐうと、意図せず嘆息が漏れた。仕事場が暑いのはもちろん慣れているが、それでも仕事終わりは気が抜けるものだ。しかし。
時刻は定時を少しまわった程度。
ここからが件の土建屋探りの始まりである。空いた時間を活用し、少しずつでも捜査を進める。
とはいえ、燐の段取りもあるので、勝手にやるといってもある程度はみんなと足並みを揃えなければならない。今日できることは……
(再開発地区の見回りくらいか)
手早く日誌を片付け、地霊殿を後にする。
もう随分と人工太陽の光が弱くなってきている。地上で言う、例の夕暮れとやらの時間だろう。しかし旧都は宵っ張りの妖怪たちが暮らす街であり、まだまだ活気のある時間帯だ。往来もいろんな種の妖怪たちが雑踏を織り成している。しかし、ここからかつて更地に均され、今は建設途中の建物が立ち並ぶ再開発地区に近づくにつれて、段々とそれらは減っていく。代わって資材を満載した荷馬車が目立つようになる。
そろそろ地霊殿だけでなく民間も終業だろう。なにか怪しい動きを掴めるなど、期待できそうにない。しかし、と空は目についた高い場所――電灯の上に降り立ち、翼を休める。なんにしても、外を飛び回ることはいい気分転換になる。
烏の姿をしていると得なことは、どこにいても不思議がられないことだ。疎まれ追い払われたりはするが、間諜として優れた形質であるとさとりにほめられたことがあった。
こうして高みから往来を見渡すと、いろいろなものが見える。さとりは今年の春になってから、地上との交流を積極的に進め始めた。が、空の視点からは、地底はまださほどの変化を感じられない。さとりが言うには、そのうち地上に自由に遊びに行けるようにもなるらしい。
空は(侵略を目論んだにも関わらず)地上と言われてもピンとこないが、喜ぶ妖怪はきっと多い。古い妖怪たちの中には地上へ帰りたがっている者もたくさんいる。
さとりは地底を変えようとしている。地底に住む皆のために。
視界の端を、一台の荷馬車が駆け抜けていく。空はなんとなくそれを見送ってから――
「あれ?」
見咎めて、その場を飛び立つ。あれは先日、鬼の会社で見たばかりの荷馬車だ。左側に回りこむと、幌にいくしまハウスの社名とロゴマークが描かれている。間違いない。
そんな荷馬車が、再開発地区へ至る道から外れ、いずこかへと走り去ろうとしている。
「他の作業場に行くのか? 調書にそんなのなかったはず……いや」
疑問を口にしかける。続きは胸のうちでのみ、呟く。
こういう怪しい動きを待っていたのだ。行けば、きっとわかる。
つかず離れずの距離を保ちながら荷馬車を追う。一方的な追いかけっこは旧都を抜けて郊外へと続いていく。地霊殿からはどんどん遠ざかることになる、この道の先にあるものは。
知識にはある。しかし、想像したこともない。自分がそんな場所を通ることなんて。
そこは、古い妖怪にただ一言、懐かしさと、忌々しさとを込めて縦穴とだけ呼ばれていた。
業深き地底から地上へと続く、ただひとつの道。
縦穴は、気が遠くなるほどの昔に崩落し、ついこの間まで誰も踏み入ることのなかった場所だ。地底の法で明確に定められ、出入りが禁じられていた。あの人間が地上から現れるまでは、そういう場所だった。
現在は、地霊殿に認可を受けた建築会社がここを頻繁に行き来している。たしか、さとりが押し進める政策の足がかりとなる地底大使館を、地上で建設中だったはず。
新しく造られた物々しいゲートの様子を、そっとうかがう。併設された詰め所からくすんだ金髪の妖怪がひとり出てきて、積荷のチェックを始めていた。特に彼女が咎めたてもしないということは、許可証なり割符なりの確認はもう済んでいるのだろう。空は苦笑する――既に、自分の中で鬼たちへの疑いが濃くなっていると、自覚したのだ。
(吹っ飛ばしていい『明確な敵』であってくれと……わたしが願うのは、いけないことかな……)
ともかく、先入観を持ちすぎている。自戒すべきだ。
物陰で悶々としていると、御者が金髪に会釈して、馬に鞭を入れた。積荷に問題はなかったようだ。普通なら疑いがひとつ晴れたということになるが、空はなんの材料もなしに鬼をあれこれと勘繰っているわけではない。
馬車がじゅうぶんに離れたのを見て、空は詰め所に戻りかけていた金髪の背中に声をかける。
「すいません! 環境整備課の者ですが!」
「わぁっ!」
金髪はびくっと体をすくませて飛び上がった。声が大きすぎた。
「な、なんなのよ……さっきの鬼といい、ようやく仕事終わりってときに」
ちょっと疲れた顔の彼女は、文句を口にしながらも、空と相対してくれた。
他部署の者を警戒しているようだ。基本的に責任の所在がグレーな案件を押し付けあっているのが地霊殿の現状である(どこの組織だろうと同じかもしれないが)。
「すいません、お忙しいところ」
ひとまず下手に出ておく。
「いま通った鬼の馬車、積荷はいったいなんだったか、聞いてもいいですか」
「ただの食料とか資材とかだったけど……地上で大使館を建ててるの、知ってるでしょ?」
なんだそんなこと、と金髪は簡単に答えた。いくしまハウスはもちろん住まいやオフィスといった建物を造ることを業務としている。故に、運んでいるものが建材であることはもとより疑っていなかった。
聞いたのは、ただの確認に過ぎない。
「あの鬼たちは、違うんです!」
「ちがう? って、どういうことなの」
「あああ、えっと、あー」
落ち着けと自分に命じる。思考を言葉に変え、相手へ伝えるのだ。
「いくしまハウスは、大使館建設の入札に関わっていないはずなんです!」
これは鬼が見せた決定的な隙だ。地上での建設作業が認可されているのが大使館だけとわかっていれば、自ずと知れる。
つまり、燐が看破した資材の発注数は水増しなどではなく、確実な増加。そしてそれらを地上へ運び、隠し立てをするような何かを鬼が造っている。少なくともそれは、大使館ではない……
「ちゃんと許可証は確認したわ。なにかの間違いじゃないの?」
「偽造か、正規の企業とグルか。どちらにしろ、なんらかの不正の影があります」
金髪はペルシアンドレスの襟元を弄びつつ、困ったように視線をさまよわせる。
と、その緑色の目が、空の胸元でぴたりと止まった。ヤタガラスの赤い瞳が、変わらずにぶく輝いている。
「その風体、あなたは霊烏路空?」
「あ、すいません忘れてました。わたしは環境整備課の霊烏路空と申します」
慌てて名乗る。初対面の者に自己紹介をしていなかったとは不覚である。
「あらご丁寧に。建設土木課の水橋パルスィです」
「あの、どうしてわたしのことを?」
言ってから、失言と気づく。地霊殿の職員で空の悪名を知らない者はいない。
地霊殿から遠く離れた場所だが、この水橋パルスィと名乗った妖怪も例外ではないだろう。空かと問われたら否と返すべきだったろうか、などと胸を刺すような考えが脳裏をよぎった。
パルスィの反応は。
まっすぐに、空の目を見つめていた。
「さとりからあなたのことは聞いている」
「さとり様……?」
「あなたのことをとても心配している。あなたが、あのときのことで自分を責めていないかと」
面倒くさそうだったパルスィの態度が、一変していた。
あとから考えれば。
いくらなんでも切り替えが速すぎだ、とか。
さとり、などといち職員のパルスィが呼び捨てにするなんてどういう関係だ、とか。
すぐに問いただすべきことがあったように思う。
だが空はそうしたどんな言葉も発することができず、こみあげてくるものを抑えようと努めていた。
あの日以来、さとりともまともに話せず、燐以外の誰からも気遣かわれたことなどなかった。ただ汚名を甘んじる時間の連続に、空は次第に心の表面を固めることを覚えた。なにを言われても仕方ないことをした、という諦めの封蝋だ。それだけが、地霊殿という社会の中で自分の身を守る盾だった。
初めて出会う妖怪に優しく声をかけられるだけでひび割れてしまうほど、それは脆く。
空は、一筋の涙をせきとめることができなかった。
手の甲でそれをぬぐい、パルスィに頭を下げた。
「さとり様の言葉を伝えてくれて、ありがとうございます。でも今は」
声が上擦るため、一旦言葉を切る。顔を上げ、せいぜい力強く見えるように、胸を張る。
「調査に協力してください……わたしを信じてください」
「いいでしょう。道中、詳しい話を聞かせてもらうわよ」
空の懇願に、パルスィは鷹揚にうなずいた。
縦穴は地下666階層にも及ぶと伝えられており、鍾乳石や地下水脈などによって複雑に地形が入り組んでいる。そのため馬車のような大きな物が通ることができる道も限られ、追いつくのに苦労はしない、とパルスィは語った。反面、こちらはおそらく縦穴には誰よりも詳しいこのパルスィが一緒なのだから、ルート選びでは相当に楽をしているらしかった。
ひとりで進入していたら迷子になっていたかもしれない。最低限の明かりに照らされた岩壁を見てそう思った。
「なるほど」
要領を得なかっただろう空の説明を聞き終えたパルスィは、浮遊しながら腕を組んでうなずいた。器用な姿勢だった。
説明したのは、燐が見つけた廃棄量の矛盾と、空の推論の二点について。
「筋は通ってると思うわ。まぁ、すぐに疑問を指摘できない程度にはね」
「だから追いつき次第、まず馬車に一撃叩き込んで」
「それはちょっと待ってね」
逸ってスピードを上げかけた空の肩が掴まれる。
「まずは、馬車がどこに行こうとしているか確かめるべきよ。連中がさとり……地霊殿に背いてなにかをしようとしているなら、確実に言い逃れを用意している。それこそ大使館つくってるところとグルだったりしてね。そうなれば、次に尻尾を掴むのは難しい」
「む、うにゅ、確かに」
「それに忘れてない? 相手は鬼。うかつに怒らせたら、手がつけられないわ」
鬼、と口にしたパルスィの瞳には、恐怖の影が見えた。
とにかく図抜けた力を持つ種族で、戦闘においても力押し一辺倒。御すのは容易いなどと思っている者は、鬼が力をふるうところを実際に見たことがないと断言できる。身ひとつで雪崩に晒されるような恐ろしさを、空も恐れていた。いたが……
「……でも水橋さん、地霊殿がちゃんと捜査しているってわかれば、まずは誤魔化そうとするんじゃないでしょうか」
胸中の思いとは別の言葉にすり返る。まだ断言はできないと思ったのだ。
「それと同じくらい、口封じの可能性も考えるべきね」
パルスィは飽くまで慎重にそう言った。空も確証なしに捜査を進めていることは認めるしかないので、最終的には賛同した。
方針が固まると、ふと会話が途切れた。途切れると、新たな疑問が湧いてくる。
「あの、水橋さん」
「なにかしら」
「わたしのこと……信じていいんですか?」
「なんの話よ」
「わたしがまた地上侵略しようとしてるんじゃないかって、思いませんか」
空は未だ神の力を宿したまま、地獄であの人間に負けたときよりもよほど地上に近いところにいる。そして、このまま捜査を続ければ、実際に地上に出てしまう。
「思わないわね」
「どうして」
「知ってるんでしょう。さとりがやろうとしてること」
空は肯定した。地底に住む誰もが、もう知っている。
「地上との交流。さとりは、わたしたちに太陽を取り戻そうとしてくれている……でも、それは何故かわかるかしら」
「何故? 理由……?」
「空。あなたがそうしようとしたから、なのよ」
パルスィの表情を見たいと思った。しかし、先導役の彼女の顔を、後続の空が見られるはずもない。
「さとりはあなたがどうして地上侵略を目論んだか、ちゃんと知っているわ」
心臓が跳ねた。意味を理解すると、また泣いてしまいそうになった。
「さとり様に隠し事は無理ですもんね。かなり本気で誤魔化そうとしたんですけど」
知られていると思っていなかった。知られていたら殺されると思っていたから。
地底には、地上へ帰りたがっている妖怪がたくさんいた。妖怪たちが直接そうだと言ったわけではないが、そう感じた。とにかく空は、そんな妖怪たちの話をよく聞くことがあった。
輝く太陽の下では、いろんなものの見え方、感じ方が違うのだという。山の鮮やかな緑、深く青い空。火を灯さずとも街は明るく、夕暮れを経て静かな夜が訪れる。夜になれば、星の河が天を満たす。昔時はその星々に願いを託すこともあった……
密閉された地下でさとりはよくやっていると思うが、それでも地上の景観には適わないと。
そんな美しい場所から妖怪は追われ、昔の誰かが交わした約定により、地底に封じられた。
地底生まれの空には、地上の美しさはわからない。知る由もない。でも、かつて空がさとりの膝で眠っていたように、妖怪も地上に帰りたいのなら、誰かがそれをしてやらなければいけないと思った。
地上から二柱の神さまが現れたのは、そんな折だった。
「神さまから力をもらって、皆を煽動することもなく、ひとりでやれると思いました」
地上を滅ぼしてやろう。負けても誰にも累は及ばない。いや、きっと大手を振ってみんなで地上に帰るんだ……
そんな興奮の最中に失念していた。自分をかばって言えば、知らなかったのだが。
地上に住んでいるのは、さとりやパルスィを地底に追いやった者だけではないのだと。そしてそれ以前に、自分の知らない遠い誰かへの復讐心なんて、むなしいだけと気づくことができなかった。
結果は知っての通り、侵略一人目の前哨戦に過ぎない――あの日、空は確かにそう思っていた――人間に負けておしまいだ。たった今、理解する。あの人間は、空よりも正当な理由を持って戦っていたのだ。
「でも、そうか。わたしができなかったことを、さとり様が……もっといいやり方でやってくれるんだ」
「そのさとりを動かしたのはあなたなのよ。妬ましいわね……あいつはあなたの行動力を羨んでいた」
パルスィは、言葉とは裏腹に微笑んだようだった。相変わらず背中を向けていたが、なんとなくそう思った。
「あなたがやろうとしたことは、無駄じゃなかった。なのに、それを無駄にしちゃうようなこと、しないでしょ?」
空は何度もうなずいた。口を開けば嗚咽が漏れてしまいそうだから、そうする他なかった。
(もしかしたら……もしかしたらさ)
握り締めた拳を胸にかきいだき、我知らず祈りをささげているような姿勢になる。
(わたし、自分のこと、許していいのかな)
さとりには許された。それ以上のことをしてくれた。
ならばあとは地霊殿の皆の信頼を取り戻せたら。
そのためにはまず、しくじらないことだ。なんとしても何らかの情報を掴んで帰る。
「あ、ところで水橋さん。さとり様とはどういう関係……」
「シッ」
パルスィが明かりを消した。
どうやら雑談できる時間は終わりらしかった。パルスィの唇に人差し指をあてるジェスチャーに、空も慌てて口を閉ざす。
パルスィがもう片方の手で示す先に、あの馬車がいた。馬の疲労か、かなり速度を落としていた。
「もう地上も近い。気をつけて」
パルスィが顔を近づけてきて、耳に届くぎりぎりの声で言った。
地上も近い。パルスィは何気なく言ったが、空は胸の高揚――そうとしか表現できない――を感じていた。
馬車のあとを尾行する。パルスィは既に明かりを消しているが、馬車の方の明かりでなんとか追えている。
時刻はおそらく日没と呼ばれる消灯の時間を過ぎている。ならば、今から見られるのは星の河だ。
地を叩く馬の蹄の音が、変わった。
同時に、むっと鼻腔をつく、深い草いきれ。肌にまとわりつくじめじめとした何か。狼の遠吠えが意味をもっているかのようにさえ聴こえる。
視界はまだ闇のまま、目が慣れてこない。
それでも不思議とわかった。
(ここが、幻想郷!)
鼓動をはやくするのは、罪悪感かもしれない。縦穴の出口からその先の全てを燃やそうとしていたのだ。そう思うと高揚はしぼみ、申し訳ない気分で胸がいっぱいになる。
と、鼻先になにかがぶつかった。
「ちょっとなにしてるの」
パルスィが軽くにらむような目を向けていた。彼女が立ち止まったことに気づかず、背中に鼻先を突っ込んでしまったようだ。いや、身長差のために実際にぶつかったのは後頭部だが。
「さっそくよくわからない道に進みだしたわ。大使館はもっと人里に近いところで建設中なのに……本当にあやしいわ、あいつら」
眉をひそめ、警戒心を露わにするパルスィ。
そうだ。地上に感動するのは後だ。
目も慣れてきたので、落ち着いて周囲を観察する。縦穴の出口は深い森に囲まれているようだった。今も木々に囲まれた中を進んでいる。灯明だらけの地底の夜と比べてすごく暗い。星とやらはどうしたのかと上を見上げれば、木々の梢が視界を遮っていた。これは納得だが、いささか残念でもあった。
「あんた地上が珍しいのはわかるけどね……」
「す、すいません」
呆れたような声で言われて、今度こそ空は馬車を追うことに集中する。職務中のみならず不真面目な態度は反省すべきだ。
もうお互いに会話することもなく半刻ほどが経った。単調な馬の足音が止まった。ついに、目的地に到達したのだ。
そこは森の出口付近の、比較的ひらけた場所である。明かりが煌々と焚かれているため、鬼たちがなにを建てているのかはすぐにわかった。
砦だ。高い塀に見張り台、武装して殺気立った鬼。まだ作業中のようだが、ほとんど完成しかかっているようにも見える。
「どういうことなの」
パルスィの顔が青ざめていた。そうこうしているうちに馬車は砦の中に入っていく。
「水橋さん、わたしちょっと探ってきます」
「わたしも行く。姿を隠すくらいできる……」
空は烏に変化し、パルスィはスペルカードを取り出して小声で宣言する。
「グリーンアイドモンスター」
パルスィの姿がふっと見えなくなる。本来はここから弾幕を展開するスペル、なのだろうか? 困惑していると、やはりなにも見えないのだが翼をなでられる感触がした。行け、ということらしい。
空は軽く羽ばたいて飛び上がった。翼が風を叩く音はそれなりに大きいが、砦の中で酒盛りでもやっているのか相当うるさく、気にする必要はなさそうだった。
砦の塀に足をかけ、そっと中を覗く。
(どう見ても宴会だな)
大盛り上がりだ。砦が完成もしていないのに、これはいったい何を騒いでいるんだ?
と、鬼たちがさらに歓声を上げた。
(本当になんなの、こいつら……お酒に変な薬とか混ぜてるの?)
思わず眉をひそめてしまう。傍から見ていると、酔っ払って大声をあげる者たちはどうにも滑稽でいけない。
しかし、眺めているうちにわかった。鬼たちの指導者らしき者が現れて、周囲に手を振っていたのだ。
指導者は、額の一対の角が目立つ女。装飾過多なきらいはあるが随分と身なりがよく、また自分が他人にどう見られているか知っているような振る舞いをしている。集団の中で目を惹くような女なのは間違いない。
女は悠々と構えて皆が静まるのを待ち、そしてよく通る声で言った。
「皆よく集まってくれた。この日この時に諸君らのような勇猛極まる志士が集うことに、わたしは意味を見出そう。それは、革命の兆し!」
「おおーっ!」
鬼たちが怒号のような合いの手を入れる。
「地底の時は今、急速に動き出そうとしている。あの蒙昧なる古明地さとりが、地上に迎合したからだ! これはかつて我々を地の底に封じ込めた地上の者どもに、二重の隷属に甘んじたことを意味する――」
演説は熱を増し、女は次々にさとりの罪をあげつらう。そのいちいちに空はこめかみをひくつかせていたが、一方で意外なことに、冷静な部分がちゃんと思考を続けていた。
(まさかこれは、本当に)
「――明朝、この砦の落成とともに、我らが古巣たる『妖怪の山』から使者が現れる。そして、この天狗どもの手引きにより、まずは妖怪の山を我らの手に取り戻す! その後、人間どもに圧力をかけつつ地霊殿を制圧する。地底と地上、全てを手中にするときは近い!」
決定的だった。もう断ずることに躊躇いはない。
これは、本当に『明確な敵』だ。空だけでなく、地霊殿の敵だった。
「空!」
パルスィが姿を現して近寄ってきていた。闇夜のカラス状態の空がよくわかったものだ。
「これ本格的にまずい。あいつは郁嶋まことっていう鬼で、いわゆる山の四天王には及ばないけどその次くらいに危険な奴よ。あんなのが騒ぎを起こしたら」
「地底と地上の関係が一気に悪化する……」
「そうよ。かつてのわたしなんか比べ物にならないこと企んでるわ」
パルスィの言っていることはよくわからなかったが、自分が思ったよりもはるかに深刻な状況になっている。
あの女がどういうつもりかは知らないが、世間から見れば『地底の妖怪』だ。そんな妖怪が、地底地上間の交流復活への動きを無意味にするような真似をすれば、今後数百年は地霊殿が後ろ指をさされることになる。
万が一、あの女が成功してしまえば、その限りではないが……空は知っている。地上には強力な人間や妖怪がたくさんいる。郁嶋とやらは確実に失敗し、地底と地上は以前より険悪な関係になるだろう。
気になるのは地上の『妖怪の山』にも内通者がいるらしいことだ。鬼のくせにこそこそしているのは単純に戦力が足りなかったからだろうか。鬼のみの戦力で地霊殿を攻め落とすことは難しいと判断し、外に救援を求めたか。ともあれ、明朝にあわせて天狗が来るとなれば、時間が経つほどまずい。
「このままじゃ、さとり様のやってることが全部無駄になっちゃう……」
「そんなこと絶対させてたまるもんですか」
「……水橋さん、お願いがあります!」
空は、パルスィの肩を掴んでじっと目を見据える。焦りを浮かべた緑色の目が、困惑に揺れた。
「地底に戻ってさとり様とお燐にこのことを伝えてください。これはクーデター、きっと討伐隊を編成してくれます」
「!? あんたはどうする気なの」
「わたしはここで暴れてあいつらをかく乱する……その間に地霊殿に行って、助けを呼んでください」
「正気!? 相手は鬼よ! どれだけいると思ってるの」
パルスィがどれだけと言って指さした先には、五〇前後の鬼がひしめいている。地底に存在する鬼の自治区でもこれだけうじゃうじゃしているのは珍しい。
それでも退くわけにはいかない。
「今からあの縦穴を行って戻ってくるんじゃ、時間が足りない。だから時間稼ぎが必要です」
「ならわたしがおとりをやる」
「縦穴を迅速に踏破するのは、わたしでは無理です」
パルスィが歯噛みして押し黙った。役割の交換は現実的に見て、不可能なのだ。
彼女が年長者として危険な役を買って出ようとしてくれるのは、単純に嬉しい。これから鬼と戦う空のことを心配してくれるのも。
だから、パルスィが安心できるように、なんでもないように振舞う。
「大丈夫……」
空は制御棒の調子を確かめる。神さまから授かった、神さまの力。空の命令により爆発するその一瞬を、それらは待ち望んでいるように思えた。
「絶対負けないから」
「……」
パルスィは深い苦悩を眉間に刻み、空をにらみつけてくる。が、やがてため息を残してこちらへ背を向けた。
「子供にはなにを言っても無駄ね」
「ごめんなさい」
「こんな状況であんたに何かあったら、わたしはさとりにめちゃくちゃ怒られるのよ。絶対……やめてよ。怪我とか死ぬとか」
怪我も駄目か、と空は苦笑する。
「了解しました。水橋さんも」
「パルスィ」
彼女は真面目くさった顔で振り返り、胸を示して自分の名を口にした。
「あ……」
「名前で呼べってのよ」
それは少々唐突なタイミングに思えたが――
「……はい! パルスィさんも気をつけて!」
空も力強く応え、視線が交わる。
それはほんの一瞬のこと、身を翻したパルスィの背中が遠ざかっていく。それだけで十分だった。パルスィは空を信頼しようとしてくれているから。
「さてと……」
空は砦に向き直り、自身のギアを戦闘態勢へと入れ替える。
さあ、始めよう。さとりを、そして地霊殿の皆を助けるための戦いを。
CAUTION! CAUTION!
警報が鳴り響く。乱痴気騒ぎの只中にある鬼たちに、ちゃんと届いているだろうか? まぁ、聴こえていようがそうでなかろうが、それほど関係はない。まずは手加減して、半分ほど砦ごと爆発してもらうだけなのだから。
右手の制御棒を突き出すように構える。久しぶりの力の行使には、高揚がつきまとう――初めて地上に出てきたとき以上に。
「吹っ飛べ……!」
空の胸の中でヤタガラスの瞳が発光し、途方もない力が膨れ上がり、そして轟音とともにはじけた。放散する核の熱、ニュークリアフュージョン。空の持つ核融合を操る程度の能力の、最も基本的な発現だ。肩慣らしに使うくらいのそれが、空の思惑通りに完成間近の砦を焼いた。
「出てこい、鬼ども! わたしは地霊殿の霊烏路空! おまえたち全員、消し炭にしてやる」
宣言と同時、爆炎の中から鬼が一匹、飛び出してくる。鬼としては中肉中背、その実はじゅうぶんに大柄な体の大きな拳を投げつけるように放ってくる。ほとんど巨大な岩石が飛んできているのと変わらない迫力のそれを紙一重に避わし、すれ違いざまに頭突きを顎の急所に叩き込む。鬼は白目を剥いて倒れた。
思ったとおり、鬼の全員が全員、春の弾幕大会で戦った鬼ほどの能力を有しているわけではない。パルスィに大丈夫と言い切った根拠のひとつだ。
左右の斜め後ろから鬼が二匹、襲い掛かってきている。気配を察した空は姿勢を低くして初撃をやり過ごし、一方に足払いを、もう一方にごく小規模な爆発とそれに付随する弾幕を浴びせた。足払いは避けられたが、弾幕の方は当たった――しかし、鬼は苦痛に顔を歪ませながら、反撃の剛拳を撃つ。やむなくそれは腕で受け止め、今度は二匹を一度に照準を合わせて焼き払った。
(これで三鬼!)
心中で快哉を放つ。鬼の拳を受けた腕の、鈍い痛みは無視できるところまで無視する。
また一匹が、金棒を振り回して突進してくる。どうしたところで、肉体の性能差は覆せない。防御し得ない攻撃には、相手を上回る攻撃力でこちらも同じことをする。
「はああっ!」
気合を喉から搾り出し、弾幕を放つ。鬼もとっさに金棒を地に叩きつけて無数の岩石弾幕を飛散させるが、神の火は眼前の全てをなぎ払った。
「四鬼……ぐっ!」
死角からの体当たりに、空の体は宙を舞った。意識が持っていかれそうになる。空はなんとか膝立ちに着地し、ただ漠然と前に制御棒を構えて周囲を牽制する。
既にニュークリアフュージョンの衝撃から立ち直った鬼が、遠巻きに空を囲っていた。その数、一七。
(思ったよりも……多い)
さすがは地底最大の種族。賞賛を込めて、鬼を睨めつける。
「どうした、眺めるだけか? わたしの力とフュージョンしたい奴から前に出ろ……」
強がって挑発する。明らかに鼻白んだ鬼が、一歩後ずさる。数人の鬼が下がったぶんを埋めるように、あの女が前に歩み出てきた。
「すばらしい手際だな。さすがは霊烏路空だ」
なにを思ったか、呑気に話しかけてくる。空としてもインターバルを挟みたかったところなので、適当に乗っかる。
「わたしのことを知っているのか?」
「ああ、知っているとも。この郁嶋童子、白状すればおまえの話を人づてに聞き、地上を奪還せねばならんと思ったのだ」
「わたしとおまえになんの関係がある!?」
「地上を知らぬだろうおまえのような若者が、単身で地上に挑んだと聞いて……久方ぶりにな、地上にいたときのことを思い出したよ」
「……!?」
郁嶋童子が、滔々と語りだす。掲げた手の仕草が、妙に目を惹く。
「妖怪の山を追われた日のことを、だよ。我々は屈辱を刻まれて地底に封じられた。いつ終わるともしれぬ開拓の日々に忘れかけていたが」
憎悪を滲ませながらも懐かしむような調子だ。これは覚えがある。地上へ帰りたがっていた妖怪たちの、あの話し方だ。
「志を同じくする者がいるならば、わたしは再び起つことを恐れない。同志、霊烏路空よ。一度の失敗で諦めるな。地上の太陽を欲さば、わたしとともに戦え!」
「同志だと……!」
郁嶋童子は信じられない言葉を使った。だが事実そのとおりだったのだ、と空は苦々しく認めた。彼女は自らの手で滅ぼした地上を支配しようとしている。空と同じように、郁嶋童子もまた仲間のために。自らの行いに揺るぎない正当性を見出している。
そして。
(さとり様、これが、わたしがしたことの……影響なんだ)
郁嶋童子の発言を素直に信じるならば、そういうことになる。
空のとった考えなしの行動が、今回のクーデターを引き起こした。
「今回の地底の危機は、わたしの不始末か」
「危機だと? 違う。これは再生の契機だ。おまえがわたしの力となるなら、それはさらに磐石なものとなる」
郁嶋童子が美しい所作で手のひらを差し出す。真剣な目で空を見つめている。
その眼差しに、狂信の色が垣間見える。
無根拠な断言に誰もが宿す、恐るべき色彩。
「この手をとれ、霊烏路空」
「……」
「わたしとともに地上を――太陽をとりもどすのだ」
そんなことを、できるわけがなかった。
さとり、燐、パルスィ、地霊殿のみんな。その全てを裏切ってまで、空は太陽を求めない。そこまでする意味もない。さとりを認められない郁嶋童子にはおおいにあるのだろうけれど。
「郁嶋童子……おまえは、影だ。わたしが生み出してしまった影……」
相対する鬼が眉をひそめる。意味をはかりかねている。
空は郁嶋童子にもわかるように一歩を踏み出し、差し出されていた手を無視して、制御棒をその高慢な顎先につきつけた。
「わたしはおまえと協調しない!」
鬼を睨む視線に力を注ぎ込むように、神の火を発動する。爆発が郁嶋童子の一番近くにいた鬼を巻き込み、周囲に熱を撒き散らす。
「交渉は決裂か。やれ!」
本人は逃れていたらしく、どこからか鋭い指示の声が聴こえる。
瞬時に複数の鬼が飛びかかってくる――よりもはやく、逆に空が鬼の群れに飛び込む。まだ爆煙がもうもうと立ち込めており、鬼たちは同士討ちを恐れて動きが鈍かった。しかし空は自分以外の誰もが敵、適当に撃っても被弾するのは全て敵だ。多数相手でもやりようは十二分にある。
空の全身から炎が噴出する。周囲一帯を包み込むほどの巨大な火焔の柱がそびえ立った。深淵の新星と名づけた必殺弾幕がさらに火勢を苛烈にし、戦場を混沌に陥れる。
「わたしが生み出した影は、わたしが払う……!」
空は叫び、燃える砦の中を駆け巡る。目についた鬼に闇雲に襲いかかり、あるいは襲いかかられた。何度も鬼に地に叩き伏せられ、あるいは叩き伏せた。
何度でも立ち上がる。命の続く限り。
全身に傷と痛みが刻まれていく。だが、戦いの苛烈さで言えば。
あの人間には及ばない。思い上がる空の企みと鼻柱をへし折ってくれた――そう、思い出した。幻想郷の巫女、博麗霊夢。忘れてはいけなかった、大切な名だ。
(あいつに、勝てそうだったんだ。これくらいで負けられるか!)
もう何匹目かの鬼の腹に膝を埋め込む。くの字に折れた体をさらに蹴飛ばし、火柱に叩き込んでやった。いちいち動きを止めてやらなければ狙いをつけるのも難しい鬼たちは、それなりに難敵だが。
胸のうちにある自負が、空を燃やしていた。
敵が途切れる。煙は晴れていない。砦が延焼しているらしい。酸素が炎にとられているからか、空は息苦しさにあえぐ。
どうやらお互いに見失ったようだ。煤と泥、血にまみれたまま、呼吸を整えることに努める。喉が焼けているのは、いつの間にか煙を吸ったのだろう。
(らしい、ようだ、だろう――って。頭がにぶってるな)
苦笑いを浮かべようとして失敗した。表情も取り繕うことができないほどに、体力の限界が近かった。
潮時だ。時間は稼げた。これだけ敵の戦力を削いで、拠点となる砦も破壊した。こんな状態で妖怪の山に挑もうなどと、冗談にもなるまい。あとはパルスィが連れてくるであろう後詰めに任せればよい。撤退するにはいい頃合だ。独力で縦穴を突破できるだろうか。
よろめきながら、歩き出す。方角も定かではないが、離れるべきだ。
(――郁嶋童子を残したままで?)
空は自分の思考にぎくりとして、足を止めた。
(なんでこんなことがひっかかるんだ!)
癇癪を起こしそうになりながらも、足を止めてしまった。自問に対する答えは、実のところわかっていた。最後の最後でひと任せにするのでは、あの敗北の轍を踏むようなものだ。
空にも意地がある。ちゃんと考えて、自分で責任をとる。そうでなければ、いつまで経っても自分だけの強さを得ることなんてできない。
「時間をかけすぎたな、霊烏路空」
背後から、郁嶋童子の声。なんの話か問おうとすると、前方に五羽の妖怪が降り立った。空と同じような漆黒の翼を持ち、頭に烏帽子を載せている。顔には黒布が巻かれ、個々の判別がつかない。
天狗だ。満身創痍の空を見て、にやにやと笑っていた。
後ろをうかがえば、郁嶋童子は両脇にまだ二匹ずつもの鬼を従えている。
「夜明けも砦の落成も、まだ遠いよ」
「ふん。こうなれば妖怪の山に潜伏するしかあるまいな。理想の達成は遠のくが」
「……鬼のくせに、あちらこちらへ忙しいやつだ。ほんとうはコウモリじゃないのか?」
「言ったな」
郁嶋童子のすまし顔もそろそろ限界のようだった。それまで泰然と構えていたが、鬼としての純粋性を問われては冷静ではいられない。
鬼は、嘘をつけない。そのはずだ。
「全ては地底の妖怪のためだ。暗愚な古明地さとりも、地底暮らしで牙の抜けた四天王どもも、泥をすすってでも太陽を取り戻さんとする気概を持てない。わたしは奴らとは違う! わたしこそが唯一、誇りを示してみせる! 今はそのための雌伏のときに過ぎぬ!」
顔を紅潮させて郁嶋童子は絶叫する。空に対して勝利を収めつつある者にはまるで見えなかった。
彼女は、なにか別のものに怯えているように見えた。
「もし、ほんとうにそうなら」
思いついて、空は言った。
「どうしてまず地霊殿を攻めない?」
「なに……?」
「地底の妖怪のことを想うならば、失敗すれば軋轢を生む今回のようなことはできないはずだ。おまえはほんとうは、さとり様も山の四天王たちも怖くて、昔の部下を取り込もうとしたんだろう」
鬼だってさとり様がこわいんすよ――と軽口を叩いていた同僚を思い出す。彼女にしてみれば冗談だっただろうが、言った途端に郁嶋童子の表情に決定的なひびが入った。
実際に地霊殿と妖怪の山、どちらが攻めやすいかと問われれば答えようがない。山の四天王は地霊殿と事実上の協力関係にあるし、妖怪の山も天狗が総力を残していると言われている。目の前の五羽のことを考えるとやはり一枚岩の組織ではないようだが、それはこちらも同じ。
それでもあえて郁嶋童子が妖怪の山をまず目標としたのは、そういうことなのだろう。
郁嶋童子は激情のままに、手下に号令もせず初めて自ら打ちかかってきた。怒りに染まった目をらんらんと輝かせ、正気と狂気の境目から、しかし隙のない拳打を放つ。
あまりにもすばやく単純な暴力に、空は反応もできずに顔を打たれた。
「図星か? 郁嶋まこと」
「貴……様……!」
あまりの興奮に息を切らし、凄絶な目を向ける鬼。仰向けに倒された空は、震える膝を叱咤してすぐに立ち上がった。
決然とその目を見返して、挑むように声を張り上げる。
「地底の妖怪なら、地底から逃げないで。さとり様や四天王たちとちゃんと向き合って。それができないなら、さとり様たちを信じてよ!」
「黙れ! あの腑抜けどもを信じろだと? 寝言を!」
郁嶋童子はさらに拳足を振り回した。今まで打ち倒してきた鬼たちのものより数段は鋭い。
まっすぐに突いてきたそれを、半身になって避わす。避わしたと思っていると、死角から衝撃が来る。周囲を囲む鬼や天狗に攻撃されている、というわけではない。純粋に郁嶋童子の体術が、不可視の攻撃を実現させていた。空のコンディションが絶望的なことを差し引いたとして、打ち合うのは不可能なのではないかという難拳である。
勝機があるとすれば、それは遠距離からの撃ち合いだ。一息になにもかも台無しにしてしまうような大規模破壊こそが、肉体性能で劣る空に残された極狭の活路。
だが、もう距離をとるのは難しい。現実的でなければ、他の手を打つしかない。顔といわず体といわず打たれながら、認めるしかなかった。
さっき、逃げてしまえばよかったか?
(……ううん、そんなことないよ)
自問に自答し、空は、やはり見えない角度から迫りくる拳をついに打ち払うことに成功した。体勢を崩した鬼に、制御棒を叩きつける。至近距離からでも――今ならば!
ばきん、となにかが決定的に壊れる音。そして軽くなる右腕。
制御棒が、右腕ごと蹴り砕かれていた。
ようやく理解する。制御棒を破壊した蹴りは、拳を払われたあとに繰り出したのではない。郁嶋童子の拳術は、密着状態から複数個所を同時に狙うのが常套手。そして、それを派手な衣装と仕草で視線を巧みに誘導し、隠していた。今までの攻撃の全てがそうだった。巧緻の極みと言えるが、鬼らしい戦い方からは著しく正道を外れる。一歩及ばぬ四天王と張り合うために弛まぬ研鑽を積み、それゆえに彼女は鬼としての自信を、少しずつ見失っていったのだろう。
そんなことがわかったところで、空は、郁嶋童子の哄笑を止められはしないのだが。
「さあ! 貴様の得体の知れん力はもう使えんぞ。このまま動けなくして、地霊殿との交渉の道具になってもらおう」
勝ち誇る郁嶋童子の顔に、暗い喜色が滲んでいた。使い走りのペットごときを盾にとったところで、さとりがクーデターの首魁たる郁嶋童子の要求を呑むなどと、彼女自身が思っていないだろう。
溺れるものは藁をも掴む。しかしその藁ほどの可能性も、さとりに届かせてはならない。
空に残るは、わずか一手。それは躊躇なく、空の中で採択された。
「郁嶋童子……郁嶋、まこと」
パルスィから聞いた名前を、囁くように呼びかける。鬼の誠実さをあらわすその名を、あえて呼ぶ。
「わたしを見て地上に帰りたくなったのなら……もう少しだけ、わたしを見ていて。決めたことがある」
息も絶え絶えにだが、はっきりと伝える。
どんな立場の誰が相手でも、誠実たらんとするならば、できることはそれだけ。
空は無事な左手の人差し指をぴんと伸ばし、腕を持ち上げる。空――そらが白み始めていた。夜明けが近い。地を満たす闇がゆっくりと、しかし強引に希釈されていく。空の、否、地底に生まれた妖怪たちの知らない、巨大な気配をひしひしと感じる。儚い生命をやわらかく包み、育んでくれる輝きが現れようとしている。
(そうだ……こんなことができるようになりたい。地底の……全てを照らす光になりたい)
漠然と、上に指を向ける。そこには未だ、うつろなそらがあるだけだが、やがては光に満たされる。
地底にそれがないならば、空がそれになる。
「さとり様が信じられないなら、わたしを信じて。わたしは地底を変える一翼となる」
「なにを……!」
空の言葉よりも、ふくれあがる神の火の気配に反応して、郁嶋童子は焦燥の顔を見せる。周囲をとりかこむようにしている鬼と天狗たち皆も同様だった。
制御棒は失われた。しかしそれは、空に宿る神ヤタガラスの消失を決して意味しない。
出力が抑えられなくなるだけの話だ。元より、さほど器用に熱かえる力ではない。ことここに至っては、全力全開で一切合切を灰燼と帰す――それほどのつもりでなければ、もう事態を制圧できない。
まったく制御されない力による、相討ち。戦士としてはとても誉められたものではないが、贖罪のためにそうするのなら、悪くはない。
「さあ瞠目せよ――我が名はサブタレイニアンサン! 地底に生きる全ての妖怪に、太陽の恩恵を与える者!」
「と――止めろ! 自爆などふざけるな、わたしはまだ!」
自分自身さえ省みないエネルギーの暴走を恐れ、支離滅裂に郁嶋童子が叫ぶ。
(もう遅い!)
パワーエクスカーションを起こした胸のヤタガラスが、さらに力を増幅させていく。
激しい光と、轟音と、地響きと、熱と。そういったものを感じる前に、最大最悪のスペルを完成させた空は意識を手放した。口元に、最後となるだろう自嘲の笑みを残して。
パルスィが急編成された討伐隊を連れて戻ってきたのは、それから二時間を経てからだった。
先頭に立って飛ぶように走っているのは、誰あろう地霊殿の主たる古明地さとりである。続いてはとんぼ帰りのパルスィで、詰め所にしまいこんで出番などないと思っていたシャムシールを素人構えしている。空の盟友たる燐もまた、険しい表情でついてきていた。環境整備課の課長と数名のメンバーの姿もあった。あとは、ことが鬼の問題ということもあって、山の四天王のひとりである星熊勇儀も配下を連れて参陣していた。
「これは……見る影もなくなってるわ……」
パルスィが戦々恐々と独り言を漏らす。数時間ぶりに見る砦は焼け焦げて半壊し、倒された鬼たちが死屍累々と折り重なって倒れている。驚くことに鬼たちは息があった。鬼の種族としての生命力の凄まじさには、もう言うことが思いつかない。
「お空は!? お空―っ!」
燐が必死に呼びかける。空が鬼に戦いを挑んだと聞いて、最も取り乱したのはこの猫だった。今も目尻に涙を溜めている。
「こんなことになるなら、ひとりで行かせるんじゃなかった。あたいがついていたら」
ここまで大事になるとは思っていなかった。空が非番を押して捜査に協力をすると言い出したのは驚いたが、大切な友達が元気になってくれるならなんでもいいと思っていたのだ。
「燐さん、あまり自分を責めないで。空さんを信じましょう」
燐の肩を叩く課長も青褪めた顔をしていた。彼女も本心では、疎んじられていた空に声をかけてやりたいとずっと思っていた。周囲の雰囲気に流されてそれができずにいるうちに、空を思い詰めさせてしまった。もしものことがあれば、悔やんでも悔やみきれるものではない。同僚たちも思いは同じなのか、口々に空の名を叫んでいる。
(この人数を独力で、か。さすが地底最強のチャンピオンだな)
勇儀は場にそぐわぬことを言うような無粋者ではないが、内心で空の戦果に驚嘆していた。聞けば五〇人からの鬼と戦ったという。そこらに倒れている鬼を部下に命じて縛り上げさせながら、悪い虫がうずきだすのを感じている。
(あいつとは、五分の条件で戦ってみたいもんだ。だから、生きてろよ……)
さとりは唇を真一文字に引き結び、目を閉ざして意識を集中させていた。心の声を拾おうとしているのだ。
足元をすくわれた気分であった。パルスィから話を聞いたが、郁嶋童子はさとりの政策に反対してクーデターを起こしたのだという。反発する勢力があるのはもちろん把握していたものの、武装蜂起を実行に移させるほどではないと思っていた。為政者としての不徳だ。
粘るが、空の声は聞こえない。完全に気を失っているのか、鬼のうめき声にかき消されているのか。あるいは……考えたくはないが。
「む……彼女は……」
さとりが疲れて目を開くと、焼け焦げた鬼がひとり、足元に転がっていた。やはり生きていて、焦げてわかりにくいが元は高価そうな衣服を身にまとっている。いくしまハウス社長の姪、郁嶋まことだろう。勇儀に聞いてみると、確かにそうだと言った。
「ま、かわいそうな奴だよ、郁嶋のお嬢ちゃんは。地底に連れてこられたときは随分幼い時分だったからなぁ……まぁそりゃ、あんたも一緒だったっけね」
「忘れました。人間で言うならば3歳ごろの話です」
「なぜ人間で例える?」
馬鹿なやりとりをしている場合ではない、とさとりは再び目をつむった。クーデターの主犯までが倒れているのだ。この近くにいなければ、空はいったいどこに行ってしまったのか?
(聞こえないの、お空。お燐が、あなたの同僚たちが……あんなにも声を枯らして、あなたを呼んでいるのを)
もう、誰も責めない。地底の平穏を守った空に、誰がそんなことをするものか。
あなたはみんなに望まれている。
はばかることなく、地霊殿はあなたの居場所なのだと、空に伝えたい。
「あ……!」
突然、燐が叫んだ。郁嶋まことが倒れていたところから這っていったような跡が、燐が覗きこんでいる木陰に続いていた。
「お空っ!」
黒い翼に黒い髪、胸にヤタガラスの赤々とした瞳。そこに倒れているのは霊烏路空に他ならなかった。さとりが、パルスィが、課長が、勇儀がその場へ集まってくる。
燐が空に取りすがって泣き出していた。課長が力無く垂れ下がる手をとって脈をあらためる――
「……生きてます! 救護班!」
歓声が上がった。それはまわりを囲んでいた環境整備課メンバーの声だった。元々が裏表のない空は、課では人気者だったという。
安堵のため息をつく一同をよそに、救護班の妖怪たちが担架を持って駆けてくる。
ここからなら、地底に戻るよりも、地上の人里に運んだほうが近いだろう。
地上には凄腕の医者がいると、さとりは聞き及んでいた。
その後の話を記す。
空は命に別状はなかった。空自身の話と診察を総合するに、空が意識を失いながらも放ったニュークリアエクスカーションは、空が期したほどの威力を成しえていなかったという推論が立った。でなければ、空も郁嶋童子も、周りの地形でさえも消し飛んでいたはずと。鬼たちの猛攻が空を弱らせ、結果的にその場の全ての命を救っていたとは、なんとも皮肉な話だ。
とはいえ、全身の打撲、骨折、また神の力の使いすぎによる心身衰弱など、諸々含めて全治3ヶ月と診断され、空はしばらく不自由な生活を味わった。
しかし容態が安定して地底の病院に移ってからは、入院生活も空にとって悪いことばかりだったわけではない。
空を冷たく遇していた環境整備課の面々が、入れ替わり立ち代わり見舞いに訪れ、それまでの態度を謝りにきたのだ。
空も改めて、地上侵略のことを謝ることができた。空と地霊殿職員の間にあったわだかまりは、これで多少の解消を見ることとなった。
郁嶋童子はやはり命に別状なく、そして当然のことながら逮捕された。地底行政の転覆を狙ったテロリストは決して許されることなく裁かれる……はずだったが、地上妖怪の最大組織である『妖怪の山』と通じていたことが量刑を難しくしていた。しばらくは取調べと裁判の日々が彼女を待っていることだろう。
妖怪の山といえば、あのとき確かに郁嶋童子が連れてきたはずの天狗の姿は、砦跡で発見されることはなかった。いったい何者が郁嶋童子と通じ、地底と地上のバランスを崩そうとしたのか。鬼たちの取調べである程度はわかることだろうが、問題の根の深さをうかがい知ることは、現時点では難しい。事件はまだ、完全な解決をしたわけではないのだろう。
それでも束の間、空は平穏の中に帰ることができた。
空は怪我が癒えるころ、さとりにひとつ相談をもちかけた。あの地上侵略の失敗からは一年が過ぎようとしていた。
エピローグ
正式な辞令を受け取ったのは、前日の昼のことだ。もうデスク周りもすっかり片付き、あとは空がその場を去れば、もうそこには何者が座っていたかを示す痕跡はなくなる。
仕事の引き継ぎも別れの挨拶も、滞りなく済んでいた。引き留めてもらえたことは本当に嬉しかったが、決意を覆すことはできなかった。ちゃんと考えて、決めたことだったから。
長いこと座っていたデスクの表面を撫でる。愛着はある――そう思ってがらんとしたオフィス内を見渡すと、存外そういうものばかりで少し驚いてしまう。
「空さん?」
呼ばれて振り返ると、見慣れた鹿の妖怪がオフィスの入り口あたりに立っていた。
「課長」
手を挙げて答える。すると彼女は苦笑いをして、空の方へ歩み寄ってきた。
「もうわたしはあなたの課長じゃないでしょう」
「そういえば、そうでしたね」
空も笑った。とはいえ、オフィス同様に付き合いの長い呼び名である。容易には矯正しづらいのだ。
「今から出立かしら?」
「ええ。……先日は送別会、ありがとうございました」
「ささやかな席でしたけどね。まぁさとり様が来てくれたのにはほっとしましたよ」
言いながら、課長は荷物を半分持ってくれた。
連れ立って地霊殿の廊下を歩く。他愛もないことを話した。課長との会話で一番弾むのは、彼女の娘の話題だ。
来年ようやく保育所を卒業してエレメンタリースクールに入学する。ついては心配事も山ほど増える。学校に馴染めるだろうか友達はできるだろうか勉強についていけるだろうか……
「なによりわたしも親同士の友達ができるか心配だわ……」
自身のナイーブな悩みも吐露していた。
地霊殿のエントランスにはちょうど乗り合い馬車が来ていた。
荷物を受け取り、改めて別れを告げる。
「落ち着いたら手紙を書きます。お世話になりました」
「燐さん、寂しがるわね」
「昨日は一晩中抱きつかれてました」
課長はまるで少女のように吹き出した。笑顔だと、彼女はなんとなく幼く見える。
御者が馬に鞭を打ち、空は地霊殿をあとにする。一度だけと思って振り向くと、殿舎の屋上に見知った妖怪がふたり。
さとりと、燐だ。こちらへ手を振っていた。空も大きく手を振り返した。あのふたりの傍は、他のどんな場所より心地よい。別に一生戻ってこないわけでもないが、あの安らぎを自ら手放すということが、最も空の決心を鈍らせた。
地霊殿を離れ、旧都のとある停留所に馬車が止まる。乗り込んでくる妖怪がいたのだろう。
「あれ。空じゃない」
「パルスィさん」
彼女も大きな荷物を抱えていた。
「偶然ねー。次に会うのは地上でだろうなって思ってた」
あの事件以来、パルスィとはだいぶ親しくなった。共に命を賭してクーデターを阻止したことで話す機会がぐっと増えた。
これから地上に出向くのも、奇しくも同じタイミングとなった。パルスィは明日付けで地底の特命全権大使に就任することになっていた。縦穴に詳しいこと、地上を知っている世代の地霊殿職員ということの二点が評価されたという。鬼などの地上を刺激してしまう種族でないこともだ。縦穴を指して地底と地上を結ぶ『橋』と呼ばれ始めたのをきっかけに、自らを橋姫などと言い出す始末である。
「これから大変よ、空。のほほんとしてられる奴らが妬ましいわー」
明日から空の上司となるパルスィが、自分こそのほほんとぼやいていた。
そう、空もまた、竣工した地底大使館に勤めることになっている。見舞いに来てくれたさとりに志願し、燐や課長たちと相談を重ねた。
「わたしもさとり様の仕事をお手伝いしたい。地底と地上のかけ橋をつくる、その手伝いを」
郁嶋童子みたいな妖怪が、これ以上無茶なことをしでかしてしまわないように。
そのための第一歩として、空は地上に出るべきだと感じたのだ。全く未知の場所で見聞を深め、また地底のことを地上の妖怪や人間たちに知ってもらう。それはさとりの目指すものにかなり近いものだ。
遅々とした歩みになるだろう。
だが、きっと正しい道だ。おそらくは、地上侵略よりは。
胸を張って誇ることができる。だから空は意気込んで答えた。
「まずは間欠泉地下センター計画ですよね! 地底が地上にもたらす益をわかりやすく地上に提示する温泉、さらにヤタガラス様の力の解析を進めることによる新たなエネルギーの開発が――」
「ずいぶん勉強してるみたいね……」
パルスィは身を引き気味に苦笑する。
「まずと言ったら、あんたはその制御棒? を修理しに妖怪の山に行かなきゃいけないでしょ」
「あ、そうでした……」
間欠泉地下センターにしてもそうだが、これからは妖怪の山と連携をとって動くことが格段に増える。その大事な初接触が私事になるというのはどうにも締まらないものの、挨拶のタイミングとしてはそこまでおかしくもないだろう。
いや、私事とも言い切れない。ヤタガラスの力の研究に、空は必要不可欠なのだから。
馬車はやがて縦穴(「橋って呼びなさいよ、橋!」)を通り抜け、地上へたどりつく。
空は窓からそっと顔を出し、そらを見上げた。地底暮らしの長い妖怪には目を開けていられないくらいまぶしいが、ほどなく慣れた。
夜でもなく、雲もなく。ただひたすら高みにある蒼穹と、その中心の遥かなる太陽。初めて目にしたそれは、手を伸ばせば掴めるというほどには近くないが。
いつかはそこへ歩いていける。今の空は、自分の世界が大きく動き始めたのを感じているから。
馬車が目的地に着くまでは、もう間もなくだ。空は御者に注意され、窓から首を引っ込めた。
読了感謝します。
コンセプトは、前年度やらかした社会人二年生・うつほちゃん。
思ったように妄想を形にできました。
一年以上前になりますが前作と出来事・世界観を共有しています。
今回の主人公である空とはそれほど関係ない範囲に収まっているかと思いますが、
そちらとあわせてお読みいただけると幸いです。
ご意見ご感想をお待ちしています。
※10月17日、意味の捉え違いをしていた単語を修正しました。
エムアンドエム(M&M)コンセプトは、前年度やらかした社会人二年生・うつほちゃん。
思ったように妄想を形にできました。
一年以上前になりますが前作と出来事・世界観を共有しています。
今回の主人公である空とはそれほど関係ない範囲に収まっているかと思いますが、
そちらとあわせてお読みいただけると幸いです。
ご意見ご感想をお待ちしています。
※10月17日、意味の捉え違いをしていた単語を修正しました。
お役所地霊殿、楽しめました
それにしてもパルスィは丸くなったなぁ
ディスアドバンテージな現状からの脱却に頑張る空とか。
くたびれパルスィが土木課て、まぁ、なんかしっくりくる。
勉強になるわー
大抵二次創作は原作に登場するキャラクターの周りしか描かないから、こういう作品は貴重ですね。
一次設定ではあまり言及されていないところを解釈・創作した作品は二次創作の醍醐味だと思います。
とても楽しめました。ありがとうございました。
こういう設定をうまく使って書けるのがすごいです。
楽しく読ませていただきました。
尚且つお空もすごくかっこよかったし
空のがんばりに無理がないように、は気を使いました
ギリギリやり過ぎてるかもしれませんがありがとうございます
>>9さん
これからは(物理的に)晴れやかな世界でがんばっていくと思われます
>>12さん
パルスィが丸くなったエピソードも現在執筆中です
>>16さん
調べたところ、『橋』に関する業務は建設土木課とのことだったのでこうしてみました
パルスィは30代手前を想定しているので、そろそろくたびれてくるころですよね
>>17さん
地味でお堅い雰囲気がなんとなく好きです
>>18さん
正体不明らしいので、好き勝手やっちゃえるかなと思いました
>>21さん
他の作者様とちょっと雰囲気が違うのは自覚していたので、受け入れてもらえて嬉しいです
>>25さん
ありがとうございます
新鮮なうちにもうちょっとお役所地霊殿シリーズみたいに続けられたらと思います
>>26 リペヤーさん
正直な話、書いてるうちに決まっていくことが多いです(汗
>>32さん
空のイメージはあとがきに書いた通りですが、かっこいいと言ってもらえて幸いです
>>匿名評価してくれた皆様
たくさんの評価、ありがとうございます
これからの執筆の励みにします
原作における、適当でファンタジックな要素はほぼ皆無のはずなのに、なんだか妙にしっくり来る。
こりゃもう完全にペットじゃなく職員ですね。ってか空頭良い。
地霊殿を詳しく書いてみようと自分なりに考えてみたら、こんな感じでした。
さとり様のたくさんいるというペットたちは孤児院のようなもので育てられていて、
そこを卒業したら地霊殿で雇ってもらえる。こういう拡大解釈の集合体です(汗
逆に、地底人が独自の社会を形成してるってファンタジーの極みじゃないですか?
すばらしい
仕事に疲れたサラリーマンみたいな感じのパルパルもすばらしい
頑張れ、人(?)は悩みながら成長していくのだ
頭が良かろうが悪かろうがそれは変わらん