Coolier - 新生・東方創想話

「貴方」と「私」

2010/08/04 20:11:29
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貴方の手の温もりが私を包み込む

貴方の視線が私に向けられる

貴方は私を見て、優しく微笑む

貴方の手によって踊らされる私

貴方の傍に私はいる

貴方の……

貴方が……

貴方は……

貴方に……



貴方がいなければ、私は生きられない

いや、貴方のおかげで私は生きられた

貴方の思いが私に命を授けた

貴方は気付いてないけど、私は
確かに生きている

今日も貴方は私を呼ぶ

「上海」と






























「んっ……うぅん……」

机に向かったまま寝ちゃった貴方は、日が昇ると目を覚ました。

「あ、寝ちゃってたのか……」

貴方は独り言のつもりなのだろうけど、私はちゃんと聞いている。
そして貴方は、机の上の私を見る。

「おはよ、上海」

そう言って微笑む貴方はとても可愛らしいのだけど、顔には机の上の私の仲間の設計図が移ってしまっている。
だけど私は教えられない。もっとも、教えられたとしても教えない。
貴方がどんな反応をするか楽しみだから。

「さっそくだけど、朝食の準備を手伝ってね」

私の体は貴方に操られ、貴方の目的の為に使用される。
苦痛ではない。むしろ貴方の役に立てるのなら嬉しいくらいだ。
手際よく私を操って、貴方は朝食の準備をする。
貴方は操った私で料理をしているのに、とても上手だ。
私まで誇らしくなってしまう。

「はい完成。上海、ありがとね」

私は何もしていない。
ただ貴方が私を操っただけ。
だけどお礼を言われて悪い気はしない。
笑いかけてくれる貴方は、とても可愛いから。










「お~っす。遊びに来たぜ」

「あら、いらっしゃい」

白黒の魔法使いが貴方の家にやってきた。
貴方は彼女と仲は良くないと言っていた。
けれど彼女といるときの貴方はとても楽しそう。
貴方が楽しいなら私も幸せ。
そのはずなのだ。
けれど今の私の中には言い表せない感情が渦巻く。
私は、貴方を喜ばせる彼女を好きではないみたいだ。
楽しそうにしている貴方を私だけが見ていたい。
そう思った。

「いつ見てもお前の家は不気味だな」

彼女は並べられた私の仲間達を見た。

「何よ。この子達の事を言ってるの?」

貴方は私を見て言った。
不機嫌そうな顔をしている貴方。

「これだけの人形が並べられてるとな……」

「なら、これで文句無い?」

次の瞬間、私の仲間達が一斉に動き出した。
もちろん貴方が操っている。
貴方が一人で、何十という仲間達を。

「これはこれで不気味だな……」

「文句ばっかりね……」

貴方は嫌そうな顔をするのだが、内心はそこまで嫌がってないのを私は知っている。
だから、私は彼女を好きになれない。
私は貴方に操られ、彼女の下へとお茶を運ぶ。

「お、サンキューな」

彼女は私の頭を撫でる。
そういう所のせいで、私は彼女を嫌いになれない。
好きではないが、嫌いにもなれない。
彼女が私に意地悪をしてくるならどんなに楽だったか。
人形の私にはこの感情は複雑過ぎる。










「アリスちゃ~ん、遊びに来ちゃった~」

「ママ……また抜け出して来たの……?」

貴方の「ママ」は不思議な髪型をしている。

「アリスちゃんの顔が見たくなっちゃったから。上海ちゃんも元気?」

そして私を抱きしめる。
私は彼女は好きだ。
貴方も彼女が大好きなのは分かっている。
彼女は不思議だ。
髪型から性格から、色々なものが。
私が生きているのも知っているような気がする。

「あ、上海ちゃんは白いパンツなの?」

「ちょっ!ママ!」

私に羞恥心なんて無いから恥ずかしくは無いのだが、穴が空くほど見つめないでほしい。
流石にパンツに穴が空いたら困ってしまう。

「アリスちゃんは何色なのかな~?」

「いやっ!ママ、止めっ!」

最近覚えた言葉を使うと、これは「セクハラ」と言うらしい。

「いいからママに見せてみなさい」

貴方の「ママ」が彼女なら、私の「ママ」は貴方なのかな?
私は貴方を愛している。貴方も彼女を愛している。ほら、一緒のはずだ。

「神綺様!見つけましたよ!」

家の入口が開かれて、新たに女性が入って来た。

「あら、夢子ちゃん」

「夢子姉さん!」

貴方と彼女の声が重なる。

「神綺様、魔界を勝手に抜け出した上に何やってるんですか!?娘へのセクハラは止めてください!娘以外も駄目ですけど」

彼女は貴方の「姉さん」。
それなら、私は他の人形達の「姉さん」?
それはよく分からない。
貴方と私。
違うものが数多く存在する。
だけど、貴方と同じようにしてみたい。
貴方のように、生きてみたい。
人形の分際で生意気だと思われるかもしれないが、思うだけなら許されるはずだ。
貴方の「姉さん」にくどくどお説教をされる貴方の「ママ」を見て、貴方はとても幸せそう。
これが「家族」ってもの?
私にはまだ分からない。
いつか分かる日が来るのだろうか?










「覚悟は出来てるんでしょうね?」

「それはこっちの台詞よ」

紅白の服を着た巫女と貴方は対峙していた。
きっかけはとても小さなこと。
どちらかが折れればすぐに済んだこと。
だけど貴方も彼女も譲らなかった。
だから貴方達は、こうして向かい合っている。

「何回言ったか分からないけど……博麗の巫女の力、思い知りなさい!」

「あら、私の人形達の方が優秀よ」

そう言った貴方の前に私は立つ。もちろん貴方の意志で。
私の他にも、仲間達が貴方の手によって操られる。

「なら、その力見せてみなさいよ」

彼女は貴方にお札を投げつける。
貴方は軽やかに避けて、私達を操る。
仲間達といると、私は貴方の人形の一つでしかないと思い知らされる。
本来ならそれだけでも満足するべきなのだ。
だけど、何故か満足出来ない。
貴方に特別なものとして見てほしい。
こんな事を考える私は、人形として特殊な存在なの?

「上海!」

貴方の声で私は意識を戻す。
すると彼女の投げつけたお札が私の目の前に迫っていた。
私は自分では動けないし、操っているのは貴方。
でも貴方の反応速度でもこれは避けられない。
お札が私に直撃する。左腕が取れてしまったのが見えた。
それに、貴方と繋がる糸も切れてしまった。
そのまま頭から下に落ちる。
私にとって貴方は特別でも、貴方にとって私は一つの人形にすぎない。
それは分かっていたんだ。
だからお別れも覚悟していた。
だけど、いざとなったらこんなに悲しいなんて。



「上海!」



まだ、終わりは来なかった。
私は貴方の手の上に落ちた。

「上海、大丈夫……?」

どうして?
私が壊れても新しい私を作ればいいのに。
それは、私では無いのだろうが、貴方から見れば私のはず。
なのに貴方は何で今の私を助けたの?
そんな疑問を投げ掛けたくなったが、それ以上に嬉しかった。
貴方に助けてもらった。なら、理由なんてどうでもよかった。

「私の可愛い上海をよくも傷付けてくれたわね……。……覚悟は出来た?」

この時の貴方の顔はとても恐くて、でもそれが私には嬉しくて、貴方の手の上にずっといたい気分だった。
だけど意識が遠のいてきた。
長らく過ごしてきたが、意識が途切れそうになったのは初めてだ。
もう一度、貴方の顔を見れるかな?
温かい貴方の手の上で、私の意識は途切れた。




















意識が戻ったのは突然だ。
気が付いたら私は貴方の家の机の上。
貴方は机に突っ伏して寝ていた。
こうしてまた貴方の傍にいれるのは幸せな事だ。
新しい私ではなく、今の私として貴方の傍に。
左腕は直っていた。
実際に動かしてみたかったが、あいにく私だけでは動かせない。
貴方に動かされるのを待つことにする。
寝息を立てる貴方の綺麗な髪を見つめる。
私と同じ金色の髪。
結局、貴方にとって私はどれ程のものなのだろうか?
他の仲間達より、ちょっと大切にされていると思いたい。
もちろん、私にとっての貴方は前よりもずっと大切な存在になった。
ねえ、私は喋れないけど、もしも喋れるようになったら貴方を呼んでいい?





「アリス」って
上海のイメージは人それぞれでしょうが、こんな上海もいいなと思ってくれれば幸いです。
鹿墨
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コメント



0.730簡易評価
2.100奇声を発する程度の能力削除
とても素晴らしかったです。
上海は良い子!
4.100名前が無い程度の能力削除
今まで見た中で最高の上アリでした
上海いじらしいのう
14.100名前が無い程度の能力削除
シャンハーイ
こういう雰囲気の作品好きだわー
17.100名無しな程度の能力削除
きっといつか呼べる日がくる!