4月1日。世間ではエイプリルフールと呼ばれるというこの日。少し外に耳を澄ますと、どこそこから嘘をついてる声が聞こえる……ような気がする。
いつもどおり、私は自分の家から出歩くことはせずに、人形を作っていた。普段どおりの、普通の人形。こういう日だからって、あえて嘘をつくような面倒なことはしてられないし、なにより嘘をつく相手自体が居ない。まぁ、一人の方が好きだからいいんだけど。
「はぁ……いったんここらへんで休憩しようかしら」
上海人形に命令を出して、紅茶とお菓子を持ってこさせた。部屋から出て行く姿を見届けた後、ソファーに腰掛けて、目を瞑った。
しばらく経って、向こうのほうから音がしたかと思うと、上海人形が帰ってきた。しかし、何かおかしい。明らかに、紅茶お菓子の量が2人分くらいはある。
「……まさかだけど上海、あなた私とエイプリルフールを楽しみたいの?」
でも上海は人形だから、紅茶を飲めるはずも、お菓子を食べられるはずも無い。紅茶の中に浸かる……考えづらいけど、エイプリルフールならやりかねない。
「……間違えてもティーカップの中に入っちゃダメよ?」
「ほうほうそういうことを考えてるのか……」
……この声って……
「邪魔するぜ~♪」
「全くもう……魔理沙も暇人ねぇ……」
「も、ってことはアリスは今暇なんだな?」
「まぁ、ちょうど休憩中で暇というところかしら。でも暇と休憩は違うわよ」
「私も今は休憩中だ。休憩中は忙しいぜ」
魔理沙のせいで暇になりそうよ――とまでは言わなかったが、正直迷惑だったり。人形作りの邪魔さえしなければいいのに……とかよく思ったりする。というか、勝手にこっちが魔理沙に注意をはらってるだけかもしれないけど。
「なんでいちいち家にくるの――ってちょっと勝手に何食べてんの!」
「何って……お菓子を食べて、紅茶を飲んでるだけだぜ。いやほんと、アリスん家のお菓子と紅茶はうまいぜ」
「全くもう……」
魔理沙にほめられると、何か心に感じるところがある。どこか嬉しい。でも……時々、魔理沙は口先だけのほめ言葉をいってるんじゃないかって思う。そんなことはあってほしくないんだけど、今日はなぜか、考えてしまって仕方なかった。
「ねぇ魔理沙……」
「なんだ?アリスもお菓子食べたいのか?」
「……もしかして、私の家に来てる目的って、紅茶お菓子がおいしいから?」
「……なるほどなるほど」
「何がわかったのよ?」
「いや、私はお菓子が目当てなんだと、そういうことだ」
「……そうみたいね……」
彼女なりに、ストレートに、さらっと言われた。そういっておきながら、紅茶を飲んでいた。砂糖は入れてない。
「お菓子と紅茶、食べ終わったなら帰りなさいよね……」
その一言を発したとき、辺りがしんとした。勿論ながら、魔理沙も止まった。
「……なんだ?今日はやけに冷たいな」
「そんなことどうでもいいから。食べ終わったら帰って。というか……もう来ないで」
「なんでだ?」
「……そんな魔理沙だとは思わなかったからよ……」
途中で自分が言い過ぎてることに気付いた。でも、それも今更。気付けば作りかけの人形を撫でていた。
「私の家に来る理由が、美味しいお菓子とか紅茶だとかを満喫したいだけって言うのは分かったわ。でも、それだけのために家に来るんだったら、二度と来ないで。私、バカみたいじゃない」
手作りのお菓子だったらまだしも、そんなことはなかった。普通に、少しだけ高めの、買って来ただけのお菓子。それを食べるために家に来ている魔理沙。ものすごくショックだった――
「……ぷっ、ふふっ……あははっ」
途端、魔理沙が笑い出した。
「……なによ?」
「悪いっ……つい……」
「よく笑ってられるわね本当に」
「だって……いつにも増してアリスが可愛くて面白かったから……ははっ」
「それが……」
どうしたって……ふと、自分の耳を疑った。頬の辺りが熱くなる。
「ふふふっ。なんだよ、もっと前から気付いてると思ったんだが……これじゃあ私の予想通りだぜ?」
「……っぅ、うるさいバカ魔理沙っ!何が予想通りなの!」
前から気付いてる、っていうのも何なんだか全く分からない。そんな私を見てか、魔理沙はまだ笑ってた。
「これ言うと両方ともばれるのか……まぁいいや。ほらアリス、今日はエイプリルフールだぜ? 」
「……あっ……そうだっけ?」
「だったらなんで私がアリスん家の紅茶お菓子だけが目当てでここに来れるなんて言えるんだ? 相手がアリスじゃなかったら私はここには来ないぜ☆」
「……その言葉はエイプリルフールじゃないわよね?」
「勿論にきまってるだろう。気持ちはいつでも直球だぜ!」
こんな、いつもやっつけ感のありすぎる魔理沙。でも私は……そんな彼女が好きだった。
そして1つ、言ってみた。
「だったら言ってみなさいよ」
「ん?何をだ?」
なんでこういうところばかり鈍感なのかしら……私はそっと、魔理沙に耳打ちをした。
「……言える?」
「アリスのお願いじゃ、言うべきだろうな。でもだな……」
「言えないの?」
「……先にアリスから聞きたいぜ、それを」
思いがけない返答だった。
「えっ、な、なんでよっ!?」
「言ってくれないのか?なら私も言わないぜ」
「全くもってずるいわね……いいわね、言ってやろうじゃない。私は……」
「魔理沙様が大好きです。と」
「魔理沙様が大好きです……ってなに言わせるのっ!」
いけない……ついノリで言っちゃった……。
「おっと。それはエイプリルフールの言葉か?」
「……半分くらい、って言っておくわ。で、魔理沙」
「なんだ?」
「……そのお返事は?」
「ふっふっふ」
……まさか。
「言わせておいて、逃げたりしないでしょうね」
「今日はエイプリルフールだぜ☆私はアリスのことが大嫌いだ」
「あらっそうなの。でも、好きという意味にはならないわよ?ちゃんと言ってもらわなきゃね」
「ちぇっ、色々ひねくれてるなぁ……」
まぁ、魔理沙には言われたくないけど。
「大好きだぜ。アリス」
「……案外唐突なのね」
明日になったら、外の桜は徐々に開花し始めるだろう。
でも、私の桜は既に、満開を迎えていた。
ほのぼのしていて安心して読めた
こういう雰囲気のマリアリ大好きだ
そんな関係のアリマリもいいですねぇ。