あらすじ
・まな板と洗濯板は似ているようで全く違う。ツンデレと天邪鬼ぐらい違う。OK?
天子と、彼女が先程助けた少女…龍驤と名乗った…は、揃って天界にいた。
あれから万難を排するが為にあちこち飛び回ったのだが、どこへ行っても必ずどちらかの関係者と遭遇してしまいその度に七面倒臭い状況が発生してしまうのだ。
それならいっそ開き直って、天子のホームグラウンドで迎え撃ってやろうという結論に至ったわけである。
「いやーホンマ助かったわ。こんなん言うのも今更やけど、ありがとな、天子はん」
飛ばされないように帽子を抑えながら、親しげに龍驤が礼を言う。
要石に乗った直後は慣れない空中移動に多少取り乱していたが、今はもう慣れたようだ。
「だからお礼なんていいってば。私は私の都合で私のやりたいようにやってるだけなんだから」
こう返した天子だが、照れ隠しなのは誰が見ても明らかだった。
何気に褒められたり感謝される機会にあまり恵まれないせいで耐性が付いていないのだ。
そうこう言っているうちに、要石は目的地点へと到達した。かつて天子が異変を起こした際に陣取った場所である。
「さ、着いたわ。ここならこちらが地の利を得ているし、下界からやってくる奴も見つけやすい。先手を取れさえすれば大体何とかなる。兵法の基本ね」
「要するに開幕制空権獲得+丁字有利っちゅうわけやな。まー、丁字有利だとこっちも受ける被害大きいんが難点やけど」
「そういうこと。じゃ、その時が来るまでここでだべってましょ」
下界への注意を絶やさないよう気を払いつつ、二人は他愛無い会話をしていた。
その内容はもっぱら互いの素性についてである。
「へー、貴女ってあの外の世界で滅茶苦茶話題になった戦争時代を生きた軍艦の一つだったのね。道理で軍事っぽい用語ばかり使うと思ったわ」
「せやで。こう見えてもうちはあの一航戦にだって所属してたんや。まあ…赤城や加賀にはちょっち及ばんかったけど」
「んー、詳しく知らないから何ともいえないけど、その二人ってうちでいうところの紅白巫女と白黒魔法使いみたいなものかしらね」
どちらもある意味では常識はずれの規格外という点で共通している辺り、天子の例えは間違っていないだろう。
当人達の前で言った場合あまりいい顔はされないかもしれないが。
「そういう天子はんも天人とかいう偉い位の方やって? 納得したわー。それとなく気品みたいなもの感じるわけやで」
「別にそこまで持ち上げられるようなもんじゃないわよ。私の地位なんて親譲りの七光で、その親すら上に取り行っただけの中途半端な立ち位置なんだから」
さらりと受け流した天子だが、特にそこまで嫌悪しているというわけでもない。
複雑な感情だの悟りだのはとうの昔に通り過ぎてしまったからだ。それが良いか悪いのかを考える事すら意味を感じないし、興味が無いのである。
「それよりもっと軍艦とかその辺の話聞かせて頂戴。私古典はそこそこ知ってるけど、あの戦争についてはまだ無知も同然なのよね」
「んー、うちの話なんかで良かったら。でも、あまり聞いてて気持ちいいもんでもないと思うけどな…」
「栄枯盛衰。盛者必衰の理をあらわす。でもそれ故に、そこから学ぶべきはある。貴女の話には貴女が思う以上の価値があるわ。少なくとも私にとってはね」
「そっか。なら天子はんの話も聞かせてーな。うちこっちの世界のこと興味あるわ!」
と、こんな調子で二人が楽しく過ごしていたその時である。
突然、眼前の雲の下から勢い良く何かが飛び出してきた。
「きゃっ! な、何よ一体!?」
それは一機の偵察機だった。それは天子と龍驤の近くまで来ると、急旋回し雲の下へ戻っていった。
「え? え? 何だったのよ今のは」
「今のは彩雲! それも相当練度の高い空母から発進した奴や! と、いうことは…」
「! ひょっとして、敵が来たってこと?」
「せや。それもかなり手強い相手らしいで。天子はん、準備はええな?」
「当たり前でしょ! 今の私は緋想天時代のボスモードに戻っている最強状態! 残忍! 冷酷! その私が敵をぶっ倒すわッ!」
緋想の剣を抜き、高く掲げる天子。その士気は非常に高い。龍驤も巻物を取り出し艦載機の発進準備は万端だ。
備えは完璧。後は迎え撃つのみ。さあ、誰がかかってくるか。
眼下を睨みつけ、身構える二人の前に現れたのは――
「ここが天界ですか。流石に気分が高揚します」(たぷーん)
「うふふー。ここの桃は味こそ劣悪だけど、眺めがいいから気にならないのよ~」(たたぷーん)
「確かにいい場所ですね。ボーキサイトもいつもより美味しく感じます」(ぽよーん)
「御三方、食道楽もよろしいですが、果たすべき役割を忘れてはいけません」(ぽよよーん)
現れたのは四人。構成は東方組が二人と艦これ組が二人。そしてその全員は、天子と龍驤がよく知る人物(?)であった。
突如、がくりと天子が膝を着いた。
「……もう駄目よ。おしまいだわ……」
「な、何を寝言言うとるんや! 不貞腐れる暇があったら戦うんや!」
龍驤に掴み起こされるも、天子の顔には全く覇気が無い。
「む…無理よ…。勝てるわけがないわ……。相手は伝説の大食い巨乳亡霊と魔法(物理)僧侶なのよ……!」
そう、東方組として現れたのは西行寺幽々子と聖白蓮。実力は勿論だが、巨乳にも定評のある二人であった。
特に後者はほぼ公式として認められたようなものであり、天子にとってはあまりにも分の悪い相手である。
「そんなこと言うたらあかん! うちだって泣きたいんや! なんでよりによってここで赤城加賀の一航戦最強正規空母ペアやねん! ええとこ蒼龍かと思うとったわ!」
一方の艦これ組は赤城と加賀。先程龍驤が話題に出したかの一航戦の代表ともいうべき正規空母である。
その華々しい活躍と悲劇の結末については各自で調べてほしい。もっとも既に知っている方ばかりであろうが。
そして何気にこの両名とも、スタイルの良さにも定評があったりする。
妖怪食っちゃ寝だの殺人長屋だのといったネタ要素を抜きにしてもなお魅力溢れる艦娘。それが赤城加賀なのだ。
「何だか揉めてるみたいだけど、私達には関係ありませんね」
「はい。さっさと大破させて持ち帰り、まな板に仕立てあげましょう。提督もお待ちかねでしょうし」
「こら赤城に加賀! お前らそれが正規空母のやることかーっ!」
「何を言っているんですか? 正規空母だからできるんでしょう?」
「こ、このひとでなし! 鬼! 悪魔!」
「ひとでなしは艦娘なので正解ですね。後は却下ですが」
必死な龍驤に対しあくまでもマイペースな赤城と加賀。そして誰が合図するともなく、いきなり艦載機を発進、大量展開しはじめた。
慌てて対抗する龍驤であったが、ただでさえ二体一という数の不利がある上に悲しいかな龍驤の搭載数は極端に少ないため、制空権など取れるはずもなかった。
「うぎゃーっ!」
「ああ、龍驤!?」
「人の心配をする余裕などありませんよ?」
「はっいつの間に! って、ふおぉ!?」
不意を突かれた天子はもろに聖のラリアットを食らい、何故か背後に屹立していた岩盤に思い切り叩きつけられてしまった。
あまりの衝突の強さに、一瞬で巨大なクレーターが出来上がる程である。
「もう終わりですかぁ…?」
「くぅぅ……ぐっ……!」
ぎゅむ、ぎゅむと聖の持つ二つの山が天子を圧迫する。
ラリアットじゃなかったのかというツッコミには最初から腕ではなく胸による攻撃だったと解答しておく。
「あらあら~どうやら私の出る幕はなさそうね~」
のほほんとした調子で桃を頬張る幽々子はいつもどおりだが、全く隙がない。
こう見えて意外と好戦的な彼女である。仮に不意打ちされたとしてもさらりと受け流してしまうことだろう。
ようやく圧迫から解放された天子は、ぼとりと下に墜落した。すぐそばには大破し、黒焦げになった龍驤が倒れている。
「うう……て、天子はん……」
「龍驤……もう、いいよね…? 私…頑張ったよね…? もう…ゴールしても…いいよね…?」
「あ…あかん! ゴールしたらあかん! これからや、まだこれからやないか…!」
そう告げつつ、何とか自身を奮い立たせようとする龍驤だが誰の目から見ても限界だった。
言うほど頑張っていない天子だが、既に心はへし折れていた。これではまともに戦えるわけがない。
「そのあがき、腐っても一航戦だったと認めましょう。ですが、ここまでです」
「鎧袖一触ね」
「安心しなさい。既に萃香さんがまな板として博麗神社にて活躍しています。天子さん、貴女も無碍には扱いませんよ」
「美味しい料理を作るには丈夫なまな板が必要だって妖夢がぼやいてたのよねぇ。たまには主人らしく動いてあげないと~」
じり、じり…と止めを刺すべく、四人分の巨乳が迫り来る。
すわここまでか、と龍驤が奥歯を噛み締めたその時だった。
すっく、と、天子が立ち上がった。
「……? 天子、はん?」
「…………」
恐る恐る確認する龍驤。明らかに様子がおかしい。
目に生気が無いのはいい。さっきの戦闘の時点でそうだった。だが、何かが違う。
そう、72かが……。
「はっ!」
刹那、龍驤の目は確かに捉えた。天子の全身を覆う青いオーラを。
そして背中にぼんやりと浮かび上がった、72という数字を。
「て、天子はん?」
「『天子? 違います。私はチハヤ。全ての貧乳の思いを背負い、巨乳を滅ぼす歌姫』」
「な、なんやて!?」
天子の変化に、刺客の巨乳四人も気圧されていた。
「ま、まさかあれは、伝説のまな板72!?」
「何、知っているのですか聖さん?」
「ええ…。私も魔界で聞いただけなのですが…。ある世界で、胸囲が72という少女が存在したそうです。その少女は歳と背丈の高さに全く胸の大きさが吊り合っておらず、あっという間にまな板まな板と祭り上げられてしまったそうです。やがてそのあまりに強すぎる周囲の評価が少女の存在概念そのものに干渉し、いつしか72は貧乳界隈での聖なる数として崇め称えられるようになったのだとか……」
「な、成程。ですが、どうしてそれが今あの少女に?」
「あら~。どうやら私達が少し追い詰めすぎてしまったようねぇ」
そう言いつつ、こっそり避難体制を整えている辺り流石の幽々子といったところであろうか。
もっとも、それが意味のある行動であるかどうかはまったくもって疑問だが。
「『我は紙の代理人、Aカップの地上代行者。我が使命は、Bカップ以上を持つ巨乳共を、塵一つ残らず絶滅すること……HEEEIMEEEEEEN!!!』」
そう叫ぶと、どこから取り出したのか巨大なバキュラを二枚振りかざし、天子は巨乳四人向かって飛びかかった。
数分後、大破した正規空母二名と残機0になってコンティニュー待ちの6ボス二名を見下ろす天子と龍驤だけが場に立っていた。
ひゅうぅ…と風が吹き抜けていく。虚しい勝利だった。
「天子はん、もう、大丈夫か?」
「ん…。何とか。まだ全身がギシギシ痛むけど、大丈夫、天人は頑丈が取り柄だから」
にっと笑う天子だが、やせ我慢が見え見えである。
だが流石にここで小突いて意地悪するような余裕は龍驤にも無かった。
「はは…。なんや、最後ええとこ持ってかれてもうたな。あーあ、ソロモンを思い出すわ…」
「勝負は時の運。人事を尽くして天命を待つ。結局最後の最後は、運とかそういう曖昧なものに左右されちゃうのが戦の常よ。こう言ってしまうと大抵の格言が無意味になっちゃうけどね」
「ん、でも一理あると思うわ。今回の一件で尚更、な」
ぱぁぁ…と龍驤の全身が光に包まれ、傷が治っていく。ダメコンの応急修理女神が発動したのだ。
課金アイテムじゃねーかとかなんでさっさと使わなかったとかいうツッコミは黙殺する。
「んで、どうするの? 私としてはもうしばらくここにいてくれてもいいけど」
「いや、もう帰るわ。いい加減潮時やろうし。こいつらも連れて帰らんとあかんし。ま、こいつらの有り様みたら提督も青くなって卒倒するやろ。それで溜飲下げたるわ」
実際、高レベル正規空母が二人同時に大破して帰還したら大抵の提督は胃が痛くなるだろう。
主に鋼材とボーキサイト的な意味で。
「そっか。じゃあ、ひとまずここでお別れね。楽しかったわよ、龍驤」
「うちもや。また機会があったらよろしく頼むわ。あんたのこと、うち気にいったで?」
「ありがとう。私もよ」
そう言って、がっちりと握手を交わす二枚のまな板。
胸は薄いが、二人の間には確かに厚い友情が存在していた。
おしまい
・まな板と洗濯板は似ているようで全く違う。ツンデレと天邪鬼ぐらい違う。OK?
天子と、彼女が先程助けた少女…龍驤と名乗った…は、揃って天界にいた。
あれから万難を排するが為にあちこち飛び回ったのだが、どこへ行っても必ずどちらかの関係者と遭遇してしまいその度に七面倒臭い状況が発生してしまうのだ。
それならいっそ開き直って、天子のホームグラウンドで迎え撃ってやろうという結論に至ったわけである。
「いやーホンマ助かったわ。こんなん言うのも今更やけど、ありがとな、天子はん」
飛ばされないように帽子を抑えながら、親しげに龍驤が礼を言う。
要石に乗った直後は慣れない空中移動に多少取り乱していたが、今はもう慣れたようだ。
「だからお礼なんていいってば。私は私の都合で私のやりたいようにやってるだけなんだから」
こう返した天子だが、照れ隠しなのは誰が見ても明らかだった。
何気に褒められたり感謝される機会にあまり恵まれないせいで耐性が付いていないのだ。
そうこう言っているうちに、要石は目的地点へと到達した。かつて天子が異変を起こした際に陣取った場所である。
「さ、着いたわ。ここならこちらが地の利を得ているし、下界からやってくる奴も見つけやすい。先手を取れさえすれば大体何とかなる。兵法の基本ね」
「要するに開幕制空権獲得+丁字有利っちゅうわけやな。まー、丁字有利だとこっちも受ける被害大きいんが難点やけど」
「そういうこと。じゃ、その時が来るまでここでだべってましょ」
下界への注意を絶やさないよう気を払いつつ、二人は他愛無い会話をしていた。
その内容はもっぱら互いの素性についてである。
「へー、貴女ってあの外の世界で滅茶苦茶話題になった戦争時代を生きた軍艦の一つだったのね。道理で軍事っぽい用語ばかり使うと思ったわ」
「せやで。こう見えてもうちはあの一航戦にだって所属してたんや。まあ…赤城や加賀にはちょっち及ばんかったけど」
「んー、詳しく知らないから何ともいえないけど、その二人ってうちでいうところの紅白巫女と白黒魔法使いみたいなものかしらね」
どちらもある意味では常識はずれの規格外という点で共通している辺り、天子の例えは間違っていないだろう。
当人達の前で言った場合あまりいい顔はされないかもしれないが。
「そういう天子はんも天人とかいう偉い位の方やって? 納得したわー。それとなく気品みたいなもの感じるわけやで」
「別にそこまで持ち上げられるようなもんじゃないわよ。私の地位なんて親譲りの七光で、その親すら上に取り行っただけの中途半端な立ち位置なんだから」
さらりと受け流した天子だが、特にそこまで嫌悪しているというわけでもない。
複雑な感情だの悟りだのはとうの昔に通り過ぎてしまったからだ。それが良いか悪いのかを考える事すら意味を感じないし、興味が無いのである。
「それよりもっと軍艦とかその辺の話聞かせて頂戴。私古典はそこそこ知ってるけど、あの戦争についてはまだ無知も同然なのよね」
「んー、うちの話なんかで良かったら。でも、あまり聞いてて気持ちいいもんでもないと思うけどな…」
「栄枯盛衰。盛者必衰の理をあらわす。でもそれ故に、そこから学ぶべきはある。貴女の話には貴女が思う以上の価値があるわ。少なくとも私にとってはね」
「そっか。なら天子はんの話も聞かせてーな。うちこっちの世界のこと興味あるわ!」
と、こんな調子で二人が楽しく過ごしていたその時である。
突然、眼前の雲の下から勢い良く何かが飛び出してきた。
「きゃっ! な、何よ一体!?」
それは一機の偵察機だった。それは天子と龍驤の近くまで来ると、急旋回し雲の下へ戻っていった。
「え? え? 何だったのよ今のは」
「今のは彩雲! それも相当練度の高い空母から発進した奴や! と、いうことは…」
「! ひょっとして、敵が来たってこと?」
「せや。それもかなり手強い相手らしいで。天子はん、準備はええな?」
「当たり前でしょ! 今の私は緋想天時代のボスモードに戻っている最強状態! 残忍! 冷酷! その私が敵をぶっ倒すわッ!」
緋想の剣を抜き、高く掲げる天子。その士気は非常に高い。龍驤も巻物を取り出し艦載機の発進準備は万端だ。
備えは完璧。後は迎え撃つのみ。さあ、誰がかかってくるか。
眼下を睨みつけ、身構える二人の前に現れたのは――
「ここが天界ですか。流石に気分が高揚します」(たぷーん)
「うふふー。ここの桃は味こそ劣悪だけど、眺めがいいから気にならないのよ~」(たたぷーん)
「確かにいい場所ですね。ボーキサイトもいつもより美味しく感じます」(ぽよーん)
「御三方、食道楽もよろしいですが、果たすべき役割を忘れてはいけません」(ぽよよーん)
現れたのは四人。構成は東方組が二人と艦これ組が二人。そしてその全員は、天子と龍驤がよく知る人物(?)であった。
突如、がくりと天子が膝を着いた。
「……もう駄目よ。おしまいだわ……」
「な、何を寝言言うとるんや! 不貞腐れる暇があったら戦うんや!」
龍驤に掴み起こされるも、天子の顔には全く覇気が無い。
「む…無理よ…。勝てるわけがないわ……。相手は伝説の大食い巨乳亡霊と魔法(物理)僧侶なのよ……!」
そう、東方組として現れたのは西行寺幽々子と聖白蓮。実力は勿論だが、巨乳にも定評のある二人であった。
特に後者はほぼ公式として認められたようなものであり、天子にとってはあまりにも分の悪い相手である。
「そんなこと言うたらあかん! うちだって泣きたいんや! なんでよりによってここで赤城加賀の一航戦最強正規空母ペアやねん! ええとこ蒼龍かと思うとったわ!」
一方の艦これ組は赤城と加賀。先程龍驤が話題に出したかの一航戦の代表ともいうべき正規空母である。
その華々しい活躍と悲劇の結末については各自で調べてほしい。もっとも既に知っている方ばかりであろうが。
そして何気にこの両名とも、スタイルの良さにも定評があったりする。
妖怪食っちゃ寝だの殺人長屋だのといったネタ要素を抜きにしてもなお魅力溢れる艦娘。それが赤城加賀なのだ。
「何だか揉めてるみたいだけど、私達には関係ありませんね」
「はい。さっさと大破させて持ち帰り、まな板に仕立てあげましょう。提督もお待ちかねでしょうし」
「こら赤城に加賀! お前らそれが正規空母のやることかーっ!」
「何を言っているんですか? 正規空母だからできるんでしょう?」
「こ、このひとでなし! 鬼! 悪魔!」
「ひとでなしは艦娘なので正解ですね。後は却下ですが」
必死な龍驤に対しあくまでもマイペースな赤城と加賀。そして誰が合図するともなく、いきなり艦載機を発進、大量展開しはじめた。
慌てて対抗する龍驤であったが、ただでさえ二体一という数の不利がある上に悲しいかな龍驤の搭載数は極端に少ないため、制空権など取れるはずもなかった。
「うぎゃーっ!」
「ああ、龍驤!?」
「人の心配をする余裕などありませんよ?」
「はっいつの間に! って、ふおぉ!?」
不意を突かれた天子はもろに聖のラリアットを食らい、何故か背後に屹立していた岩盤に思い切り叩きつけられてしまった。
あまりの衝突の強さに、一瞬で巨大なクレーターが出来上がる程である。
「もう終わりですかぁ…?」
「くぅぅ……ぐっ……!」
ぎゅむ、ぎゅむと聖の持つ二つの山が天子を圧迫する。
ラリアットじゃなかったのかというツッコミには最初から腕ではなく胸による攻撃だったと解答しておく。
「あらあら~どうやら私の出る幕はなさそうね~」
のほほんとした調子で桃を頬張る幽々子はいつもどおりだが、全く隙がない。
こう見えて意外と好戦的な彼女である。仮に不意打ちされたとしてもさらりと受け流してしまうことだろう。
ようやく圧迫から解放された天子は、ぼとりと下に墜落した。すぐそばには大破し、黒焦げになった龍驤が倒れている。
「うう……て、天子はん……」
「龍驤……もう、いいよね…? 私…頑張ったよね…? もう…ゴールしても…いいよね…?」
「あ…あかん! ゴールしたらあかん! これからや、まだこれからやないか…!」
そう告げつつ、何とか自身を奮い立たせようとする龍驤だが誰の目から見ても限界だった。
言うほど頑張っていない天子だが、既に心はへし折れていた。これではまともに戦えるわけがない。
「そのあがき、腐っても一航戦だったと認めましょう。ですが、ここまでです」
「鎧袖一触ね」
「安心しなさい。既に萃香さんがまな板として博麗神社にて活躍しています。天子さん、貴女も無碍には扱いませんよ」
「美味しい料理を作るには丈夫なまな板が必要だって妖夢がぼやいてたのよねぇ。たまには主人らしく動いてあげないと~」
じり、じり…と止めを刺すべく、四人分の巨乳が迫り来る。
すわここまでか、と龍驤が奥歯を噛み締めたその時だった。
すっく、と、天子が立ち上がった。
「……? 天子、はん?」
「…………」
恐る恐る確認する龍驤。明らかに様子がおかしい。
目に生気が無いのはいい。さっきの戦闘の時点でそうだった。だが、何かが違う。
そう、72かが……。
「はっ!」
刹那、龍驤の目は確かに捉えた。天子の全身を覆う青いオーラを。
そして背中にぼんやりと浮かび上がった、72という数字を。
「て、天子はん?」
「『天子? 違います。私はチハヤ。全ての貧乳の思いを背負い、巨乳を滅ぼす歌姫』」
「な、なんやて!?」
天子の変化に、刺客の巨乳四人も気圧されていた。
「ま、まさかあれは、伝説のまな板72!?」
「何、知っているのですか聖さん?」
「ええ…。私も魔界で聞いただけなのですが…。ある世界で、胸囲が72という少女が存在したそうです。その少女は歳と背丈の高さに全く胸の大きさが吊り合っておらず、あっという間にまな板まな板と祭り上げられてしまったそうです。やがてそのあまりに強すぎる周囲の評価が少女の存在概念そのものに干渉し、いつしか72は貧乳界隈での聖なる数として崇め称えられるようになったのだとか……」
「な、成程。ですが、どうしてそれが今あの少女に?」
「あら~。どうやら私達が少し追い詰めすぎてしまったようねぇ」
そう言いつつ、こっそり避難体制を整えている辺り流石の幽々子といったところであろうか。
もっとも、それが意味のある行動であるかどうかはまったくもって疑問だが。
「『我は紙の代理人、Aカップの地上代行者。我が使命は、Bカップ以上を持つ巨乳共を、塵一つ残らず絶滅すること……HEEEIMEEEEEEN!!!』」
そう叫ぶと、どこから取り出したのか巨大なバキュラを二枚振りかざし、天子は巨乳四人向かって飛びかかった。
数分後、大破した正規空母二名と残機0になってコンティニュー待ちの6ボス二名を見下ろす天子と龍驤だけが場に立っていた。
ひゅうぅ…と風が吹き抜けていく。虚しい勝利だった。
「天子はん、もう、大丈夫か?」
「ん…。何とか。まだ全身がギシギシ痛むけど、大丈夫、天人は頑丈が取り柄だから」
にっと笑う天子だが、やせ我慢が見え見えである。
だが流石にここで小突いて意地悪するような余裕は龍驤にも無かった。
「はは…。なんや、最後ええとこ持ってかれてもうたな。あーあ、ソロモンを思い出すわ…」
「勝負は時の運。人事を尽くして天命を待つ。結局最後の最後は、運とかそういう曖昧なものに左右されちゃうのが戦の常よ。こう言ってしまうと大抵の格言が無意味になっちゃうけどね」
「ん、でも一理あると思うわ。今回の一件で尚更、な」
ぱぁぁ…と龍驤の全身が光に包まれ、傷が治っていく。ダメコンの応急修理女神が発動したのだ。
課金アイテムじゃねーかとかなんでさっさと使わなかったとかいうツッコミは黙殺する。
「んで、どうするの? 私としてはもうしばらくここにいてくれてもいいけど」
「いや、もう帰るわ。いい加減潮時やろうし。こいつらも連れて帰らんとあかんし。ま、こいつらの有り様みたら提督も青くなって卒倒するやろ。それで溜飲下げたるわ」
実際、高レベル正規空母が二人同時に大破して帰還したら大抵の提督は胃が痛くなるだろう。
主に鋼材とボーキサイト的な意味で。
「そっか。じゃあ、ひとまずここでお別れね。楽しかったわよ、龍驤」
「うちもや。また機会があったらよろしく頼むわ。あんたのこと、うち気にいったで?」
「ありがとう。私もよ」
そう言って、がっちりと握手を交わす二枚のまな板。
胸は薄いが、二人の間には確かに厚い友情が存在していた。
おしまい