Coolier - SS得点診断テスト

これはドラマである

2013/04/02 00:00:38
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 いつもどおりの春の目覚め。外からはチュンチュンと小鳥のさえずりが聞こえてくる。
 今は何時だろうか? 今日は特に予定もないから二度寝してしまおうか。
 そんなことを考えながら、夢うつつに眼を開いた霧雨魔理沙の目の前に、

「我々は火星人だ。これより地球の占拠を開始する。抵抗は無意味だ」



 タコの軍団がいた。



 ベッドから身を起こす。
 間違いなくそこは霧雨魔法店の、霧雨魔理沙の部屋の中である。

「あー、すまん。状況がよく飲み込めないんだが。50文字以内で説明してくれ」
「我々は火星人だ。これより地球の占拠を開始する。抵抗は無意味だ」

 重々しく口を開くタコ。
 はて、本当にこいつらは火星人なのだろうか? どうにもピンと来ない。
 そもそも霧雨魔理沙にとっては、タコ・ソ・ノモノにしか見えないそれを人と呼ぶのは如何なものか。

 枕元においてあるブラシを手にとって、髪を梳りつつ、周囲を見回してみる。
 数はおよそ5,6体といったところだろうか?
 各々が銃身を詰めた猟銃のようなものを手にして、そこの先端からレーザーサイトが……!?

「どわッ!!」

 身の危険を感じた魔理沙はベッドから跳ね起きる。
 一瞬後には魔理沙がいた場所に有線の針が突き刺さり、カカカカと嫌な音が響き渡っていた。

「ふん、お前らが何者かは知らんが、乙女の寝室に土足で踏み込むような連中に手加減は不要だな。灰になれ!!」

 くるりと身を翻して枕元のミニ八卦炉を手に取ると、

「消し飛べぇええええ!!!」


 ――閃光。
 それは瞬く間に野太い光の柱となって世界を奔り、あらゆる障害を焼き尽くす。


 だが……

「無傷だと……!?」

 ありえない。手加減抜きのマスタースパークの直撃を、ミタ・メ・タコ集団は涼風の如く受け流したのだ。
 魔理沙が愕然としている間にもそいつらは先程の銃の様なものの部品交換を済ませ、再びそのサイトを魔理沙へと向けようとしている。

「つっ、クソッ!!」

 何がなんだか分からないが、状況は魔理沙にとってあまり良いとは言えないようだ。
 猫のような身のこなしでタコ達の第二斉射を躱した魔理沙は箒を手に取って、

「ちきしょうてめぇら、アイシャルリターンだ!! 覚えておけよ!!!」

 ドロワとキャミソールというあられのない姿のまま箒に跨って、先程マスパが壁にぶち開けた大穴から大空へと飛び立っていった。


  ◆


「こりゃあ、まずいな」

 天を仰いだ魔理沙は、早くも悲観の濁流に足元を攫われそうになった。

 鈍い微光を発しながら、ひっそりと浮かんでいるそれの総数は、恐らく百を下るまい。
 幻想郷の天を埋め尽くす、巨大なタコツボのような船団からは今もマル・デ・タコのような連中がトラクタービームの元、次々と地上へ降り立ってくるではないか。

「吸血鬼異変の再来か? だがいずれにせよ、まずは」

 神社の無事を確かめなければなるまい。
 敵は神社こそが最重要拠点だと知っているのか?
 彼女の親友は無事だろうか?
 あの、色々と鈍い友人は、火星人とやらの攻撃を凌ぎきる事ができたのだろうか?

「ああ、クソッ!!」

 何故マスパが効かなかったのか? マスパが通らない自分が向かって何かの役に立つのか?
 様々な思考の一切が纏まらないが、まずは知人と合流する事だ。分散したままの各個撃破は下策中の下策。
 集まって、対策を考えるのが優先。八卦炉に魔力を流し込んで、アフターバーナーを焚く。

「待ってろよ霊夢!!」

 時折上から降ってくるカナ・リ・タコっぽいそれらを俊敏な軌道で躱しつつ、一直線に神社を目指す。
 間に合えば、よいのだが……


  ◆   ◆   ◆


「魔理沙か……って、ついにあんた、女を捨てたわね」
「しゃーねーじゃんか!! クローゼットまでたどり着けなかったんだよ!!」

 普段と変わらぬ悪態をねじ込んでくる巫女の表情は、いつだって変わりがない。
 それを確認した魔理沙はホッと内心で溜息をついた。ふわりと霊夢の横、博麗神社境内に着地――

「あんた裸足でしょ? 雑巾用意するの面倒だからそのまま社務所に入ってよ」
「む、そうだった」
「私の服適当に着ていいから。ブン屋に見つかったら変態扱いよ、それ」
「あ、ああ。感謝する……」

 おどけて肩をすくめる霊夢には危機感の欠片もないようで、それが魔理沙にはどうにも引っ掛かるのだが……

――ま、まずは服を着る事が先決か。

 友人の無事が確認できたからだろうか?
 若干余裕を回復した魔理沙もまた、痴女から少女へと戻る事を優先する。
 ゆるりと社務所の縁側に着地すると、勝手知ったる自分の家の如くに和箪笥の中を物色し始めた。

「とりあえず服来たら朝ご飯にしましょ? 対策はそれからかしら」
「神社の守りは大丈夫なのか?」
「結界張ったからしばらくは大丈夫。ほら、ゆっくりしていると他の奴らが来るかもしれないわよ? ……って、早いわね」
「それと火力だけが取柄だからな」

 あっという間に霊夢の予備の――なぜか青い――巫女装束を着こなした魔理沙に苦笑すると、霊夢は雪駄を脱いで縁側から社務所へと上がり、台所へと向かっていく。
 ならば、と魔理沙は表座敷にちゃぶ台を広げ、座布団を用意した。
 なんにせよ、時間が稼げると言うなら腹ごしらえをしておくに越した事はない。


  ◆


「で、お前は今の状況を理解しているのか?」
「よく分からないけど、カセイジンが大量に湧いて出ているみたいね」

 味噌汁で米を流し込み、よく分からない煮物を咀嚼する。
 海老とチーズを足して二で割ったような味がするその煮物は、どうやら魔理沙にとって始めて口にするものであるようだ。

「で、どうやって対処するんだ?」
「どうやって……って、マスパでいいじゃない。あんたの場合」
「? 霊夢、お前あいつらを倒せるのか?」
「は? あんた、あんなのも倒せないの?」

 馬鹿にしたような、というよりも純粋に信じられないといった表情で返されて、魔理沙は返答に詰まった。

――どういうことだ? 熱耐性が異常に高いって事か?

「念のため聞くが、お前はあいつらをどうやって撃退したんだ?」
「どうやって、って適当に夢想封印叩き込んでおけば一網打尽に出来るけど……その様子じゃあんたは倒せないんだ」
「ああ。……さて、どういうことだ? いつの間にか私は異常に弱くなってたって訳か? いや、でも壁はぶち抜けたし……」

 成る程、霊夢が落ち着き払っていた理由だけは魔理沙にも理解できた。
 霊夢にとって火星人は取るに足らない下級妖怪程度の認識だったのだろう。
 確かに数こそ多いけれど、幻想郷の各拠点におわす怪物どもがてこずったりはしまい、と考えていわけだ。

 さりげなくおかわりしたご飯を掻き込みながら、魔理沙は首を捻った。

「もう少し、情報が欲し「巫女よ、異変であるぞ!!!」

 ……やってきたようだ、情報が。

「博麗神社へようこそだ、古代人」
「み、巫女が二人おるぞ? と、そんな事はどうでもよい。おぬしら、何を優雅に朝食なんぞいただいておるのだ!」

 乱暴に靴を脱ぎ捨てた物部布都は二人の元へと近づいてきて、バンとちゃぶ台を叩く。
 霊夢と魔理沙が先を見越して味噌汁と湯飲みを手にとっていなければ危うく大惨事である。

「朝ご飯抜いて良いことなんてないわよ。一日の活力は三食から、基本でしょうに。あんたもまだなら食べてく?」
「そんな事をしている暇はない!」
「まぁ私達は朝食を食べ終わるまで動く気はないがな。飯食わずに戦えるかってんだ」
「……では御相伴に預かろう」

 先程踏み込んできた勢いはどこへやら。布都は諦めたように首肯すると、ちゃぶ台へと腰を下ろす。
 それとは逆に霊夢が立ち上がって、新たに一人分の朝食を用意すべく台所へと消えていった。

「なあ」「おい」

 霊夢の姿が消えさった後、残された二人は同時に口を開く。
 互いに互いの顔を見やって浮かべた表情は、一人はいぶかしみ、もう一人は納得の様相である。

「ああ、理解したからお前の質問を先に聞こうか。と、言っても質問の内容は分かっているが」
「う、うむ? 太子様のような事を言うのだな」
「お前は分かり易すぎるんだよ……で、お前はあのタコを倒せなかったんだな」
「そ、そうなのだ。修行が足らないのかのぅ。とりあえず巫女に伝えるように太子様に言われてここにきたのだが」
「亡霊や神子はどうだったんだ?」
「太子様達も同じよ。里人に請われて勇んで飛び出してみれば、手も足も出ないとは……くちおしや」

 と、そこまで口にしてようやく布都も気がついたようだ。

「もしや、おぬしもか?」
「ああ。今のところあいつらを倒した実績があるのは霊夢だけか、っと」
「はい、お待たせ」

 霊夢が一人分の朝食を乗せたお盆を手に、再び表座敷へと戻ってきた。
 布都の前へと味噌汁と煮物、茶碗を配膳する。

「うむ、ご苦労である」
「で、やっぱりカセイジンの話?」

 味噌汁をぞぞぞっと啜って、布都は頷く。

「うむ。おぬしはあやつ等を倒せると言うのは本当か?」
「ふーん、あんたも倒せないんだ。と、すると私だけが倒せるって事なのかしら?」
「い、いや、それがな……」

 頬張った煮物と米を嚥下して、ちょっとだけ首を傾げる布都に魔理沙は怪訝そうな視線を向ける。

「他にもいるのか? 誰だ?」
「だれ、と言うかなんと言うか……」
「歯切れが悪いわね」
「……里人は、対抗できるようでな? その、何と言ったか、そう、銃じゃ。それを使えば手傷を負わせられるようなのだ」

 忸怩に身を焦がす布都をよそに、霊夢と魔理沙は顔を見合わせる。
 だが、さっぱり現状が理解できないといった魔理沙に対し、霊夢の表情には僅かながら納得したような色が浮かんでいるようだ。

「霊夢、なんか心当たりでもあるのか?」
「んー、心当たりって言うか、謂れかな、って」
「謂れ、とはなんじゃ?」
「要するに弱点だ。鬼が炒った豆に弱い、吸血鬼が流水に弱いっていう妖怪特有の弱点みたいなもんだよ。……でも、銃ねぇ」
「里人が持っている銃って猟銃でしょ? だから通りやすいのかなぁ、て思ったんだけど……何よ?」
「お前、言ってることおかしくないか? 何で猟銃が通りやすいのが納得なんだよ」

 霊夢の言うことを是とするならば、それは火星人がハントの対象であるということになる。
 そんな馬鹿な話があるか、と返そうとした魔理沙だったが、

「え? だって獲物じゃない。カセイジン」
「「はい?」」
「昔っから時々神社周辺には現れてたし。ま、こんな大量に湧いて出たのは初めてだけど、昔はよく狩ってたわね」
「な、なぁ」
「狩って……どうするのじゃ?」

 箸と茶碗を持つ魔理沙と布都の手がカタカタと震え出した。
 嫌な想像が頭をよぎる。出来れば想像であってほしい。ほしいのだが。



「無論、食べるに決まってるじゃない。美味しいでしょ? それ」
「「あああぁぁああああああああぁぁぁぁあああ!!!!!!!!!!」」



 悪い予感は当るものだ。

「ちょ、いきなりどうしたのよ!?」
「お前それ、カニバリズムじゃないか!」
「何よ、人を悪鬼羅刹みたいに。あんた達だって食べてるじゃない」
「知っておれば食わなんだわ!! なんというものを人に食わすのだ、おぬしは!!」

 ようやく魔理沙は霊夢の落ち着きの全てを理解した。
 平たく言えば、霊夢にとって今回の事態は猪や鹿が大繁殖しているのと大差がなかったのだ。
 成る程、気前良く霊夢が朝食を振舞ってくれるわけである。

「って言うかあんた達の言ってる事のほうがおかしいわ。あれのどこが人なのよ。どっからどう見たってタコの親戚じゃない」
「い、いや、そうかもしれんが……」
「確かにそうだが……大和言葉を喋っておるではないか……」
「あいつらと意思疎通なんて出来ないわよ?『我々は火星人だ』、以外の台詞聞いたことないもん」
「そう言われれば……」

 自宅での一部始終を魔理沙は思い出した。確かに定型文以外の台詞を魔理沙は耳にしていない。
 それでは、と布都に視線を向けてみると、どうやらあちらも似たようなものであるようだ。
 ついでに言えば魔理沙だって、最初はそれをタコとしか認識していなかったことが脳裏にカムバックする。

 改めて、恐る恐る火星人の煮物を口に運び、咀嚼、然る後に嚥下。
 海老とチーズを足して二で割ったような、味。
 不味くない、というか美味しい。

「悩ましい……」
「ま、待ておぬし、流されてはいかん。人食いはいかんぞ。人の道を外れておる!」
「いや、本当にあれが人かどうか、ちょっと気になってきてな」
「馬鹿なことを申すな! 人語を解すのだぞ? あれが人でなければ…………妖怪、なのか?」

 改めて寝坊助古代人は、ここが幻想郷であるということを思い出したようだ。
 かもしれん、と首をかしげる魔理沙に、しかし布都はなおも言いつのる。

「だが、妖怪だから食っていいというわけでもあるまいに……」
「そりゃそうだがよ。お前は獣と妖獣の線引きをどこでするんだ? 人語を解するようになったらか?」
「え? う、うーむ……」

 妖怪はびこる幻想郷では妖獣なんぞ珍しくもなんともない。野山に腐るほど溢れている。
 で、あれば妖怪になりかけの獣というのも珍しくもなんともないだろう。そしてそれを狩って食うのに、幻想郷の人間はいちいち区別したりはしない。

 人とかけ離れた姿を取っている奴らは人間にとって、狩れるならば肉、狩れぬならば妖怪だ。
 ゆえに、軽々とそれらを一掃できるという霊夢からすれば、それは最初から肉であるのだろう。
 外界とは根本的に異なる幻想郷理論に、まだ目覚めて日の浅い古代人は頭を抱えた。

「に、してもだ。猟銃が効くって事はやっぱり捕食対象としての謂れを持っているってことなのかなぁ」
「あら、それはちょっと違いますわ」


 言葉とともに、闇。
 空を引き裂いて現れ出でるは境目に潜む気味の悪い微笑みだ。


「遅い登場だな。幻想郷が占領されちまうぜ?」
「失礼。犯人を検挙していたら少し遅れてしまったみたいね」

 事もなげに呟いた少女に、三者ははっとして視線を注ぐ。

「犯人がいるの?」
「ええ、この事態を引き起こした犯人は捕まえました。もっとも、それだけでは解決には至らないのですが」
「おお! 流石は仙人、仕事が速いのう!」
「「「はい?」」」

 うんうんと頷いている馬鹿者に話の腰をへし折られた三者は思わず素っ頓狂な声を上げてしまう。

「えーっと、誰が仙人なのかしら?」
「隠さずとも良い。異空間から現れるその術、おぬしも仙人なのであろう?」
「違いますけど」
「ご謙遜なさるな。太子様に匹敵するほどのその余裕。さぞ高名な仙人と心得る」
(ほっとけ、紫。訂正する時間が惜しい)
(……私にも、弱点があったのね)

 知性のある馬鹿と言うのは、なんとも厄介なものである。
 話が通じなければ無視すればよいのだが、説明好きな紫にとってそれはどうやら悔しいものであるようだ。

「で、犯人っていうのは?」
「守矢と妖怪の山に応援を仰ぎました。もうしばらくしたら彼女達がこちらに到着しますので、その時にまとめて」
「へぇ。お前が他者に協力を取り付けるたぁ珍しいな」
「世の中向き不向きがある、ということですわ」
「ふーん。で、紫も食べる? カセイジン」
「……いいえ。わたしは遠慮しておきます」

 ゆかりんは、あれだ。シタン先生ポジジョンか。



  ◆   ◆   ◆



「はい、では皆さん揃ったようなのでこれから幻想郷奪還作戦を開始したいと思います」

 博麗神社境内にはせ参じたにとりに、早苗、そして姫海棠はたて。
 彼女らとなにやらごそごそとうち合わせした後に、紫はパチンと指を鳴らす。
 と、博麗神社参道の中央に、数m程のホログラムが浮かび上がる。

「お、立体映像だな。これは……幻想郷の地図か」
「ええ。現在幻想郷の70%程が火星人によって制圧されました。赤く塗りつぶされている所が制圧された箇所ね」
「むぅ、凄い技術であるのぅ。我もいずれこれ位出来るようになるのであろうか……」
「無事なのは……天界、冥界、うちに妖怪の山と……妖怪獣道?」
「最後の一つがよく分からんな。何故に妖怪獣道なんだ?」
「それはまず現状を見てもらったほうがいいわね。ちょっと説明が大変なのよ。現地と映像を繋ぐわね……はたてさん」

 首をかしげる霊夢と魔理沙、布都を前に、ホログラムの映像が切り替わる。

「あー、もしもし? 文? 聞こえてるー? 今スイッチ入ったわよー」

 同時にはたてがカメラを取り出して、それに向かっていきなり喋り始めた。

「もしもーし、ちゃんと聞こえてる? 聞こえてんなら返事しろババア!」
『はいこちらスペース幻想の伝統ブン屋。ちゃんと聞こえてるわよ若造!』

 と、文の声が響くと同時に、ホログラムに天界の様子が映し出された……のだが。

「な、なんですかこれは……」

 言葉を失った早苗が、押し黙る。
 はてさて、そこに映し出された光景は、マスゲームとでもいえばいいのだろうか?

『あ、それだとどっかの嫌な国を思い浮かべちゃうんで表現変えてください』

 ゴホン。
 そこに映し出された光景は、タイヤヒラメダンスとでもいえばいいのだろうか?
 天人も天上の妖怪も火星人も、誰もが、

――カッカッ、カカッカッ、カカカカカッ!!

 足並みそろえて大地を踏み鳴らし、ダンスを披露している。
 そしてそれら全員を従えて舞い進むのは。

『ライ、チュー! レフ、チュー! アップ、チュー!』
『ライ、チュー! レフ、チュー! アップ、チュー!』

『レフ、チュー! ライ、チュー! アップ、チュー!』
『レフ、チュー! ライ、チュー! アップ、チュー!』

――カッカッ、ッカッ、ッカッカカッ!!


 はてさて、これはどういうことだろうか?
 先頭に立つ彼女が華麗な舞を披露するたびに、


『ライライライレフレフレフアップアップアップ、チュー!』
『ライライライレフレフレフアップアップアップ、チュー!』


 火星人達がまるで彼女の軍門に下るかのように、彼女の後ろに回って。
 彼女の舞の一部となる。


『あらかたやっつけましたー!』

――チャチャチャチャー、チャッチャッチャ、チャチャチャチャー、チャッチャッチャ、
――パーララーーラララ、『ヒューーーーー!』

 そんな彼女こそが、

『チャンネルは、そのまま』

『ウヒョー高視聴率! 今の良かったぞ衣玖』
『イェーイ私達の給料上がりますかね?』


 ……我らが、永江衣玖である。


「結論その一。宇宙人はダンスに弱い」
「……なんだそりゃ」

 紫の言に、魔理沙がホトホト呆れ果てたような深い溜息を返す。
 マスパで倒せない奴がダンスで倒せるとか一体何の冗談だ。

「ちなみに永江衣玖に指示を出しているのは我らが龍神様ね」
「ありえねぇえええええ!! 軽いな幻想郷最高神様よ!!!」

 いや、だが龍神の加護ともなれば先程の異様な光景も説明がつく、

「わけねぇっつの」

 いいじゃん別に。エイプリルフールなんだからさぁ。

「じゃ、次ね。妖怪獣道。はたてさん?」
「はいよー。文、準備できた?」
『はいこちらスペース幻想の伝統ブン屋。スタンバイオッケー!』
「ちょっと待て、お前さっき天界にいただろうが!! どうしてそこにいるんだよ!」
『んー、これが鴉天狗のトップスピードってやつ?』

 いくらなんでも早すぎだろう?
 鴉天狗がいくら早いっていったって、ご都合主義過ぎやしないだろうか?

「実際は私がスキマで運んだんですが」
『あやや、紫さん。ネタバレは無しでお願いしますよ』
「そんな事より、中継お願いいたしますわ」
『ええ、そろそろ次の曲ですね』


  ◆


『みんな!! 抱きしめて!! 銀河の!! 果てまで!!!』
『ウォオオオオオオオオオォォ!!!!』

「な、何事だ?」
『ご存じ、ないのですか!? 彼女こそ新たなパートナーを得て、スターの座を駆け上がっている』


――貴方は既に知っているでしょう? 永遠の生を得る術を
――雷迅の早さで生きる その瞬きの中にそれがあるのだと

――錆びたナイフが 貴女の手の中でその時を待っている
――項垂れていては いつか貴女は己が魂を切り裂いてしまう

――『SATORI』はその目の中をゆらゆらと漂っているの
――魂だけが開く事ができる その扉の向こう側に

――私達は既に知っているでしょう? 永遠の生を得る術を
――古く懐かしき月の光 その瞬きの中にそれがあるのだと

――流れ行く情報の空に飛び込んで ハイになりましょう
――流れ行く情報の空に飛び込んで 自由を取り戻しましょう

――飛び立ちましょう 宇宙へ!!


『ヤック!! デカルチャー!!!!』


『超夜盲シンデレラ☆みすちーちゃんです!』
「いや、その歌ラ○カじゃなくてシャ○ンじゃん」
『知ってんなら聞かないで下さいよ。真面目にお約束返した私が馬鹿みたいじゃないですか』

 項垂れる文の背後では、火星人たちが暴れることなく鳥獣伎楽のライブに熱狂している。
 いや、ある意味それは暴れているとも言うが。

「結論その二。宇宙人は歌に弱い」
「……なんだそりゃ」

 紫の言に、魔理沙がホトホト呆れ果てたような深い溜息を返す。
 マスパで倒せない奴が歌で倒せるとか一体何の冗談だ。

「こっちまで龍神様の加護とか言い出すんじゃないだろうな」
「いえ、多分こっちは何としてもみすちーを出したいという作者愛じゃないかしら」
「ひでーなそれ、最強のバフじゃないか」

 えこひいき、それは世界最強の力だ。
 いかな魔理沙の努力をもってしてもそれを覆すことなどできはしない。

「この世は無常だなぁ。で、次は冥界か?」
「いいえ、冥界は省略します。だって聞かなくたって分かるでしょう?」

 火星人は食べられる。それだけでもう説得力は十分だが……

「いや、作者愛補正があるなら出てくるのかなー、って」
「ぜひとも出したいところではあるんだけど、出しちゃうとそこでお話が終わっちゃうの。あの子強すぎるのよ。涙を飲んでいるの」
「さよか」

 もう好きにしてくれ。

「じゃ、次は妖怪の山か」
「あ、それも面倒なんで省略」
「なぁ、歌詞を必死こいて考えてる暇あったら、そこを何とかすべきじゃないか?」
「愛補正よ」
「そうかよ。で、妖怪の山はどうやって火星人の襲来を防いでいるんだ?」

 と、魔理沙達の背後で今か今かと待ち構えていた早苗が勢いよく立ち上がる。

「あ、ようやく出番ですか。待ちくたびれましたよ」
「ああ、実は純粋な科学兵器は普通に通るみたいでね」
「ちょ、にとりさん!! 私達の出番を一言で沈めないで下さい」
「いやー、巻いていかないと終わらないかなぁって」

 憤慨する早苗はさておき、成る程。
 里人が銃で火星人に抵抗できたのはそういう意味であったようだ。

「要するに宇宙人には能力が通らないってことか?」
「ええ、平たく言えばそういうことです。宇宙人はSFの産物。ゆえに通るのは科学的な下地に基づいた攻撃のみ。それが宇宙人の『謂れ』ね」
「ふーん……あれ? じゃあ、私の夢想封印はどうして効果があるの?」
「貴女、自分が使っている術の意味ぐらい知っておきなさいな……」

 こいつ歴代で最もいいかげんな巫女だわ、と紫は軽く目眩を起こす。

「貴女達博麗の巫女は管理者として、いかなる妖怪妖魔にも立ち向かわなければいけない義務があります。自覚していますか?」
「まー、程ほどには」
「貴女達がその義務を遂行できるように賢者達が知恵を捻りに捻って考案したのが夢想封印よ。あらゆる妖怪を『謂れ』すら無視して力ずくで封印できる術。巫女の切り札」
「ん? じゃあ鬼や吸血鬼にも効くのか?」

 そんな魔理沙の疑問に紫は勿論、と頷いてみせる。

「もっともあいつらのバイタリティは異常だから、正面決戦を挑んでもそうは体力妖気を削りきれないでしょうけどね」
「むむ、格式ある物部の術すら差し置いて、なんかずるいのぅ」
「術式も年々進化しています。いつまでも過去の術式だけで通ると思ったら大間違いですわ、物部臣? 努力なさいませ」
「くっ……見ておるがよい。いつかこの物部が幻想郷を席巻してくれようぞ!」
「あーガンバレー。で、紫よ。こっからどう巻き返すんだ? まさか私達にバラ弾とヤッパ持ってガンホーしろってのか?」
「まさか。そんなのは余りにも『少女的』ではありませんもの。もっとも、最終的には火力が必要でしょうが」

 パチン、と紫は顔を覆うように広げていた扇を綴じる。
 と、同時に空間に亀裂が走り、その亀裂からポイポイと人影が放り出されてきた。

 飛び出してきたのは余りにも特徴的な二人。

 一人はなにやら鎌というべきか、槍というべきか分からない3対の翼骨を生やした少女。
 一人は幻想郷には場違いな研究者向けの白衣と、幻想郷では珍しい眼鏡をかけた少女。
 そのどちらもが、お縄を頂戴して身動きが取れない状態のまま、神社の石畳へと落下する。

「ぬえに、理香子か? 何だってお前らが!?」
「妙な面子ね。紫、こいつらが犯人?」
「ええ、そう。もっとも、本人達はそのつもりはなかったんでしょうが」
「ちょ! 分かってんならほどいてよ!」
「やれやれ、まさかこんな事になるとはね」

 ぬえは往生際も悪く、理香子は諦めたように頭を振る。
 どこまでも対照的な二人であるが、はて?

「さて、エイプリルフールといえば宇宙人ですが」
「エイプリルフール?」
「外の世界で言う、卯月の一日。つまり今日ですね。そしてこの日は宇宙人についての噂話が溢れる日でもあります」
「へぇ。外の世界における宇宙記念日みたいなもん?」
「……色々と違うのですが説明は割愛します。そしてこれ」

 そう紫が呟くと、先程までのスクリーンに骨組みだけの鉄塔のようなものが映し出される。
 と、同時にぐるぐる巻きの二人がびくりと身を強張らせた。

「テレパスタワー、と貴女達は言っていたかしら? こんなものを建設してくれた目的は?」
「……別に。UFOらしく宇宙と交信しようって、そう思っただけよ! 何が悪いってーのよ!」
「未知との遭遇は科学者の夢。それ以上も以下もないわよ。まさか火星人が引っ掛かるとは思いもしなかったけど」

 そんな両者の回答に、紫は深々と溜息をついた。

「まあ、不可抗力であることは認めましょう。ですがあれが火星人を呼び寄せる元凶となっているのは事実。破壊させていただきます」

 そんな紫の発言に、ぬえの表情がさっと青ざめる。

「ちょっと! 幻想郷は全てを受け入れるんでしょうに! 話と違うじゃない!」
「勿論、幻想郷は全てを受け入れますわ。私の破壊活動も、ね」
「うっわーサギくせー。それって一番強いやつヒャッハーてことじゃん。幻想郷内では最強に近いゆかりんマジセコい」
「胡散臭いといってくださるかしら?」
「どっちにしろ、褒め言葉じゃないわね」

 理香子の呟きに満場一致で頷きを返す。
 が、そんな頷きすらも紫は鋼鉄の意志で以って弾き返した。

「さて、今回の異変は外界での宇宙人に関する嘘を幻想郷内に設置された、宇宙とベントラするための装置が受信してしまったことが原因です。なのでまずはこの毒電波受信装置を破壊します」
「コマンダー、質問だ」
「何ですか?ブルー1」
「話を聞く限りでは、今日しかその宇宙人が溢れる日はないんだろう? なら今日一日をやり過ごせばそのテレパスタワーとやらを破壊しなくてもすむんじゃないのか?」
「そ、そうとも、魔理沙の言うとおりじゃんか!」

 思わぬ魔理沙の助太刀に、ぬえがここぞとばかりに抗議を重ねる。
 だが、紫は空の彼方を扇で指し示して、

「08:35現在、幻想郷には毎分6000体ペースで火星人が舞い降りてきているわ。それらの大半は妖怪の山を進攻中です」
「そういえば里への襲来は割と散発的であったな。……奴等は、その、カガク的価値のあるところを攻めている、ということでよいのか? 紫殿」
「正解。あと半日もあれば火星人達は、河童の工房を乗っ取って更なる力を身につけるでしょう。そうなったらテーザーガン程度ではすまなくなるわ。討伐は早ければ早いほど良いでしょうに」
「まーねー。面倒な事になる前に片付けたいわ」
「いやもうちょい反論頑張ろうよ!」
「あー別に私達がお前を擁護しなきゃならん理由はないし。そもそもお前達のせいで赤っ恥かくところだったんだ。ちっとは反省しろ」

 起床後の顛末を思い出した魔理沙は青い巫女装束を摘まみながら、ジロリと簀巻きにされた二人を睨む。

「で、紫よ。我々はどうやって火星人の群れを処理しつつ、その電波塔を破壊するんだ? ……その、科学的に」
「そのための装備を八坂に依頼しておいたのだけど……東風谷早苗?」
「ご心配なく。準備は万端ですよ! では皆さん、こちらをどうぞ!」
「作成したのは私なんだけどねぇ。何でそんな我が物顔なんだか……」

 苦笑するにとりをよそに、早苗はにとりのリュックをガサゴソと漁ると、中からヘッドセットと拳銃のようなものを誇らしげに取り出してみせた。

「エーこちらのヘッドセットを着用するとですね。なんと! 驚く事に!」
「龍神様の声が聞こえるようになるんだよ。で、あとはこっちのスペース光線銃を持って、チューときいたら『×』ボタンビームで火星人を退散させられる」
「だからにとりさん!」
「巻いてくって言ったじゃん。で、タワーに着いたらこっちのミサイルマイト作動させてくれればいいから」
「ほうほう、これがカガク的というやつか。すごいものであるな……」

 誰もがカガク的空間に喝采を浴びせる中、一人朝倉理香子だけは憤怒の表情で、

「とりあえず一言だけ言わせてもらうけど、てめえら科学嘗めんなよ」
「背中にロケット積んでギアをギリギリ言わせるバロンゴーリィが言っても説得力がないがな」

 違いない。
 ロケット背中に空を飛ぶものが科学であるものか。

「さて、英雄諸君。装備は行き渡ったかしら?」
「一応ね」とどうでもよさそうに霊夢。
「ま、早めに片付けちまおうぜ」と魔理沙。
「さあ大暴れしますよ!」と気勢を上げるのは早苗。
「いやはや、おかしな世の中になったものだのう」なんて困惑するのは布都。

「では諸君。幻想郷中に建設されたテレパスタワーは全16基。可及的速やかに破壊せよ。各員の健闘を祈る! グッドラック!」
「あんたも「お前も「紫さんも「おぬしも「「「「来い!!」」」」
「あら、いやん」



  ◆   ◆   ◆



「これで最後である!5,4,3,2,1、爆破!!!」

 物部布都の前で、最後に残ったテレパスタワー0号機が金切り声を上げて崩れていく。


 戦いは終わった。


 空を見上げれば夕日。
 百機ほどで空を埋め尽くしていたタコツボ――エゼキエル級戦闘艦も今や龍神様のドラゴニックガンブラスターの前に藻屑と消えた。
 それに巻き込まれた七曜式戦略制圧残酷図書館スター○チュリーMk-IIも今、布都の目の前で撃沈して妖怪の山へと落下していったが、まあ誤差の範疇だ。

「のう、紫殿よ」
「何かしら新入りさん?」

 結局、一番幻想郷暦が浅い新参のサポートに回ったスキマ妖怪に、布都は複雑な目線を向ける。

「幻想郷、大いに傷ついてしまったな」
「そうですわね」

 妖怪の山は今まさに七曜式戦略制圧残酷図書館の爆発で変形し、守矢神社も今、蒸発した。
 紅魔館は七曜式戦略制圧残酷図書館の発進で崩壊したし、魔理沙の家も七曜式戦略制圧残酷図書館の誤射で吹っ飛んだ。

 勝つには勝った。
 だが余りにもそのために払った犠牲は大きかった。

「明日から、どうなってしまうのだろうか……」
「そうね、多分」


 つい、と顎に扇を当てて、少しだけ考え込んでから、


「多分、食卓のメニューが新たに一つ追加されるだけでしょうね。それ以外は昨日と変わらない毎日になるでしょう。だって……」

 紫はたおやかに笑う。

「エイプリルフールですもの。明日になれば何もかも元通りよ」




――For all people who hope for peace in the universe.



拝啓

天国……いや多分地獄にいるであろう守屋兄上、それに我が夫、馬子殿。いかがお過ごしであろうか?
布都めは元気にやっておりますと言いたいところではありますが、正直この先幻想郷で上手くやっていけるかちょっと心配であります。
白衣
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コメント



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1.274636指導員削除
これは酷いww