Coolier - SS得点診断テスト

キャス狐は良妻かわいい

2013/04/01 23:35:52
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※ちょっぴりFate/EXTRA CCCネタバレだよ!


「ふぅ……これでひとまず5週目ね。さて次はどうしようかしら」

 今は藍も出かけて独りっきりになった紫は、自室で手に持ったPSPを持ってニヤニヤと、普段の彼女からは考えられないほど緩みきった顔をしていた。

「そろそろ他のサーヴァント選んでもいいけどまた彼女を選んでしまったわね。今度はザビ子ともども水着で裏側を制覇しようかしら。クローゼットから着替えて……っと、そろそろトイレの我慢も限界ね」

 電源をそのままにPSPをその場に置いて、紫は数時間ぶりに部屋から出て行った。
 そして襖を締め切って、廊下を歩いていった直後、部屋の畳の一つがガタガタと揺れ、下からくぐもった声が届いてきた。

「もー、紫ったらここのところ姿を見せないしどうしちゃったのよ。まぁそっちがこないならこっちから喧嘩売りに行くだけだけどね! とうとう極秘裏に製作した、紫の部屋直通トンネルを使う日が来たわ! というかこの畳、中々上がらなっ……この!」

 下から飛び出した要石が、畳を引き千切られたゴミクズへと変換して道を開ける。
 モクモクと煙が舞う中、「とう!」と威勢よく畳の下に掘られたあなぐらから、蒼い髪の少女が飛び出してきた。

「天子ちゃんインしたお! ……って、あれ紫いないのー?」

 天子が部屋を見渡すがあるのは畳だったものの残骸のみ。
 しかしそこに残った気質の気配は、先ほどまで紫がここにいたことを示していた。

「んー、引きこもってると思ってやってきたけど、出かけたのかしら? 入れ違いかな、ここのところ顔見せてくれなくて寂し……じゃなくて、変な企みでもしてないか見に来たけど、ってあれ、これなに?」

 足元に転がった物体に気が付いた天子は、上に積もったゴミを払いのけてそれを手にとった。

「おっほ、これゲームじゃないの!? 紫のやつこんなの独占しちゃって悪いやつね。よーし、どんなのか見てやりましょっと!」

 手に入れた外界の携帯機に興味津々な天子は、まだ見ぬゲームに目を光らせて○ボタンを押し込んだ。

『そんなところ見ちゃイヤです。は、恥かしいじゃないですか……。あん……、やめてください。そんなに見られたら、恥かしくて、私、もう……』

 光る画面の内側には、明らかに布地が小さいマイクロビキニを着て、媚びる狐っ娘が映っていた

『……ふふふ、どうやら効いたようですね。名付けて「ドキ☆夏の海辺で見た君の意外なギャップに胸キュン」作戦! 』
「……………………」

 ポロリと胸の変わりに地が出てる駄狐を、天子は死んだ魚のような目で見つめていた。
 その背後で、襖が開いてこの部屋の主が我慢していたものを開放したように、清清しい顔をして戻ってきた。

「ふぅ、出す物を出してこれでスッキリしたし、キャス狐とラブラブ新婚旅行デートを――」

 紫が目を見開いて固まる。
 その目が凝視しているのは、部屋の惨状にも何故かいる天子でもなく、天子が手に持っているPSP。

「……………………」
「……えーと、天子、それは…………」
『カモン! ピンクの天幕! さあご主人様、幕の裏で私とめくるめく愛の劇場を―――て痛あっ!?』
「きゃあああああああああ!?」

 乙女の秘密を知られて、紫の悲鳴がこだました。





説明しようキャス狐とは!

 PSPソフトFate/EXTRA及びFate/EXTRA CCCに登場する、主人公のサーヴァントの一人。

 最弱の大器晩成型サーヴァントにして、ユーザーが選ぶ使えない宝具No.1を所有する、良妻賢母INRANピンク駄狐シリアスブレイカー主力は防御スキルヤンデレ系フォックスのまほ箱人気投票女性部門3位キャラである!

 こんなに真剣に嫁に欲しいキャラは生まれて初めてです。





「……で、ここのとこあんたが顔見せずに引きこもってた理由は、このゲームってわけ?」
「えぇ、ひとまず女主人公で鯖エンドを見た後、キャス狐とトゥルーエンドをこなして、男主人公で同じように二週した後、今は五週目を開始したところよ」

 紫が発狂してから少し後、落ち着いた二人は散らかった紫の部屋から居間に移り、机を挟んで対峙していた。

「うん、そのキャス狐に執着してるってことはよーくわかった。っていうかいきなり大体同じ話を4週とか飽きるでしょ普通」
「飽きるわけないでしょ! だってキャス狐なのよ!?」
「お、おう……」

 机を叩いていつになく熱く語る紫に、思わず天子は身を引いてしまう。
 妖怪の賢者をここまでさせる、傾国の美女(二次元)恐るべしである。

「ふっ、今の私を見て引いているでしょう」
「そりゃまあね」
「でも仕方ないのよ。キャス狐はかわいいし、一歩引いて旦那様を立てるし、言いたいことは言っても最終的にはご主人様の答えに従うし、マスターのことを理解しようと頑張ってくれるし。前作でも敵を助けるなんて自分じゃ絶対しないようなことでも、ご主人様の性格を察して進言してくるその気遣い精神……!」
「だが腹黒」
「だがそれがいい」
「もう駄目だこの管理人……」

 破滅、幻想郷の未来は決した。

「シリアスブレイカーで時間軸とか因果律とか整合性とか無視するおちゃらけ具合、なのに旦那様の事となると真剣で一途で健気なところが最高なのよ。あぁ、割烹着着たキャス狐にあ~んされたいわ」
「本物の狐が泣いてるわよ。具体的に言うと九尾の式とか」
「あら、藍のことも好きよ。お世話してくれるし」

「……ちなみに幽々子は?」
「好きよー、甘やかしてくれるし」

「じゃあ萃香は?」
「いつもはキツイこと言ったりするけど、お酒をあげれば優しくしてくれるから好き」

「霊夢は?」
「異変解決して楽にさせてくれるから好き」
「結局自堕落なだけじゃないのあんた!?」

 グータラ妖怪ここに極まり。

「そしてキャス狐はその四人のいいところを合わせたような、まさに夢のようなキャラなのよ!」
「だが二次元」
「この際二次元でもいいわ」
「しっかりしなさいよ! どんなに魅力的に映っても、所詮触れ合えない相手なのよ!?」
「最悪、境界を操って画面の中で入れば……」
「正気に戻れー!!?」

 画面を見入って虚ろな表情になり始める紫を、天子は必死に肩を揺さぶって引き止めた。
 あかん。このままじゃ、真面目に幻想郷の将来が危うい。
 それに、キャス狐とやらに入れ込んだままで放っておかれるのは、その、ちょっとだけイヤだ。

「いい加減にしなさいよ、現実にだってそいつに負けないくらい魅力的なやつは絶対にいるわよ!」
「じゃあ証明してみてちょうだい」
「へっ?」
「キャス狐みたいに、毎朝主人より二時間早く起床してご飯作って、主人を立てて、主人のために日夜努力して、それでいて面白おかしいかわいい子がいるって証明してみせて。あとついでにヤンデレ成分あり」
「お、おぉ……?」

 紫から言われたような性格を持つ者を、脳内で検索してみる。

 ……うん、自己中心的なやつらが9割の幻想郷で、そんなちょっとだけ傷の付いたパーフェクトジオングみたいなやつがいるはずねぇ。

「いるのかしら? いないわよねぇ。幻想郷中を見てる私だって知らないもの」
「そ、それはその……」
「無理しなくてもいいわ。私はキャス狐ときゃっきゃうふふ出来ればそれで満足だもの。さて、それじゃあゲームに戻らせてもらうわ」
『さてさて……一つ凛々しいところを見せて、ラブ力上昇といきましょう』
「ぐぬぬ……っ」

 たかが平面の存在に過ぎない、ひたすらあざとい腹黒狐にいいようにされてると思うと腹が立つ。

「……わかったわ、なら」
「?」
「私が代わりになってやろうじゃない!」
「はぁ?」

 紫のうろんげな視線が天子に投げられる。

「あなたが?」
「そうよ、考えてみれば簡単なことよ。そんな作り物の存在が私より優れるはずないんだからね」
「ほぅ、面白そうじゃない」

 ようやく現実に興味を示したか、紫は目を細めるとPSPをスリープ状態にしてしまいこんだ。

「期待はしていないけれど、そこまで言うのなら確かめさせてもらいましょうか」
「まずは手始めに、料理がどれだけできるか見せてあげようじゃない」
「その前に、二時間前に起きてが抜けているわ。あなたにそれができる?」
「……紫っていつも何時に起きてる?」
「だいたい11時くらいね」
「台所借りるわよー」

 完全に駄目妖怪発言する紫をスルーして、天子はいざ戦いの場へと臨んだ。



 ◇ ◆ ◇



 そして天子が台所へ駆け込んでからきっかり二時間後。
 天子曰く、キャス狐に負けない料理というものを出されたのだが。

「……天子、これは何かしら」
「味噌汁よ」

 紫が指で指した器には、光が反射し真っ赤な光を放つ味噌汁があった。
 確か藍から聞いた話によると、赤味噌は切らしていたはずなのだが。そもそも色彩が赤味噌としても明るすぎる。

「こっちは何かしら」
「卵焼きよ」

 おかしい、紫の知っている卵焼きは本来ふっくらとした黄色だったはずだ。
 だが目の前の卵焼きは、まるでニス塗りでもしたかのように艶々とした光沢を携え、血のような紅色をしていた。

「これは」
「ご飯よ」

 ご飯と気質を間違って器に盛ったんじゃないかというくらい、緋色に輝いていた。

「………………」
「はい、あ~ん」

 天子が卵焼きを箸で持って紫に差し出してくる。
 太陽のような笑顔が一瞬キャス狐と重なるその光景も、箸に持たれた紅い物体Xのせいでこれが理想には程遠いものだと知らしめてくれる。
 しかしだ、一応は作ってくれたものをこのまま突っ返すのも悪い気がするし、見た目が悪いからと言って味まで悪いとは限らない。

「あ、あ~……ん」

 意を決して、Xを口に含む。



 瞬間、脳髄に直接飛び蹴りを食らったような衝撃に見舞われた。



 ◇ ◆ ◇



「あっちゃー、駄目だったか」
「どこをどうやればあれでいけると思ったのか、今すぐ説明してもらいたいところね!?」

 あれから10分後、品詞の状態から復帰した紫は、烈火のごとく天子に食って掛かった。

「いやね、私も料理初めてだったから、あれで精一杯で」
「で、味見は?」
「え~と、してない……ごめんなさい」

 流石に弁解は無理と感じたか、気まずそうな顔を下天子は素直に謝罪した。

「まったく、無理なら無理で最初に言いなさいな。昼寝している死神の姿が見えたわ」
「その、あそこまで啖呵切った以上引き下がれなくて」
「とにかく一手目から大失敗ね。やはり現実にキャス狐のような子は……」
「わー! わー! 料理の方は今はまだ無理でも、練習してまた今度つくりに来るからさ、ねっ!?」
「……はぁ、わかったわ。これについては保留にしておくわ」

 大失敗したものの、とりあえずは天子はふぅと息を吐く。

「じゃあ次は、主人を立てるだっけ?」
「そう。ただ盲目的に従うだけでなく、主人がどんな性格なのかを理解し、察せられるようになることが重要よ」
「なるほどね、そういうことは任せといてよ」

 紫の話を聞いた天子は一歩下がって正座になると、今までのような軽い雰囲気が消え失せ、凛と澄ました空気を漂わせ緩やかな動作で頭を下げた。

「ごきげんよう紫様。いつもお勤めご苦労様です。して今日の予定はなんでございましょうか」

 このセリフを聞いたとたん、紫の体に電撃が奔った。
 気がつくと紫は天子を正面に周り、混信の力で。


    _, ,_  パーン!
 ( ゜д゜)      ←紫
  ⊂彡☆))Д´)  ←天子

    _, ,_  
 (;゜д゜)      ←言ったとおりにやってくれたのに何で手が出たかわからない紫
     (´;ω;)  ←紫の言ったとおりにやっただけなのにいきなりパーンされて涙目の天子


「……なんでぶったの」
「その、違和感が酷くて……」

 ジワリと涙が溢れ出した天子を見て、紫は珍しく内心焦りだす。

「頑張ったのに……」
「いや、なんでか手が出ちゃってけど、今のは合格にしてあげるわねっ」
「うぅ、本当……?」
「本当よ、ベリーグッド! あのままやってくれてれば間違いなく合格だったわ。ほ、ほら元気出して!」
「うん……」

 紫に励まされて鼻をすすった天子は、溜まった涙を腕で拭うとすぐにまたいつものような明るいまなざしを取り戻し、無い胸を張った。

「これぐらい当然よね! 天界で何百年と行き続けた私が、礼儀正しく相手を立てるなんてことできないわけないもの!」
「そうよねぇ……本当にすごいわあなた……」

 半泣き状態から一瞬でここまで自分を立て直す天子に、思わず紫も感心してしまう。
 空元気でも、すぐにああ言い張れるのは割と真面目にすごい。

「それで次はなによ?」
「主人のために日夜努力と言ったけど、それはこの場で現せるものでもないし……面白おかしいかわいい子、かしらね」
「なーんだ、そんなのここでアピールする必要もないじゃない」
「うーん、でもねぇ」
「えっ、まだ文句あるの?」

 退屈だからと異変を起こした天子に、こと面白おかしいという点においては幻想郷中でも五本の指に入るだろう。
 しかしそれでも紫は納得しないのか、うなり声を上げる。

「どうせなら色違いの七人に分裂したあとで、幻想郷を七等分してそれぞれ主義主張、フェチズムと弱点属性・有利属性の違う独立国家を成形するくらい……」
「おっ、それやっていいの!?」
「あ、駄目。絶対駄目。あなたもう今のままで十分だから、やったら埋めるからやめなさい」
「なんだ、ちぇっ」

 あっぶないつい口が滑ったと、すぐさま紫は天子を止めた。

「それじゃあ後はヤンデレだけだっけ? 何だ、楽勝じゃないのキャス狐なんか」
「よく言うわ、最初にアレだけ失敗しておいて」
「うぐ、それはまた今度挽回するから……とにかくヤンデレでしょ、簡単よそんなの!」
「また大見得切ったわねぇ」

「まずヤンデレって言うのは、独占願望が行き過ぎてなるものでしょ。つまるところ紫を独占するように動けばいいのよ」
「あら、じゃあ例えば、私を独占するにあたってあなたはどう動くのかしら?」

「まず計画は長期にわたって実行するわ。最初に狙うのは橙よ。紫に近いけど同時に離しやすく、ここをクリアすれば藍も引き剥がしやすくなる」
「ほう」
「そこで、橙が猫達と澄んでるマヨヒガをリフォームするわ!」
「……は?」

「砂の遊び場、猫が楽しめる遊戯を置いて、家も猫が住みやすいように作り直す。橙がそこから離れたくないと思うくらい完璧なものを立てるのよ」
「そ、そう……」

 色々な意味で斜め上の発想を爛々と目を輝かせ語る天子に、紫は思わず返す言葉を失う。

「次は藍よ。この家のあらゆる家事を私が全部請け負うようにすればいいのよ。そうすればここにいる理由を失って藍は橙のところに移るわ」
「…………」
「それでねそれでね、紫がやってる仕事も全部私がやるようにすればいいのよ! そうすれば紫が出る幕がなくなって引きこもるようになり、結果的に私が独占できるようになるって寸法よ! どうかしら!?」
「……大変よくできました」
「わーい!」

 もはやヤンデレじゃないけどかわいければどうでもいいや。
 紫は嬉しそうにはしゃぐ天子を見て、ついその頭を優しく撫でた。

「よっし、これでほぼ私の完全勝利ね! 見たかキャス狐とやら、私が平面の存在に負けるわけないのよ!」
「あらそう……で、誰がこれで終わりかといったかしら?」
「……なん……だと……?」

 予想外の発言に、ガッツポーズを取っていた天子は恐れるように紫に振り返った。
 紫はそんな天子を見て、扇子を開いて口元を隠すと、獲物を狙う猛獣のような視線を送り返した。

「毎朝主人より二時間早く起床してご飯作って、主人を立てて、主人のために日夜努力して、それでいて面白おかしいかわいい子がいるって証明してみせて、あとついでにヤンデレ成分がある。それだけの存在がキャス狐だと誰が言ったのかしら?」
「えっ、それだけじゃないの。それで属性十分すぎるでしょ」
「こんなものは表面的なものでしかないわ。もっとキャス狐の奥深く、大事な部分、ズバリ『良妻賢母』よ!!」

 音を立てて閉じた扇子を、紫は天子へ突きつけた。

「良妻賢母……そう、それこそがキャス狐がキャス狐たる核の部分。ただ表面的な要素のいくつかに勝っただけでは、キャス狐に勝ったとは言い難いわ。まだまだあなたがやるべきことは沢山ある。掃除、洗濯、マッサージ、夜は主人のために布団を暖める!」
「いや、何か行きすぎじゃない?」
「そんなことはないわ、キャス狐ならやってくれるはず!」
「いくら幻想の存在だからって期待しすぎだからそれ!」

「とにもかくにも、この程度でキャス狐より上だなんて片腹痛いわ!」
「この……わかったわよ、こうなったら何でもやってやるわよー!!」





 ◇ ◆ ◇



「キャス狐には勝てなかったよ……」

 あの後、天子は紫の出した難題に、片っ端から挑戦していった。

 まずは冒頭で破壊した畳の掃除から始まり、溜まっていた洗濯物の処理、紫の身体のマッサージ。
 しかし掃除をすれば襖に穴を開け、洗濯すれば服を破り、マッサージをすれば押しちゃいけないつぼを押して、「うわらば!」という悲鳴と共に紫が軽く死に掛けたりした。

 他にも耳かきしたり、髪を梳いたり、お風呂で背中を流したりしたが、先の失敗から精神的に追い詰められたか簡単なものまでことごとく失敗。
 結局、キャス狐に勝つことには出来なかったわ。

「まぁ、こうなると思っていたわ」
『もう! ご主人様のイケメン!』

 気が付いたら紫も再びPSPの電源を入れ、キャス狐とのきゃっきゃうふふに戻っていた。
 それを見て、ぐぅと天子は思わず悔しさに歯噛みする。

「……ふ、ふふふ、そうね、所詮私は数百年天界にいただけのお嬢様。花嫁修業なんてしたことなく、良妻なんてものじゃないのは認めるわ」
「あら、案外潔い」
「けどねぇ! これで終わりじゃないわよ紫!」

 落ち込んでいたはずの天子が再び立つ。
 悔しさをばねにして、いつものように威勢よく言い放った。

「今日はこれで終わりでも、次に会ったときの私はちょっと違うわ! すぐに良妻になってやるんだからね!」

 言いたいことを言い切ると、天子は家から飛び出していった。
 多分は花嫁修業でもしに行ったのだろう。

「……はぁ、相変わらずせっかちな子ねぇ」

 一人になった紫はため息をついて肩を落とした。
 けれどその顔は、心底楽しそうに笑みに溢れている。

「でも、お陰で飽きないわね。ちょっとからかってみたらいい反応するんだから」

 手元に目を向けてみると、光る画面の中でキャス狐が笑顔でこちらに向いていた。
 このまままたキャス狐とゲームの中で戯れるのもいいかもしれない。
 だが、今日はもうなんだかお腹一杯だ。

「所詮ゲームはゲーム。現実の相手には勝てないわね」

 紫はPSPの電源を静かに落とすと、スキマの中にしまいこむ。

 今頃天子は、自分のためにどんなことをしているだろう。
 次に合った時、天子は自分にどんなことをしてくれるだろう。

 それを考えただけで、ゲームをしていた時は比べ物にならないくらいの嬉しさがこみ上げてきた。



 ◇ ◆ ◇



「うー、悔しい! 悔しいわ、あんなのに負けて!」

 紫の家を出た天子は、空を飛びながらひたすら悪態を吐いていた。
 悔しさを吐き出して、自分の力に変えていく。

「これからどうしようかなー……確か天界でも、ウズメちゃんのお料理教室とかやってたから、そっち行ってみようかな。あと家事のやり方とかも勉強して……」

 今後の計画を練りながら、はたと疑問が沸いてきた。
 そもそも自分は、何のためにこんなことをしているんだったか。

「……まぁ、良いや何でも」

 最初の理由なんか忘れたけど。
 多分、良妻の真似なんかできたら、紫がちょっとだけ喜んでくれるかも。

「なら、それで頑張る価値はあるかな」

 あまりグダグダ考えても楽しくない。
 思考を単純化、あくまで紫のことだけ考える。

 あのうさんくさい表情が、笑みに変わることを想像すれば、それだけで前向きな気持ちになれるのだった。
 ウズメちゃんのお料理教室にて

???「よっしゃー、これでご主人様の胃袋をしっかりゲッチュです! ツンデレ娘やぺったんホムンクルス、ヤンデレーズなんかに渡しませんよー!!」
天子「なんかあの狐、ゲームのキャス狐に似てるわね」



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 CCCをずっとやっていたら何故か思いついたネタ。
 しかし実際にキャス狐が嫁に来ても、ゆかりんが言ってるほど楽な生活はできない気もする。ToLoveるの種的な意味で。

 このSSを書いて出た結論、キャス狐は良妻かわいい俺の嫁。浮気したらコロコロされるけど。
 あとゆかてんは至上。
電動ドリル
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コメント



0.498600簡易評価
2.28281指導員削除
やはりてんこがゆかりんの嫁なのは確定的に明らか
5.274636指導員削除
作者さんのゆかてんは好物