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ゆうかりんと眺める夜空

2013/04/01 22:37:49
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季節は春。
薄寒い季節が雪解けと共に過ぎ去り、暖かな陽気が再び幻想郷に巡って参りました。
この季節になると人も妖怪も皆、桜の木の下に集まり、酒を呑んで騒ぎ始めるのです。
陽光に照らしだされた桜の花の淡い桃色は、 生き物を引き付ける魅力を持っているのでした。

お日様が顔を出している時の花見も良いですが、夜に行われる花見もまた格別です。
月光の下では、桜の花は白く浮かび上がり、見る者に様々な感情を抱かせるのでした。
その中で散っていく桜の花は、まるで雪のようでもありました。
また、夜に楽しむのは月や桜だけではありません。
真っ暗な空に輝く星々もまた、生き物を楽しませるのです。 
夜空の星は、黒い布に宝石をばら撒いたかのように輝いております。
かと思いきや、宝石細工の職人が一個一個丁寧に埋め込んだかのように並ぶ星々―――人々はそれを星座として、古くから語り継がれる神話になぞらえて親しんできたのでした。

「ホラゆうかりん、あれが春の大三角だよ」
「その『ゆうかりん』って呼ぶのを止めて貰えるかしら」

私は今、幻想郷の孤高の妖怪、「ゆうかりん」こと風見幽香さんと夜のお花見を楽しんでいる所です。
「夜のお花見」と書くと、どこか妖しい雰囲気を醸し出してステキですね。

「そしてあれが北斗七星だよ。北斗七星の脇で小さく輝く星を見ると謎の死を遂げるらしいよ」
「じゃあ、私は死ぬのかしら」

どうやら、ゆうかりんには北斗七星の脇にひっそりと輝く小さな星が見えるようです。
流石は幻想郷最強の妖怪、視力も抜群のようです。

「ゆうかりんのことだから、見えても死ぬことはないよ。ましてや変死することはないと思うよ」
「だから、その『ゆうかりん』というのを止めなさい」

ゆうかりんは幻想郷No.1なので、謎の死を遂げることはないという、私の持論は夜空に溶けていきました。
こうやって消えていった言霊は空中を漂い、最終的に神子さんとかいう聖人のもとに辿り着くらしいです。
神子さんは色々な人の欲望が聞こえるそうで、偶に訳の分からない欲望が耳に入ってきて、最近はうんざりすることが多くなったそうです。
この話は、稗田さんちの阿求さんから聞いたのですが、恐らく5割増しで話を盛っていると思われます。

「ねえゆうかりん、星も永遠に輝き続ける訳ではないらしいよ」
「次また『ゆうかりん』と呼んだら容赦しないわよ」

星でさえ永遠ではない―――まして地上に生きる生き物では尚更でしょう。
ちょっとセンチメンタルな気分になって参りました。

「ゆうかりん、こんな気分の時には何か体を動かしたくなるね」
「言ったわね」 

ゆうかりんは明らかに怒っていました。
ゆうかりんは「ゆうかりん」と呼ばれると気恥ずかしくてついツンツンしちゃうって阿求さんが言っていたはずなのに、これじゃあツンツンどころか憤怒じゃないか、と思いましたが、紳士な私はここで引き下がったりしません。

「じゃあ僕と鬼ごっこだ」
「いいわよ」

気が付くと、私はゆうかりんと夜空の下で鬼ごっこをしておりました。
私は、北斗七星を目掛けて走り続けました。
後ろからは幻想郷のさでずむ担当、ゆうかりんがとても良い笑顔で追いかけてくるのでした。
これが全力疾走でなければ、私は美しい幻想の風景とゆうかりんの笑顔をゆっくり楽しめるというのに。
自慢ではありませんが、私はかつて33丈(約100m)を11秒台で駆け抜けるほどの韋駄天っぷりを発揮していたのですが、膝の靭帯を切ってから13秒台にまで落ちてしまいました。

「ハァ……ハァ……やっと里に着いたぞ……」

気が付くと人里に到着しておりました。
もう夜も深くなっており、里では人影もまばらで、しんと静まり返っておりました。
そういえば、と思って後ろを振り向くと、そこにゆうかりんはおりませんでした。
ほっと安心しましたが、ゆうかりんがいないというその事実にほんのちょっと寂しさを感じたりもしました。

呼吸が整って冷静になってくると、ピュアで紳士な私に意味不明なホラを吹いた阿求さんに怒りが湧いてきました。
よくよく考えると、孤高の存在であるゆうかりんが「ゆうかりん」と呼ばれて怒らない訳がありません。
今から稗田さんちに行って、住居不法侵入を遂行し、阿求さんに寝起きドッキリを仕掛けようとしましたが、その時、後ろから物音がしたので振り返りました。
そこには愛しのゆうかりんが立っておりました。
どことなく息切れしているようです。
そう言えば私が全力疾走している間、ゆうかりんも全力疾走していたのですが、何故か追いつかれなかったのが妙に印象に残っております。

「ぜー……ぜー……やっと追いついたわ……」
「もしかしてさ、ゆうかりんって足遅い?」
「……人間如きに本気を出すのも可哀そうだと思ったからよ」

確かに、本気を出せばゆうかりんは飛べるし、走るにしたって妖怪の超体力で以って私を一瞬の内に仕留めることも可能でしょうから手加減していたと言えるでしょう。
この場はそういうことにしておきます。

「さあ、覚悟しなさい」
「じゃあ僕と鬼ごっこだ」

リアル鬼ごっこ第2ラウンド開始―――
その時のゆうかりんの絶望した表情は今でも忘れられません。
最終的に寝ている阿求ちゃんをサクリファイスにして逃げ切ったとのことです。
ほかほか戦士
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