つくしは激怒した。
必ず、かの邪智暴虐の市長を除かなければならぬと決意した。
つくしには政治がわからぬ。
つくしは、村の書店員である。
本を読み、アリスの画像を収集して暮して来た。
けれどもエロに対しては、人一倍に敏感であった。
きょう未明つくしは村を出発し、野を越え山越え、十里はなれた此のオオサカにやって来た。
つくしには父と母はいたが、女房は無かった。
父母と、十六の内気な妹と四人暮しだ。
この妹は、村の或る律気な一社会人を、近々、花婿として迎える事になっていた。
結婚式も間近かなのである。
つくしは、それゆえ、アリスの同人誌を買いに、はるばるオオサカのメロンブックスにやって来たのだ。
先ず、その品々を買い集め、それから市の大路をぶらぶら歩いた。
つくしには竹馬の友があった。キリュウンティウスである。
今は此のオオサカの市で、ニンジャをしている。
その友を、これから訪ねてみるつもりなのだ。
久しく逢わなかったのだから、訪ねて行くのが楽しみである。
歩いているうちにつくしは、まちの様子を怪しく思った。
ひっそりしている。もう既に日も落ちて、まちの暗いのは当りまえだが、けれども、なんだか、夜のせいばかりでは無く、市全体が、やけに寂しい。
のんきなつくしも、だんだん不安になって来た。
路で逢った若い衆をつかまえて、何かあったのか、二年まえに此の市に来たときは、夜でも皆が歌をうたって、まちは賑やかであった筈だが、と質問した。
若い衆は、首を振って答えなかった。
しばらく歩いて老爺に逢い、こんどはもっと、語勢を強くして質問した。
老爺は答えなかった。
つくしは両手で老爺のからだをゆすぶって質問を重ねた。
老爺は、あたりをはばかる低声で、わずか答えた。
「市長は、エロを規制します。」
「なぜ規制するのだ。」
「助平心を抱いている、というのですが、誰もそんな、助平心を持っては居りませぬ。」
「たくさんのエロ本を規制したのか。」
「はい、はじめは早苗ちゃんの凌辱同人誌を。それから、永遠亭の不思議な薬が出てくる同人誌を。それから、ゆかれいむ男体化ホモ同人誌を。それから、村人の出てくる同人誌を。それから、咲マリのエロ同人誌を。それから、アリスの出てくる同人誌全般を。」
「おどろいた。市長は乱心か。」
「いいえ、乱心ではございませぬ。エロを、信ずる事が出来ぬ、というのです。このごろは、市民の心をも、お疑いになり、少しく派手なエロス行為をしている者には、同人誌一冊ずつ差し出すことを命じて居ります。御命令を拒めば十字架にかけられて、殺されます。きょうは、六人殺されました。」
聞いて、つくしは激怒した。「呆れた条例だ。生かして置けぬ。」
つくしは、単純な男であった。アリスの同人誌を、背負ったままで、のそのそ市役所にはいって行った。
たちまち彼は、巡邏の職員に捕縛された。
調べられて、つくしの懐中からは「色取りのLove Song」が出て来たので、騒ぎが大きくなってしまった。
つくしは、市長の前に引き出された。
「この同人誌で何をするつもりであったか。言え!」市長のハ○モトは静かに、けれども威厳を以て問いつめた。その職員の顔は蒼白で、眉間の皺は、刻み込まれたように深かった。
「市を条例の手から救うのだ。」とつくしは悪びれずに答えた。
「おまえがか?」市長は、憫笑した。「仕方の無いやつだ。おまえには、わしの孤独がわからぬ。」
「言うな!」とつくしは、いきり立って反駁した。「人の心を疑うのは、最も恥ずべき悪徳だ。市長は、市民の忠誠をさえ疑って居られる。」
「疑うのが、正当の心構えなのだと、わしに教えてくれたのは、おまえたちだ。人の心は、あてにならない。人間は、もともと私欲のかたまりさ。信じては、ならぬ。」市長は落着いて呟き、ほっと溜息をついた。「わしだって、エロスを望んでいるのだが。」
「なんの為のエロスだ。自分の性癖を守る為か。」こんどはつくしが嘲笑した。「罪の無い同人誌を規制して、何がエロスだ。」
「だまれ、下賤の者。」市長は、さっと顔を挙げて報いた。「口では、どんな清らかな事でも言える。わしには、人の腹綿のエロスが見え透いてならぬ。おまえだって、いまに、磔になってから、泣いて詫びたって聞かぬぞ。」
「ああ、市長は利口だ。自惚れているがよい。私は、ちゃんと死ぬる覚悟で居るのに。命乞いなど決してしない。ただ、――」と言いかけて、つくしは足もとに視線を落し瞬時ためらい、「ただ、私に情をかけたいつもりなら、処刑までに三日間の日限を与えて下さい。たった一人の脳内妹に、亭主を持たせてやりたいのです。三日のうちに、私は村で結婚式を挙げさせ、さっき買ったアリスの同人誌を堪能し、必ず、ここへ帰って来ます。」
「ばかな。」と市長は、しわがれた声で低く笑った。「とんでもない嘘を言うわい。逃がした小鳥が帰って来るというのか。」
「そうです。帰って来るのです。」つくしは必死で言い張った。「私は約束を守ります。私を、三日間だけ許して下さい。妹が、アリスの同人誌が、私の帰りを待っているのだ。そんなに私を信じられないならば、よろしい、この市にキリュウンティウスというニンジャがいます。私の無二の友人だ。あれを、人質としてここに置いて行こう。私が逃げてしまって、三日目の日暮まで、ここに帰って来なかったら、あの友人を絞め殺して下さい。たのむ、そうして下さい。」
それを聞いて市長は、残虐な気持で、そっとほくそ笑んだ。生意気なことを言うわい。どうせ帰って来ないにきまっている。この嘘つきに騙された振りして、放してやるのも面白い。そうして身代りの男を、三日目に殺してやるのも気味がいい。人は、これだから信じられぬと、わしは悲しい顔して、その身代りの男を磔刑に処してやるのだ。世の中の、正直者とかいう奴輩にうんと見せつけてやりたいものさ。
「願いを、聞いた。その身代りを呼ぶがよい。三日目には日没までに帰って来い。おくれたら、その身代りを、きっと殺すぞ。ちょっとおくれて来るがいい。おまえの罪は、永遠にゆるしてやろうぞ。」
「なに、何をおっしゃる。」
「はは。いのちが大事だったら、おくれて来い。おまえの心は、わかっているぞ。」
つくしは口惜しく、地団駄踏んだ。ものも言いたくなくなった。
竹馬の友、キリュウンティウスは、深夜、市役所に召された。
市長ハ○モトの面前で、よき友とよき友は、二年ぶりで相逢うた。
つくしは、友に一切の事情を語った。
キリュウンティウスは無言でうなずき、つくしをひしと抱きしめた。
友と友の間は、それでよかった。
キリュウンティウスは、縄打たれ、興奮した。
つくしは、すぐに出発した。初夏、満天の星である。
つくしはその夜、一睡もせず十里の路を急ぎに急いで、村へ到着したのは、あくる日の午前、陽は既に高く昇って、村人たちは野に出て仕事をはじめていた。
つくしの十六の脳内妹も、きょうは兄の代りにマリアリの番をしていた。
よろめいて歩いて来る兄の、疲労困憊の姿を見つけて驚いた。
そうして、うるさく兄に質問を浴びせた。
「なんでも無い。」つくしは無理に笑おうと努めた。「市に用事を残して来た。またすぐ市役所に行かなければならぬ。あす、おまえの結婚式を挙げる。早いほうがよかろう。」
脳内妹は頬をあからめた。
「うれしいか。綺麗な衣裳も買って来た。さあ、これから行って、村の人たちに知らせて来い。結婚式は、あすだと。」
つくしは、また、よろよろと歩き出し、家へ帰って神々の祭壇を飾り、祝宴の席を調え、間もなく床に倒れ伏し、呼吸もせぬくらいの深い眠りに落ちてしまった。
眼が覚めたのは夜だった。
つくしは起きてすぐ、脳内花婿の家を訪れた。
そうして、少し事情があるから、結婚式を明日にしてくれ、と頼んだ。
脳内婿の牧人は驚き、それはいけない、こちらには未だ何の仕度も出来ていない、ゆかれいむの季節まで待ってくれ、と答えた。
つくしは、待つことは出来ぬ、どうか明日にしてくれ給え、と更に押してたのんだ。
脳内婿の牧人も頑強であった。なかなか承諾してくれない。
夜明けまで議論をつづけて、やっと、どうにか脳内婿をなだめ、すかして、説き伏せた。
結婚式は、真昼に行われた。
脳内新郎新婦の、神々への宣誓が済んだころ、黒雲が空を覆い、ぽつりぽつり雨が降り出し、やがて車軸を流すような大雨となった。
祝宴に列席していた村人たち(罪袋)は、何か不吉なものを感じたが、それでも、めいめい気持を引きたて、狭い家の中で、むんむん蒸し暑いのもこらえ、陽気に歌をうたい、手をうった。
つくしも、満面に喜色をたたえ、しばらくは、市長ハ○モトとのあの約束をさえ忘れていた。
祝宴は、夜に入っていよいよ乱れ華やかになり、人々は、外の豪雨を全く気にしなくなった。つくしは、一生このままここにいたい、と思った。この佳い人たちと生涯暮して行きたいと願ったが、いまは、自分のからだで、自分のものでは無い。ままならぬ事である。
つくしは、わが身に鞭打ち、ついに出発を決意した。
あすの日没までには、まだ十分の時が在る。
ちょっと一眠りして、それからすぐに出発しよう、と考えた。
その頃には、雨も小降りになっていよう。
少しでも永くこの家に愚図愚図とどまっていたかった。
つくしほどの男にも、やはり未練の情というものは在る。
今宵呆然、歓喜に酔っているらしい花嫁に近寄り、
「おめでとう。私は疲れてしまったから、ちょっとご免こうむって眠りたい。眼が覚めたら、すぐに市に出かける。大切な用事があるのだ。私がいなくても、もうおまえには優しい亭主があるのだから、決して寂しい事は無い。おまえの兄の、一ばんきらいなものは、浮気と、それから、アリスアンチだ。おまえも、それは、知っているね。亭主との間に、どんな秘密でも作ってはならぬ。おまえに言いたいのは、それだけだ。おまえの兄は、たぶん偉い男なのだから、おまえもその誇りを持っていろ。」
脳内花嫁は、夢見心地でうなずいた。
つくしは、それから脳内花婿の肩をたたいて、
「仕度の無いのはお互さまさ。私の家にも、宝といっては、妹とアリスの同人誌だけだ。他には、何も無い。全部あげよう。もう一つ、つくしの弟になったことを誇ってくれ。」
脳内花婿はもみ手して、てれていた。
つくしは笑って村人たちにも会釈して、宴席から立ち去り、羊小屋にもぐり込んで、死んだように深く眠った。
……。
…………。
………………。
「ハッ・・・ドリームか・・・」
アリス「ほらあなた、ごはんできたわよ♪」
つくし「ああ、今行く」
こうしてまた、一日が始まる。
夢と希望に満ちた新しい日々は、愛のもたらすエネルギィを糧に、続いてゆく。
アリスにおはようのバード・キッスを捧げ、つくしは今日もアリス画像収集の仕事に勤しむのだった……。
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必ず、かの邪智暴虐の市長を除かなければならぬと決意した。
つくしには政治がわからぬ。
つくしは、村の書店員である。
本を読み、アリスの画像を収集して暮して来た。
けれどもエロに対しては、人一倍に敏感であった。
きょう未明つくしは村を出発し、野を越え山越え、十里はなれた此のオオサカにやって来た。
つくしには父と母はいたが、女房は無かった。
父母と、十六の内気な妹と四人暮しだ。
この妹は、村の或る律気な一社会人を、近々、花婿として迎える事になっていた。
結婚式も間近かなのである。
つくしは、それゆえ、アリスの同人誌を買いに、はるばるオオサカのメロンブックスにやって来たのだ。
先ず、その品々を買い集め、それから市の大路をぶらぶら歩いた。
つくしには竹馬の友があった。キリュウンティウスである。
今は此のオオサカの市で、ニンジャをしている。
その友を、これから訪ねてみるつもりなのだ。
久しく逢わなかったのだから、訪ねて行くのが楽しみである。
歩いているうちにつくしは、まちの様子を怪しく思った。
ひっそりしている。もう既に日も落ちて、まちの暗いのは当りまえだが、けれども、なんだか、夜のせいばかりでは無く、市全体が、やけに寂しい。
のんきなつくしも、だんだん不安になって来た。
路で逢った若い衆をつかまえて、何かあったのか、二年まえに此の市に来たときは、夜でも皆が歌をうたって、まちは賑やかであった筈だが、と質問した。
若い衆は、首を振って答えなかった。
しばらく歩いて老爺に逢い、こんどはもっと、語勢を強くして質問した。
老爺は答えなかった。
つくしは両手で老爺のからだをゆすぶって質問を重ねた。
老爺は、あたりをはばかる低声で、わずか答えた。
「市長は、エロを規制します。」
「なぜ規制するのだ。」
「助平心を抱いている、というのですが、誰もそんな、助平心を持っては居りませぬ。」
「たくさんのエロ本を規制したのか。」
「はい、はじめは早苗ちゃんの凌辱同人誌を。それから、永遠亭の不思議な薬が出てくる同人誌を。それから、ゆかれいむ男体化ホモ同人誌を。それから、村人の出てくる同人誌を。それから、咲マリのエロ同人誌を。それから、アリスの出てくる同人誌全般を。」
「おどろいた。市長は乱心か。」
「いいえ、乱心ではございませぬ。エロを、信ずる事が出来ぬ、というのです。このごろは、市民の心をも、お疑いになり、少しく派手なエロス行為をしている者には、同人誌一冊ずつ差し出すことを命じて居ります。御命令を拒めば十字架にかけられて、殺されます。きょうは、六人殺されました。」
聞いて、つくしは激怒した。「呆れた条例だ。生かして置けぬ。」
つくしは、単純な男であった。アリスの同人誌を、背負ったままで、のそのそ市役所にはいって行った。
たちまち彼は、巡邏の職員に捕縛された。
調べられて、つくしの懐中からは「色取りのLove Song」が出て来たので、騒ぎが大きくなってしまった。
つくしは、市長の前に引き出された。
「この同人誌で何をするつもりであったか。言え!」市長のハ○モトは静かに、けれども威厳を以て問いつめた。その職員の顔は蒼白で、眉間の皺は、刻み込まれたように深かった。
「市を条例の手から救うのだ。」とつくしは悪びれずに答えた。
「おまえがか?」市長は、憫笑した。「仕方の無いやつだ。おまえには、わしの孤独がわからぬ。」
「言うな!」とつくしは、いきり立って反駁した。「人の心を疑うのは、最も恥ずべき悪徳だ。市長は、市民の忠誠をさえ疑って居られる。」
「疑うのが、正当の心構えなのだと、わしに教えてくれたのは、おまえたちだ。人の心は、あてにならない。人間は、もともと私欲のかたまりさ。信じては、ならぬ。」市長は落着いて呟き、ほっと溜息をついた。「わしだって、エロスを望んでいるのだが。」
「なんの為のエロスだ。自分の性癖を守る為か。」こんどはつくしが嘲笑した。「罪の無い同人誌を規制して、何がエロスだ。」
「だまれ、下賤の者。」市長は、さっと顔を挙げて報いた。「口では、どんな清らかな事でも言える。わしには、人の腹綿のエロスが見え透いてならぬ。おまえだって、いまに、磔になってから、泣いて詫びたって聞かぬぞ。」
「ああ、市長は利口だ。自惚れているがよい。私は、ちゃんと死ぬる覚悟で居るのに。命乞いなど決してしない。ただ、――」と言いかけて、つくしは足もとに視線を落し瞬時ためらい、「ただ、私に情をかけたいつもりなら、処刑までに三日間の日限を与えて下さい。たった一人の脳内妹に、亭主を持たせてやりたいのです。三日のうちに、私は村で結婚式を挙げさせ、さっき買ったアリスの同人誌を堪能し、必ず、ここへ帰って来ます。」
「ばかな。」と市長は、しわがれた声で低く笑った。「とんでもない嘘を言うわい。逃がした小鳥が帰って来るというのか。」
「そうです。帰って来るのです。」つくしは必死で言い張った。「私は約束を守ります。私を、三日間だけ許して下さい。妹が、アリスの同人誌が、私の帰りを待っているのだ。そんなに私を信じられないならば、よろしい、この市にキリュウンティウスというニンジャがいます。私の無二の友人だ。あれを、人質としてここに置いて行こう。私が逃げてしまって、三日目の日暮まで、ここに帰って来なかったら、あの友人を絞め殺して下さい。たのむ、そうして下さい。」
それを聞いて市長は、残虐な気持で、そっとほくそ笑んだ。生意気なことを言うわい。どうせ帰って来ないにきまっている。この嘘つきに騙された振りして、放してやるのも面白い。そうして身代りの男を、三日目に殺してやるのも気味がいい。人は、これだから信じられぬと、わしは悲しい顔して、その身代りの男を磔刑に処してやるのだ。世の中の、正直者とかいう奴輩にうんと見せつけてやりたいものさ。
「願いを、聞いた。その身代りを呼ぶがよい。三日目には日没までに帰って来い。おくれたら、その身代りを、きっと殺すぞ。ちょっとおくれて来るがいい。おまえの罪は、永遠にゆるしてやろうぞ。」
「なに、何をおっしゃる。」
「はは。いのちが大事だったら、おくれて来い。おまえの心は、わかっているぞ。」
つくしは口惜しく、地団駄踏んだ。ものも言いたくなくなった。
竹馬の友、キリュウンティウスは、深夜、市役所に召された。
市長ハ○モトの面前で、よき友とよき友は、二年ぶりで相逢うた。
つくしは、友に一切の事情を語った。
キリュウンティウスは無言でうなずき、つくしをひしと抱きしめた。
友と友の間は、それでよかった。
キリュウンティウスは、縄打たれ、興奮した。
つくしは、すぐに出発した。初夏、満天の星である。
つくしはその夜、一睡もせず十里の路を急ぎに急いで、村へ到着したのは、あくる日の午前、陽は既に高く昇って、村人たちは野に出て仕事をはじめていた。
つくしの十六の脳内妹も、きょうは兄の代りにマリアリの番をしていた。
よろめいて歩いて来る兄の、疲労困憊の姿を見つけて驚いた。
そうして、うるさく兄に質問を浴びせた。
「なんでも無い。」つくしは無理に笑おうと努めた。「市に用事を残して来た。またすぐ市役所に行かなければならぬ。あす、おまえの結婚式を挙げる。早いほうがよかろう。」
脳内妹は頬をあからめた。
「うれしいか。綺麗な衣裳も買って来た。さあ、これから行って、村の人たちに知らせて来い。結婚式は、あすだと。」
つくしは、また、よろよろと歩き出し、家へ帰って神々の祭壇を飾り、祝宴の席を調え、間もなく床に倒れ伏し、呼吸もせぬくらいの深い眠りに落ちてしまった。
眼が覚めたのは夜だった。
つくしは起きてすぐ、脳内花婿の家を訪れた。
そうして、少し事情があるから、結婚式を明日にしてくれ、と頼んだ。
脳内婿の牧人は驚き、それはいけない、こちらには未だ何の仕度も出来ていない、ゆかれいむの季節まで待ってくれ、と答えた。
つくしは、待つことは出来ぬ、どうか明日にしてくれ給え、と更に押してたのんだ。
脳内婿の牧人も頑強であった。なかなか承諾してくれない。
夜明けまで議論をつづけて、やっと、どうにか脳内婿をなだめ、すかして、説き伏せた。
結婚式は、真昼に行われた。
脳内新郎新婦の、神々への宣誓が済んだころ、黒雲が空を覆い、ぽつりぽつり雨が降り出し、やがて車軸を流すような大雨となった。
祝宴に列席していた村人たち(罪袋)は、何か不吉なものを感じたが、それでも、めいめい気持を引きたて、狭い家の中で、むんむん蒸し暑いのもこらえ、陽気に歌をうたい、手をうった。
つくしも、満面に喜色をたたえ、しばらくは、市長ハ○モトとのあの約束をさえ忘れていた。
祝宴は、夜に入っていよいよ乱れ華やかになり、人々は、外の豪雨を全く気にしなくなった。つくしは、一生このままここにいたい、と思った。この佳い人たちと生涯暮して行きたいと願ったが、いまは、自分のからだで、自分のものでは無い。ままならぬ事である。
つくしは、わが身に鞭打ち、ついに出発を決意した。
あすの日没までには、まだ十分の時が在る。
ちょっと一眠りして、それからすぐに出発しよう、と考えた。
その頃には、雨も小降りになっていよう。
少しでも永くこの家に愚図愚図とどまっていたかった。
つくしほどの男にも、やはり未練の情というものは在る。
今宵呆然、歓喜に酔っているらしい花嫁に近寄り、
「おめでとう。私は疲れてしまったから、ちょっとご免こうむって眠りたい。眼が覚めたら、すぐに市に出かける。大切な用事があるのだ。私がいなくても、もうおまえには優しい亭主があるのだから、決して寂しい事は無い。おまえの兄の、一ばんきらいなものは、浮気と、それから、アリスアンチだ。おまえも、それは、知っているね。亭主との間に、どんな秘密でも作ってはならぬ。おまえに言いたいのは、それだけだ。おまえの兄は、たぶん偉い男なのだから、おまえもその誇りを持っていろ。」
脳内花嫁は、夢見心地でうなずいた。
つくしは、それから脳内花婿の肩をたたいて、
「仕度の無いのはお互さまさ。私の家にも、宝といっては、妹とアリスの同人誌だけだ。他には、何も無い。全部あげよう。もう一つ、つくしの弟になったことを誇ってくれ。」
脳内花婿はもみ手して、てれていた。
つくしは笑って村人たちにも会釈して、宴席から立ち去り、羊小屋にもぐり込んで、死んだように深く眠った。
……。
…………。
………………。
「ハッ・・・ドリームか・・・」
アリス「ほらあなた、ごはんできたわよ♪」
つくし「ああ、今行く」
こうしてまた、一日が始まる。
夢と希望に満ちた新しい日々は、愛のもたらすエネルギィを糧に、続いてゆく。
アリスにおはようのバード・キッスを捧げ、つくしは今日もアリス画像収集の仕事に勤しむのだった……。
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もうこれどっちがつくし氏でどっちがTaku氏なのかわかんねえな
あ~
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